IT部門が作成・維持しなければならない規範とは?ITガバナンスの正体(8)(3/3 ページ)

» 2006年06月08日 12時00分 公開
[三原渉(フューチャーシステムコンサルティング),@IT]
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モニタリングと規範維持管理力

 前回モニタリング方法について解説した。規範維持管理力で大きな力を発揮するのがモニタリングだ。

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 常に定点観測することが必要だ。モニタリング項目によっては、週次のものもあれば、月次のもの、あるいは四半期に1度のものもあるだろう。マイルストーンは合理的なタイミングを関係者が合意すればよい。何でもそうだが、最初から100点を狙わない。60点程度であれば、始めてしまう。そして、徐々に改善していけばよいのだ。

 大事なのは、継続することだ。継続せずに最初の数回で「効果が出ないから」とあきらめてしまう企業/ITマネージャがどれほど多いことか。「継続できない会社」の行く末を何度も見てきた。一度決めたら、とことん継続する。

 合理的な理由、あるいはさらに良い方法が見つかったときには、そのとき「やめる」宣言をすればよい。いつの間にかやらなくなってしまっていることくらい、関係者をがっかりさせることはない。がっかりした関係者を再度同じ土俵/同じレベルに持っていくことは、最初の1回と比べると3倍から4倍の労力/コストが掛かることを覚えておいてほしい。だから、継続が大事なのだ。

継続時/再開時の活動労力の差

 ITリテラシー領域でも同じことがいえる。社内で「利活用者ITリテラシー基準」(という規範の一種)なるものを作り、それに照らし合わせ、各部署で必要なITリテラシーを設定する。現状のレベルを把握し、いつまでにどうやって目指すレベルをクリアするか、を社内に公表し、定点観測(例えば各四半期ごと)していく。講習を受けて、テストに合格したか否か。部署の何割が合格しているのか、……。指標はいくらでも作れるはずだ。だが、適用するのはなるべくシンプル、かつ数を限るべきだ。たくさん指標があると、管理が大変で余計な負荷を自分だけでなく、みんなに強いることになる。継続的、かつ定期的に健康診断して、悪いところがさらに悪くならないように何らかの手を打つことと同じだ。良いところはさらに良くなるように、毎日気を付けたい、それと同じことを会社でもやればよい。

ITリテラシーのレベル

 1つ1つの規範にかかわるモニタリング項目を設定し、継続的に・地道に効果を検証していく。検証した結果を各規範の更新要件として認識し、さらに良いものにブラッシュアップしていく。

 もはや業務/経営とITは表裏一体だ。ITガバナンス、そしてその中の「規範」をモニタリングして、より良いものになっていけば、業務や経営もさらにより良いものになっていくはずだ。

 縁の下の力持ちでもあるITマネージャの双肩に掛かっている。地道な努力もきちんと評価してもらえるように、付加価値を理解してもらう機会を持つことも必要だ。そうだ、これも「社内外広報標準」に加えておこう。



開発の代々木課長と人事の新橋課長も加わり、日暮里くんとシステム部メンバーの話し合いが続く。


代々木課長:顧客の声が営業経由で開発に上がってこないんだよなぁ。開発の何人かと営業が掛け合って、一緒に訪問する、ってこともやろうとしているんだが、どうも営業のメンバーは顧客との接点を独り占めしたがるんだ。自分のテリトリーってことなんだろうか……。


新橋課長: うーん。営業メンバーに「俺は売る人」っていう変な縄張り意識があるのかもなぁ。そもそもITを使えば、北海道の顧客の声と九州や沖縄の顧客の声を開発にも使えるはずだけど、ローカルで閉じちゃってるんだよな。顧客とのコミュニケーションはうまいはずだから、社内のコミュニケーションもITを使えばもっとコラボレーションできるはずだよな。ITリテラシーが少しでも上がれば、効果はかなりあると思うね。


日暮里くん: そうなんですよねぇ。結構、先輩の中には、「IT、ITっていうけど、ITなくても営業なんかできるのさ」ってうそぶいている人がいるんですよ。競合他社の営業ではメールをはじめ、ツールを使いこなしていて、その場で見積もりを提示されちゃって、商談一発逆転なんてされているのに。


大崎さん:それは由々しき問題ね。パイが広がってきているのに、広がった部分は他社に取られている。自分は自分の過去との比較でしか見ないから、売り上げは前年と同程度。だからIT使わなくても大丈夫、という考えね。ITを武器に見立てて使いこなせたらもっといろんなことができて、パイの広がりとともに売り上げや利益も確保できるのに。


秋葉原さん: 利活用者だけでなく、構築するわれわれの意識の問題でもあるんじゃないのかなぁ? 俺使う人、お前作る人という彼我の関係ではなくて、一緒に育てていく、という意識が抜けていたんじゃないかと思うよ。ついでにいうと、これまで付き合ってきたベンダは、製品の目新しさばかりを強調して、本来の意味での利活用者の利便性や業務効果なんか二の次でしたからね。彼らは製品が売れればいいんですよ、ここでも彼我の関係がある。


池袋マネージャ: なるほどぉ……。よしっ!! 業務とシステムの再構築、いや、設計を進めるのと同時並行で営業部門全体のITリテラシー引き上げ策と、プロジェクトのPR作戦を進めよう。そうすれば、システムの使い方も変わってくるし、何よりもシステム設計や構築の負荷が軽くなる。そして、移行や展開も効果が高くなるはずだ。どんどん新しい取り組みを試していこうじゃないか。営業部門だけの問題じゃないぞ。



その場にいた全員の目が輝き始めた。営業の仕組みの見直しチームが1つになって前に進み始めた瞬間だった。



筆者プロフィール

三原 渉(みはら わたる)

フューチャーシステムコンサルティング株式会社 ビジネスディベロップメント&インターナショナル事業本部 執行役員。大手外資系コンサルティングファームを経て、2003年より現職。これまで外資系を含む50社あまりの企業の戦略・改革プログラム・プロジェクトの立案と実行、および効果のモニタリングに携わる。特に経営戦略と連動した全社改革プログラム・IT戦略立案に詳しい。改革推進の障害の1つであるトップ層とミドル層の意識・IT知識の乖離(かいり)を埋めるべく、両者への働きかけを精力的に手がける。ご意見、ご感想、問い合わせのメールは、mihara.wataru@future.co.jpまで。


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