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» 2002年04月12日 12時00分 UPDATE

IT Business フロントライン (77):メガバンクに見るITへの意識 UFJの失敗に学ばなかったみずほから何を学ぶか?

[磯和春美(毎日新聞社),@IT]

 4月1日、満を持して発足したはずのみずほフィナンシャルグループに生じたシステムトラブルは、1週間にわたる混乱の末、経営トップが国会から異例の参考人招致を受けるというおまけまで付け加えて、ようやく収束に向かいつつある。それにしても、金融機関の信用を著しく傷つけ、人々の警戒心を高めてしまった今回の決済トラブルの影響は大きい。

 みずほの関係者や金融当局への取材を重ねると、聞こえてくるのはやはり「3行の不協和音」が原因との声ばかり。肝心の銀行トップは、今回のトラブルが金融機関におけるIT意識の低さを露呈したことにも気づいていない様子だ。日本における金融再編は、単なる規模の追求にすぎないことが改めて分かったことだけが収穫といえようか。

新銀行誕生にミソをつけた大トラブル

 このトラブルは1日、みずほ銀行みずほコーポレート銀行の発足直後に始まった。みずほグループは日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行の3行が合併するため、当初から組織や決済システムなどのすり合わせに時間がかかると指摘されていた。そのため、3月最終週の週末は異例の措置として金曜日午後10時からATM(現金自動預け払い機)をストップし、試験を繰り返して準備を整えていたはずだったのだ。

 ところが、実際には1日午前8時のATM稼働直後から、旧富士銀のキャッシュカードが旧第一勧銀の機械で使えなかったり、他行あての振り込みができなくなったりといったトラブルが相次いだ。みずほのATMは全国に約7000台あり、うち旧富士銀系は3400台、旧第一勧銀系は3500台。ATMコーナーでは長蛇の列をさばくため行員が何人も走り回り、開業初日の華やかなムードに水を差した。

 トラブルはこれにとどまらず、4日には口座振替が遅滞していることが発覚。東京電力や関西電力、東京ガス、NTTなど、公共料金で100万件単位の遅れが確認された。おまけに翌日には、クレジットカードなどでの購入代金を二重に引き落とすミスが発生していたことが分かった。みずほはあわてて緊急対策本部(本部長・前田晃伸社長)を設置したが、トラブルの続発により、週末もみずほの電話受付には利用者からの問い合わせが殺到。グループの決済システムへの信認が大きく揺らいでしまった。

トラブルの根源には“内紛”?

 このトラブルの直接の原因は、システムとシステムを接続するコンピュータの不具合だ。みずほの統合前のリテール(小口取り引き)用の勘定系システムは、第一勧銀が富士通、富士銀は日本IBM、興銀は日立製作所製で互換性はなかった。当初は第一勧銀のシステムに統合する予定があったが、計画が二転三転するなどして、3000万口座のデータを統一する時間的余裕がなくなり、当面は互いのシステム同士を接続するリレーコンピュータを設置してしのぐことになった。このリレーコンピュータが正常に動作しなかった。また、これとは別に振替システムにも問題が発生しているという。

 似たようなことは、ほかの統合メガバンクでも起きている。今年1月に三和、東海の両行が合併したUFJ銀行は、発足直後に公共料金の二重引き落としなどのシステム障害が起きた。両行の場合はともに日立を採用していたのだが、それでもデータ処理の過程の微妙な処理手順の相違がトラブルを生んだ。

 今回のトラブルを生んだ背景には、第一勧銀、富士銀、日本興業銀行間の不協和音があったとささやかれている。最初にトラブルが発生した東京都渋谷区の事務センターは第一勧銀のシステムが使われていた。ここでのトラブル発生時、富士銀や興銀関係者はシステム自体の構造をよく知らないことを理由に処理のフォローや対策にも消極的だったと話す関係者がいる。確かに、銀行SEにとっては自行のシステム以外は分かりにくいが、この態度は内情を知らない利用者には理解しがたいものだ。

問題は技術力ではなく、トップ・マネジメント力

 企業の合併・統合が相次ぐ日本で、こうした企業の「IT統合」が大きな障害になっている例は珍しくない。会計や給与システムなど一般企業の基幹システムですら、数億円をかけて設置したシステムが合併・統合で廃棄されたり、新システムを開発しなければならないはめになるわけだから、銀行のオンラインシステムのような、心臓部ともいえる決済システムでは本来、統一されたシステムに全面的に移行すべきなのだろう。しかし、移行はトラブルを防ぐことができるかもしれないが、1000億円規模の投資が必要になる。

 これまで銀行システムの開発に関して、それぞれの銀行も開発メーカーも統合や互換性を視野に入れることはほとんどなかった。ごく最近でこそ“オープン”を売り物にするソリューションが登場しているが、それだけを理由にシステムを移行するという決断はなかなかできないだろう。

 企業の再編・統合の動きの中で、IT分野の統合をトップ・プライオリティとして考える日本の企業トップはまだまだ少数派のようだ。みずほグループの持ち株会社であるみずほホールディングスの前田晃伸社長は、参考人として出席した衆議院財務金融委員会でも「利用者に直接的な実害が出ているということではない」などと発言、ことの重大さに対する無理解をさらけだしてしまった。

 さまざまな要因がからみあっているとはいえ、今回のトラブルの引き金は一にも二にも「準備不足」。一般の利用者が感じた「どうなってるの?」という情けなくも不信に満ちた印象は拭えない。「堤防がアリの穴から決壊する」とのたとえもあるが、信用第一の業界でメガバンクを標榜するみずほにとって、この信用失墜は尾を引きそうだ。

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