人的組織の成熟度に合ったITSS導入とは(後編)特別企画:ITSSの現状を探る(2)(1/2 ページ)

前回は、ITSS導入の意義と職種定義の必要性、そして現実の導入には企業間格差があり、それは人的組織の成熟度の差にあることを説明した。今回は、人的組織の成熟度のモデルとして「People CMM」の概要を説明したうえで、人的組織の成熟度に合わせたITSS導入の詳細を説明する。

» 2005年09月17日 12時00分 公開
[井上 実,@IT]

人的組織の成熟度モデル「People CMM」

 People CMMは、カーネギーメロン大学がソフトウェア開発プロセスの成熟度モデルとして開発したCMMを人的組織力の管理に適用したものであり、Ver1.0が1995年に、Ver2.0が2001年にリリースされている。ソフトウェアCMMが開発されてから、CMMを多方面に活用しようという動きから、さまざまなCMMが開発された。

 しかし、多くのCMMの中には、重複部分も多く統合化すべきであるという流れになり、CMMI(Capability Maturity Model Integration)に統合化されたが、多くのCMMがプロセスを対象としているのに対して、People CMMは組織を対象としているため、統合化の対象にはなっていない。

(1)People CMMの概要

 People CMMは、組織の人的能力を「永続する人的組織の実力」に改善することを目的としている。この中では、人的組織の実力は、組織の事業活動を実行するための知識・スキル・プロセス能力によって示されるとし、これらを人的組織のコンピテンシと呼んでいる。個人に帰属する知識・スキルだけではなく、組織に帰属するプロセス能力を合わせて、人的組織の力として定義しているところが特徴的である。

 構造はほかのCMMと同様に、5段階の成熟度レベルに対して、プロセスエリア、ゴールとゴールを達成するためのプラクティスを定義している(図4参照)。

(図4)People CMMの構造

 すでに、IBMやボーイング、シティバンクなどの米国大手企業やソフトウェアCMMの導入に積極的なインドのIT企業などで導入されており、インド最大のIT企業であるタタ・コンサルタンシー・サービシズは、ソフトウェアCMMでレベル5、People CMMでレベル3の認定を得ている。

(2)成熟度レベルとプロセスエリア

 People CMMの概要を知るために、成熟度レベルとプロセスエリアを見てみることにする(図5参照)。

(図5)成熟度レベルとプロセスエリア

  • レベル1:初期段階であり、人的組織のプラクティスが一貫せずに適用される状況である。アドホックな対応、その場限りな対応がなされている段階。プロセスエリアとして定義されているものはない。
  • レベル2:管理された段階であり、管理者は人を管理し、開発する責任を持つようになる。プロセスエリアとしては、要員配置、作業環境、トレーニングと開発、意思疎通と調整、業績管理、報酬が定義されている。レベル1からレベル2に上がるためには、繰り返し可能なプラクティスが必要となる。
  • レベル3:定義された段階であり、人的組織のコンピテンシ(知識・スキル・プロセス能力)とコンピテンシをベースとしたワークグループを開発し、事業の戦略や目標と一致させることが必要になる。プロセスエリアとしては、コンピテンシ分析、コンピテンシ開発、コンピテンシに基づくプラクティス、ワークグループ開発、人的組織力の計画策定、キャリア開発、参加型文化が定義されている。レベル2からレベル3へ上がるためのキーワードは、コンピテンシベースである。
  • レベル4:予見可能な段階であり、人的組織のコンピテンシに権限を委譲したうえで、成果を定量的に管理する必要がある。プロセスエリアとしては、コンピテンシ統合、権限委譲されたワークグループ、コンピテンシに基づく資産、定量的業績管理、組織の実力管理、メンタリングが定義されている。レベル3からレベル4へ上がるためには、プラクティスの測定と権限委譲が重要となる。
  • レベル5:最適化の段階であり、個人、ワークグループ、組織の実力を継続して改善し、整合させる必要がある。プロセスエリアとしては、継続した実力改善、組織的成果達成に対する一致協力、継続した人的組織力の革新が定義されている。レベル4からレベル5へ上がるためには、継続的にプラクティスを改善することが求められている。

(3)日本企業へ適用する際の考慮点

 People CMMは米国の大学で策定されたものであり、米国の人事制度である職務制度を基盤として開発されているため、日本企業に適用する場合には注意が必要である。

 レベル2の段階においても、すでに職務定義されていることが前提になっており、職務定義に合わせた要員配置がなされ、報酬が支払われていることはあえて記述されていない。しかし、多くの日本企業では、職能制度の下で職務を決めずに募集・採用が行われ、職務ではなく職務遂行能力に基づく等級分けがなされ、報酬が支払われている。そのため、日本企業でレベル2をクリアするためには、まず、職種・レベルの定義を行う必要がある。

 また、レベル3のプロセスエリアに挙げられているキャリア開発は、職種・レベルを定義し、職種間の関連を示した日本企業のいうキャリアパス構築ではなく、企業の事業戦略や事業目標に合わせたコンピテンシ開発をしたうえでのコンピテンシベースのキャリアを開発するための方法を策定することである。筆者のいう人財開発戦略立案に近いものである。

(4)日本企業の人財開発の視点から見たPeople CMM

 日本企業への適用する場合の考慮点を加味したうえで、人財開発という側面からPeople CMMを見ると次のようになる(図6参照)。

(図6)成熟度と人財開発

  • レベル2:職種・レベルを定義し職種間の連携を明確化するキャリアパスの構築
    管理者が人を開発する責任を持つためには、組織として職種・レベルが定義され、キャリアアップを実現する仕組みが構築されている必要があるため。
  • レベル3:事業戦略に一致した人財開発戦略作り
    人的組織コンピテンシを開発して事業戦略や事業目標と一致させるためには、事業戦略に基づく人財開発戦略を作る必要があるため。
  • レベル4:コンピテンシ統合による新たな人財開発戦略作り
    コンピテンシ統合による新たな人財を開発するための戦略作りが必要なため。
  • レベル5:継続的改善
    個人の実力を継続して改善するため。
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