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» 2004年04月02日 12時00分 UPDATE

システム部門Q&A(6):ERPのカスタマイズを最小限に抑えるには

ERPパッケージの導入にあたってはカスタマイズを抑えることが成功の秘訣だといわれている。しかしエンドユーザーからのカスタマイズ要求をすべて退けることは不可能だ。情報システム部門はどういう対処をすべきなのか。

[木暮 仁,@IT]

質問

情報システム部門の管理者です。ERPパッケージの導入では、カスタマイズを極力行わないことが成功の秘訣だといわれています。しかし「もっと業務に合わせたシステムにしてほしい」という利用部門の要求を拒否することは困難だとも思われます。どのような対処をすればよいのでしょうか。


 ERPパッケージの適用範囲を限定すること、情報検索系システム(データウェアハウス)の普及が効果的です。

質問内容を教科書的に敷延すると……

 ここでのカスタマイズとは、

  • ERPパッケージの機能を変更・追加すること
  • アドオンもしくはモディフィケーションといわれるもの

を指すこととします。

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 カスタマイズをするのは、独自の機能を作ることですから、費用や労力が掛かり、ERPパッケージの利点を失うことになります。さらにERPパッケージごとに固有の言語を利用することになるために、通常のプログラム開発よりも費用が掛かりますし、製品のバージョンアップがあれば、そのたびに確認テストをする必要もあります。「カスタマイズをするな」は、ERPパッケージ導入での最大の要点といえます。

 基幹業務系システムは業務の仕方を規制します。業務を改革するためのインフラともいえます。それで「理想的な業務プロセス」を策定して、それに合致した情報システムを構築することが重要です。業務をよく知り、その改善・革新に最も関心を持っているのは対象業務部門なので、そのニーズを忠実に実現することが重要であるといわれてきました。すなわち「ユーザー主導」の情報システム構築だったといえます。

 ところが「カスタマイズをするな」とは、「業務の仕方をERPパッケージの仕様に合わせて変更せよ」ということであり、足を靴に合わせることになります。従来の情報システム構築論の基本がコペルニクス的転換を迫られたことになります。

 本来、業務の仕方は利用部門の意見よりも、経営戦略に合致しなければなりません。根本的な業務改革を行うのには、利用部門の狭い観点からのニーズよりも、成功企業のベストプラクティスや専門家の意見などを広く取り入れる方が適切です。それらを取り入れたERPパッケージに合わせる方が業務改革をするのに適しています。

 いわば、カスタマイズなしのERPパッケージ利用は「経営主導」の情報システム構築論であるといえます。「ユーザー主導から経営主導へ」と考えるならば、より妥当な変化だといえます。さらにうがった表現をすれば、企業規模が拡大する時代の情報システムは、企業にとっても社員にとっても望ましいものでした。ところが部門の廃止やリストラを実現するための情報システム構築では、その対象となるユーザーの協力は得られませんから、「ユーザー主導」は成立しなくなったともいえましょう。

 自社に合致したERPパッケージを選択し、業務をそれに合致させるためには、経営者の積極的なリーダーシップが必要だといわれます。それが正しいことはいうまでもありません。しかし現実には、経営者が適切なERPパッケージを評価できるとは思えませんし、ユーザーニーズを全面的に抑えたら、実際には使い物にならない情報システムになる危険もあります。

カスタマイズが発生する理由

 業務ニーズに合致したERPパッケージを選択することが重要です。そのためには業務ニーズとERPパッケージ機能の合致度を調べるフィット&ギャップ分析を行います。そのときに生じた「不一致」が、「業務プロセスの不一致」なのか、「入出力(UI)での不一致」なのかを区別することが重要です。

業務プロセスでの不一致の場合

 販売形態や生産形態が自社独特のビジネスモデルであり、それが自社のコア・コンピタンスであるのに、ERPパッケージにそれを実現する機能がない場合です。日本的な商慣習として、価格が決まらないで取引をするとか、数カ月後になって値引き交渉が行われることがありますが、ERPパッケージ(特に海外製)では、そのような不合理な慣習は認めないので機能として持っていないことがあります。確かに一般論では不合理でしょうが、その取引形態により自社は顧客を獲得し固定化しているのだとすれば、それを放棄してまでERPパッケージに合わせることはできません。必ずしもERPパッケージはその会社にとってベストプラクティスではないのです。

 それを実現できるERPパッケージが発見できなかったときは、むしろERPパッケージによる開発をあきらめた方が無難です。ERPパッケージを導入するにしても、この分野への適用は避けるべきです。

