理想のCIO像とは? CIO学会会長小尾教授に聞くIT戦略トピックス(Opinion: Interview)(2/3 ページ)

» 2007年05月17日 12時00分 公開
[大津 心,@IT]

イノベーションも産学連携が有効

 このように、情報システム部だけでなく、多くの分野で人材不足が非常に大きな問題だ。この問題は、「失われた10年」という言葉に代表されるように、日本の国際競争力の低下の一因でもある。では、失われた日本の競争力を取り戻し、日本のイノベーションを発展させるためにはどうすればよいのだろうか?

 例えば韓国の場合、政府が主導となってイノベーション開発のための資金を提供し、研究の方向性も決める。一方、米国の場合は、企業が主導となって研究を進め、政府は資金だけを提供し、口を出さないことが多いという。日本の場合はその中間に位置する。

 韓国型の場合、企業は自分がしたい研究ができないため、当然その企業でベストの研究員はこの国家研究プロジェクトには参加させない。そのために、高い成果も望めないという。いまのところ、日本の場合も「金も出すけど、口も出す」傾向が強いため、企業がイノベーションを促進するためには大学と連携し、大学の人材を有効活用する方がよいとした。

 つまり、企業が大学へ研究資金を提供し、大学の頭脳を利用する産学連携のシステムだ。現在、日本の大学の収入における授業料の比率は、約7割。残りの3割が国からの補助金や企業からの研究資金だという。これが米国のハーバード大学やスタンフォード大学といった有名大学の場合、授業料の割合は半分以下だという。このように、授業料の占める割合の高い大学を『教育型大学』と呼び、研究費用の割合の高い大学を『研究型大学』と呼ぶ。

 教育型大学の場合、当然教授陣は授業を重視しなければならず、研究が疎かになりがちとなり、イノベーションが起きにくい環境だ。また、少子化が進んで全入時代とまでいわれている現状では授業料収入の低下は必須であり、大学は教育型大学から研究型大学への変化が必要になってきている。

 また、日本の大学は国際競争力がない点も問題だ。東京大学も京都大学も日本のGDPを考えれば、トップ10に入っているべきだが、遠く及んでいない。これは、教育型大学の弊害といえる。企業も国際競争力が落ちてきておりイノベーション力を強化したい企業と、研究型への変革が必要な大学のニーズは一致しており、この観点からも産学連携を強化するメリットは大きいと小尾教授は説明した。

交渉力が弱い日本、CIOはグローバル化すべし!

 小尾教授は知的財産面における日本の弱さも指摘する。現在、世界は工業中心の社会から、IT革命などによって情報社会へ変化している。情報社会とは、ネットワーク社会ともいえるだろう。そのネットワークにおいては、「国際標準が非常に重要だ」と教授は分析する。

 しかし、その点において日本は数々の失敗を繰り返してきており、標準化を欧米企業に取られている。例えば、NTTドコモはiモードなど携帯電話のネットワーク技術では、世界をけん引する立場にあるものの、携帯電話ネットワーク規格で国際標準となることは、少なくとも2Gや3Gの世代ではできなかった。この点について教授は「日本は個々の製品やシステムは非常に良いものを作っている。しかし、世界の標準化が取れないのは交渉力の弱さが一因にあるのではないか。工業時代は良いモノであれば売れた。しかし、ネットワークの時代では交渉力が必要だ。CIOはそのためにもグローバル化し、世界との交渉力を磨かなくてはならない」と強調した。

 例えば、トヨタのCIOの場合、世界のITシステムのことに専念できているのだという。なぜなら、日本のITシステムの標準化はすでに終わっているからだ。従って、海外の情報システムやネットワーク連携に時間を割くことができる。しかし、国内のCIOはまだほとんどがこのような状態になっていない。

 こういった点からも、小尾教授は「もっとCIOはグローバル化するべきだ」と強調する。なぜなら、「これから先、日本版SOX法の施行などにより、CIOはいまよりも普及することが予測できる。その普及が済んだ後に考えられるのは、日本の企業はすでにワールドワイドで仕事をしていることから、CIOも世界を相手に仕事をしなければならなくなる」からだ。そのような流れが見えているにもかかわらず、日本のCIOは英語ができない者が多いなど、まだまだ国際化にはほど遠い状況だと教授は懸念しているのだ。

 CIOの役割を上げなければならない理由はほかにもある。現状の日本におけるCIOというと情報システムだけを見ているイメージがあるが、実際にはセキュリティや知財もCIOが管理しなければならない分野だ。これらを統括的に管理し、「次の社長はCIOで決まりだ」といわれるくらいの権限を持たなければ、このような重要な決断はできないはずなのだ。

 現状の日本企業の場合、知財は法務部が担当しているケースが多いだろう。本来であれば、CIOはその上にいないといけないのだ。日本企業の肩書でいえば、副社長や社長レベルのクラスでなければ統括できないはずだ。

 そして小尾教授は、「CIOのIも、今後はInformation(情報)だけでなく、Innovation(改革)やInvestment(投資)の役割でも必要になってきているのだ。それらの役割を融合した、そういう役割にならなければならないのだ」と強調した。

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