必要なIT投資を経営層に認めてもらうにはITガバナンスの正体(5)(3/4 ページ)

» 2004年05月21日 12時00分 公開
[三原渉(フューチャーシステムコンサルティング),@IT]

効果的なIT投資・予算の立て方

 マネジメント層からすると、「ITにどれだけお金が掛かっているかよく分からん」「掛けたお金に見合うだけの効果が出ているのか見えない」というのが本音だろう。

 まずは、前出のカテゴリにて、IT投資を区分して整理しておく。少し細かくなるが、携帯電話、PDAの出現で、電話はもはや総務部ではなく、IT部門の管轄になってきているし、FAXやコピー・スキャナの複合機でさえもネットワークを介するので、IT部門でその予算・効果を整理しなくてはならない、ということも忘れないでほしい。

 戦略投資部分については、マネジメント層と今後の計画との整合性や、必要プロジェクト(=ビジネスの目的・目標からの落とし込み)の整理がなされていない限り、算出も難しいし、後々の効果の責任も難しくなる。マネジメント層とのひざを突き合わせた議論が必要だ。その額が妥当なものなのかどうかは、第3者的な意見を求める意味で信頼のおけるコンサルタントに分析してもらうのがよいだろう。

 筆者がアドバイスさせていただいた事例を紹介しよう。その企業では、システム構築だけでなく、業務改革を含んだプロジェクトが進行していた。そこでシステム構築部分だけをSI会社に委託した。その際、ベンダからの見積もり3億5000万円について、筆者が検討・交渉した末、2億円強まで下がったことがあった。

 このようなことはそんなに珍しくなく、似たような依頼・成果は枚挙にいとまがない。コスト削減のために、コンサルタントを自社側に組み込むのは良い手である。計画・見積もりのところだけではなく、プロジェクトの実施・推進時においてスケジュール延長やコスト増加を未然に防ぐには、第三者からのアドバイスは有効な方策の1つであろう。リスクマネジメントの一環とも考えられる。

 ここまで整理してきたら、複数年にわたるであろうプロジェクトの投資・予算整理に頭を悩ませる方も多いはずだ。プロジェクトの予算の立て方も踏まえ、企業のIT投資・予算を

  • 戦略投資
  • 恒常的運用・メンテナンス費用
  • 部門通常投資
  • 部門通常投資(小額)

の4つに分けて考えよう。

図2 年度予算全体像の考え方:全体概要

戦略投資 「複数年にまたがるプロジェクトを単年度に切り分けたもの」と考えて管理する必要がある。どの年のどの四半期に、何がどれくらい必要なのか、プロジェクトの支出項目とスケジュールから逆算していこう。

前述したように、プロジェクトはシステム構築だけではなく、さまざまな側面での活動・支出があるので、このあたりは、信頼の置けるプロのコンサルタントの登場を願うとよいだろう。計画時に、IT部門内・コンサルタント・役員と十分な議論をしておくことが必要だ。
恒常的運用・
メンテナンス費用
新しく出来上がってくる情報システムの運用費も考慮しながら、毎年更新されなくてはならない。

メンテナンス費用は、構築された情報システムをより使いやすくするための費用であるが、個々の情報システムのライフサイクルの考え方にもよるので、一概にどれくらいかは算出が難しい。

パッケージをそのまま素(す)で導入すれば、毎年導入時のパッケージ購入金額の15%程度であるので、この金額を導入時の投資額から算出するというのも1つの手である。
部門通常投資 全社としてのプロジェクトを発足するほどではないが、部門での業務改革に必要なプロジェクトを推進するための投資予算と考えよう。部門で突発的なアイデアが出たときに、バッファとして活用する予算として認めてもらう。予算として支出しなければ、部門の効果・成果として、部門のB/S、P/Lに組み込めばよい。
部門通常投資(小額) 部門独自のプロジェクトまではいかないが、ハードウェアの入れ替えや購入のために予算化しておく。

ただし、購入するものはIT部門が選定した標準のものから選択するか、IT部門に相談しなくてはならないことを事前に共有すること。昨今はどのようなハードウェアであろうが、ネットワークに影響を与えるし、全社のITパフォーマンスに影響を与えかねないからだ。

 上記2項目「戦略投資」「恒常的運用・メンテナンス費用」は、IT部門、ひいては会社全体での投資予算としてマネジメントされなくてはならない。事業部制・カンパニー制を敷いている企業では、部分的に配賦も考慮される部分である。「部門通常投資」「部門通常投資(小額)」は、IT部門との情報共有を前提として、各部門で投資管理してもらう。当然、投資に見合う効果が見込まれなくては、投資は認められないし、効果がなければその部門の成績・評価に直結する。とにかく効果に対するコミットメントがなくては、投資はできない。

 上記のような形で予算を形作ることのできる企業は幸せだ。すぐに上記のような仕組み・区分けができなくても、工夫してマネジメント層との情報共有に努めてほしい。

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