ミクロ経営を実現する製造業のITとは改革現場発!製造業のためのIT戦略論(2)(1/3 ページ)

第1回「“製造業のIT”がうまくいかない理由」では、製品や部品レベルで経営的な打ち手を実行することが重要だと述べた。今回は、そうしたミクロ経営を実現する製造業のシステムの在り方について考えてみたい。

» 2004年06月17日 12時00分 公開
[安村亜紀 (ネクステック),@IT]

編集局より

本連載は、製造業専門のコンサルティング会社「ネクステック」のコンサルタント、プロジェクトマネージャの取材を基に、受注生産型産業、半受注生産型産業、部品点数が多い量産産業(自動車、自動車部品)など、組み立て製造業特有の経営課題やIT導入に関する問題解決を考えていきます。それぞれのテーマに合わせ、登場人物が変わります。取材・執筆はネクステックのマーケティング担当・安村亜紀氏です。


ERPやSCMが“効く”範囲

 たいていの製造業のP/L(損益計算書)を見ると、75%〜85%を原材料費である「売上原価」が占める。対して「販売管理費」は、売上原価の残り15%〜25%程度に留まる。このことから、製造業は、販売管理をいくら効率化しても、劇的な経営効果は望めないといえる。経営効果が高い部分は、例えば開発購買であったり、部品やユニットの共通化/モジュール化といった製品を構成する部品やユニットの上流工程におけるテコ入れが伴う改革である。

図1 製造業の一般的なP/L構成

 「企業には裏の競争力と表の競争力がある」と唱える東京大学経済学部の藤本隆宏教授は、次のように語る。「トヨタ自動車が2003年度に1兆円の利益を出したことが世間を騒がせている。その裏には、1993年から設計業務効率化による1000億円コスト削減を、10年間継続して達成してきたという業績がある。つまり1000億円×10年=1兆円だ。トヨタはもっともうかるはずだ」。

 世間は、販売力や商品開発力といった表の競争力にばかりに目を奪われるが、裏側の努力による競争力強化に優れた企業こそ強いといえよう。製造業の裏側の努力とは、部品やユニットの在り方にメスを入れることだ。それをつかさどるPLMの世界は、まさに売上原価部分に対する高い効果を期待できる。効果の効き幅は75〜85%。ほんの少し頑張るだけでも、効果が大きいのだ。3文字ソリューションでいうところのSCM/ERPの世界は、実は15〜25%程度の販売管理費の効率化にしか効かない。その効果の幅も想像に足る。この事実をしっかり認識しておきたい。

 さて第2回は、製造業のP/Lに効くソリューションについて、ITの視点から解説していきたい。第1回に引き続き、今回もネクステック代表取締役社長山田太郎に話を聞く。

今回の取材先

ネクステック 代表取締役社長 山田太郎氏

ネクステック 代表取締役社長  山田太郎氏 慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン コンサルティング(現・アクセンチュア)、バーン社(現SSA グローバル)、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現・IBM BCS)、米PTC社の副社長(日本支部マーケティング担当)を経て、ネクステック株式会社を起業、代表取締役社長に就任。現在、ネクステックが抱える十数件の製造業の業務改革プロジェクトアドバイザリーや新規プロジェクトの立ち上げに自ら参画。本業と同時に、東京大学大学院工学系研究科の非常勤講師を務めたり、早稲田大学大学院、博士課程にてMOT(Management of Technology)博士号を取得。組み立て製造業IT戦略、特にPLM分野における論客として名高い。


システム視点における勝ち組情報戦略

 本稿の読者ターゲットはIT部門におられる方々とのことなので、システム視点における、あるべき情報戦略についても提言したい。いま「PLM」(Product Lifecycle Management)というこれまた謎の3文字ワードが重要ソリューションであると注目されているのは、前回述べたとおり、部品やユニット単位で打ち手を打つことが製造業の競争力の源泉になるからだ。

 PLMシステムにおける情報のマスタはP/N(Parts Number)とP/S(Parts Structure)だ。最近、何かと話題のBOM(Bills of Material:部品表)は、P/Nを目的別にくくったP/Sである。つまり、P/NはBOMの最小単位(最小のくくり)であり、それぞれの品目と必ずしも同じものではない。

P/N(Parts Number) 部品やユニットの品目情報のこと
P/S(Parts Structure) 製品を構成する部品やユニットの組合せをツリー表示のBOMなどで表現したもの

 一方で、システムトランザクションとは、あくまでプログラミングで表現される業務プロセスである(最近はトリガマネジメントなど、一概にアプリケーションプログラムであるとは限らないが)。このことをしっかり認識したうえで、製造業のシステムの問題について考えてみたい。

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