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 もっとも現実には、不要な(避けられる)カスタマイズが多いのが事実です。ERPパッケージの機能をよく検討すれば、解決できる機能を持っているのに、検討の初期段階でカスタマイズを行うことが決定されてしまうことがよくあります。特にSIerの技術者が不勉強なために、解決の方法に気付かずに、安易にカスタマイズで“逃げて”いる場合も多いのです。それを回避するためには、複数のSIerに提案書を提出させて、それらを比較検討するのが効果的です。

入出力(ユーザーインターフェイス)での不一致の場合

 入力画面の推移が不合理だとか、出力帳票のデザインが不適切であるというギャップが多く発生します。ERPパッケージは、汎用性を重視しますので、このような個々の状況により大きく異なるヒューマンインターフェイスについては一般的にお粗末です。ところが業務部門ユーザーはこれらに多大の関心を持ちますので、このギャップによりERPパッケージを否定することが多いのです。

 これらの入出力部分は、できる限りERPパッケージから独立させるべきです。例えば入力の部分はワークフロー管理システム、出力部分は情報検索系システム(データウェアハウス)を利用することにして、ERPパッケージは入力ファイルから出力ファイルまでの中核機能だけに限定するのが適切です。

ERPパッケージの規模を限定する

 とかくERPパッケージには多大な期待をして、どうせ導入するからには、できるだけ多くのことをやらせようと考えるものですし、ベンダもそのように宣伝する傾向にあります。しかしそれはERPパッケージを複雑化・巨大化することになり、ERPパッケージ以外の対策も必要となり、結果として費用や時間の掛かるものにしてしまうのです。

 ERPパッケージの導入を容易にするには、ERPパッケージでカバーする範囲をできるだけ少なくして規模を小さく簡素化するべきです。それにより、カスタマイズを抑えることができます。

バッチでもよい処理はリアルタイムにしない

 業務ニーズよりもERPパッケージの方が多くの機能を持っている場合があります。そのような場合、とかくそれらの機能を取り入れたくなりますが、それがシステムを不要に大規模にしてしまうのです。

 例えばERPパッケージはリアルタイム処理が標準になっていることが多いのですが、それを実現するためにネットワークやサーバを整備するなど、さまざまな対策が必要になります。ところが、業務の多くは必ずしもリアルタイム処理を必要するものばかりではありません。

 それならば、入力処理はパソコンでしてその結果だけをERPパッケージへ送ることもできますし、ワークフロー管理システムの結果をERPパッケージへ送ることもできましょう。出力が翌日以降でよいものならば、データを作成するまでをERPパッケージで行い、各帳票の作成は通常のプログラムで処理すれば多様なデザインが可能になりますし、情報検索系システムのデータに変換しておき、ユーザーが任意の切り口で検索加工できるようにすれば、多様な帳票要求そのものを減らすことができます。

情報検索系システムの普及を前提にする

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 情報検索系システムを普及しておくことは、ユーザーのカスタマイズ要求を減らすことができるだけでなく、ERPパッケージの導入を容易にすることができます。情報検索系システムでは、正規化したファイル群を整備し、ファイルや項目の名称統一や定義をユーザーの観点で明確にすることが基本になります。これができていれば、ERPパッケージでのインプリメンテーション(パラメータの定義)のかなりの部分は、それに合わせるだけの作業になります。ERPパッケージを導入する以前に、現行システムでの情報検索系システムを整備しておくことが効果的なのです。

将来のカスタマイズ要求対策

 適切なERPパッケージが選択できて、利用部門の現状維持的なニーズや趣味的ニーズを排除したとして、それが将来も続くでしょうか? そもそもこれまでの情報システムの開発や保守に費用が掛かっているのは、ユーザーの“カスタマイズ愛好症”と、情報システム部門のガバナンス能力欠如にあるのです。もし利用部門がERPパッケージに対するのと同様に、つまらぬ要求を慎み、情報システム部門が毅然とした態度で情報システムを構築できれば、現行の情報システムはもっと費用も安く、要員も少なくて済んだはずです。

 ERPパッケージの導入フェイズでは、経営者も厳しく監視するのでユーザーニーズを抑えることができますが、導入して数年もたつと経営者の関心が低くなります。そうなるとカスタマイズ愛好症が息を吹き返します。そうなると、気が付かないうちにカスタマイズだらけのシステムになってしまう危険があります。これを防ぐためには、恒久的な監視体制を作る必要があります。例えばERPパッケージへのカスタマイズ要求は、かなり上部の委員会の承認を必要といった制度です。

 とはいえ、あまりにもユーザーニーズを抑制したのでは、ユーザーは困ってしまいます。担当者レベルでのヤミ取引で変更が加えられるような状態になったら最悪です。それを回避するためにも、情報検索系システムの普及は効果的です。

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筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査、ISMS審査員補など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」「情報システム部門再入門」(ともに日科技連出版社)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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