必要なIT投資を経営層に認めてもらうにはITガバナンスの正体(5)(2/4 ページ)

» 2004年05月21日 12時00分 公開
[三原渉(フューチャーシステムコンサルティング),@IT]

「IT投資」の4つの波

プロジェクト投資に注視しなくてはならないこと、そのプロジェクト投資のリターンであるはずの効果・変化を業務部門にコミットメントしてもらわなくてはならないことを述べた。ここでは、プロジェクト投資の中で、特にIT部門がコントロールすべき「IT投資」の歴史とトレンドを簡単に整理しておこう。

■IT投資の第1波(バブル以前〜バブル期まで)〜「業務効率」追求の時代〜

 バブル期までは、IT投資は「業務の自動化・効率化」が中心であった。これを第1波と考える。「業務の自動化・効率化」がなされるならば、それだけ人が削減できる。その分の効果額を算出して、それに見合った額ならば、投資をしよう、という段階だ。

 この当時は、多くの企業では、ITをつかさどる担当は、「システム部」という名称ではなく、「EDP部」「EDP課」として経理部門配下であることも少なくなかった。多くは、経理数値の算出に時間とお金を掛けていた。

■IT投資の第2波(バブル以降〜1998年ごろまで)〜BPR、ERP……などキーワードの時代〜

 第2波は、バブル以降インターネット導入前後(1998年ごろ)までを指す。ホスト集中処理からクライアント/サーバ方式へ移行したり、インターネット技術の萌芽(ほうが)が見え始めたころだ。

 このころ、SISBPRという言葉が聞こえるようになり、ITによる業務改革に目が向けられた。IT投資は、業務改革のための投資という概念になり始めた。「IT投資によってBPRをする」「ERPなどのパッケージを導入しなければ……」「とにかくITだ」「ITを導入しなければ他社に負けてしまう」「ITください」というむちゃくちゃな話があったのもこのころだ。

 システム部門は独立し、独自の予算を持ち始め、そのためにベンダの甘言に惑わされて使わなくてもよいお金を使った企業も多いと思う。この余波は2004年のいまも続いている。

■IT投資の第3波(1998年〜2002年ごろまで)〜eビジネスに踊った時代〜

 インターネット時代に入ると、ITは戦略のためのツールであり、ITと経営は表裏一体、というビジネスモデルに追いつけ、追い越せとなってきた。具体的には、アマゾン・ドットコムやデルなどのビジネスモデルだ。これが1998〜2002年ごろまでの第3波に当たる。

 国内では、システム部門長がCIOと混同される始末。また、クリック(eコマース)とモルタル(本業)のビジネスが分離されて管理されるようになったため、多くの会社でクリックのシステム部長と、モルタルのシステム部長が別々に置かれることもあった。IT投資も分離され、管理が困難になっていた企業も多かった。結果、効果の有無も区別できず、それどころかインターネットビジネスに目を向け過ぎるあまり、各企業のコアビジネス部分の戦略的なIT投資がないがしろになり、企業の根幹に動揺が走った。コアビジネスに自信がある会社ほど、インターネットに踊らされていない。あなたの会社はいかがでしたか。

図1 主な情報システム投資カテゴリー

■IT投資の第4波(2003年〜現在)〜IT投資「選択」と「集中」の時代〜

 そして2003年ごろから第4波が訪れる。つまり現時点である。特にWeb技術を中心にITが進展し、過去に構築したIT資産との融合が可能になってきた。顧客し好やビジネス環境の変化、企業合併などにより、ビジネスはより速く変異・変ぼうを遂げなくてはならず、企業内の情報システムもそのスピードに追従していく必要に迫られた。企業内ではしっかりとした情報基盤が構築されており、ビジネスロジック部分はなるべく小さく、小回りが利き、メンテナンス費用も最小限にとどめられるような仕組み作りが必要になってきた。

 IT投資は、そのような環境や情報基盤を構築する部分=戦略投資に向けられると同時に、小回りの利く業務ロジックの構築=戦略投資と、そのメンテナンス=通常投資に振り分けられてきている。ネットワーク技術がこれまで以上に重要視されるようになってきたし、人や組織の側面も含めたセキュリティ、そしてコンプライアンスという考え方もIT部門・企画部門がつかさどらなくてはならない項目として登場してきた。

 IT部門は企画部門・経営企画室と並行して存在し、全社の業務改革にも携わるようになってきている。必要なプロジェクトのうち、情報システム構築が含まれるものも多くなってきた。各企業で状況は異なるとはいえ、IT部門もその存在意義は、もはやシステム開発そのものができる・できないではなく、プロジェクト企画・推進へと移行してきている。同時にリソースの有効活用の視点から、内製にこだわらず、開発・運用のアウトソーシングも積極的に行われている。ただし情報システムの中身を十分に分かっていなくては積極果敢にはなれない。

 IT視点での企業パフォーマンス(連載第1回の図:「ITガバナンス力」と「情報システム力」参照)でいえば、第2波までは、ほとんどの企業が縦軸ばかりに躍起になっていた。第3波で横軸に気付く企業が出始め、第4波で多くの企業が横軸のITガバナンスを本気になって取り組み始めた、ということだろう。しかしながら、横軸方向へ大きくステップを踏み出している企業はまだまだ少ない。

 この意味では、戦略投資の見積もり手法や、プロジェクトの進ちょく管理、効果のモニタリングといった“IT投資のROI”に目が向けられ始めたともいえる。しかしこうした項目は方法論や仕組みが確立されていない、もしくは難しいためにこれまで“ないがしろ”にされてきた。「先進的」といわれている企業でさえ、“IT投資のROI”は、まだまだ確立されていないのが現状だ。だからこそ、先進のIT技術を早期に取り込み、他社に先駆けビジネス効果をおう歌するためには、これらの確立が急務と考えられる。

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