理想のCIO像とは? CIO学会会長小尾教授に聞くIT戦略トピックス(Opinion: Interview)(1/3 ページ)

いまや情報システムのない企業は少ないだろう。また、日本版SOX法を代表とする各種コンプライアンスに対応するためには、経営と情報システムの両方に精通しているCIOが必要になるはずだ。まだまだ普及度は低いものの、今後ますますその価値が上がることが予測されるCIOの現状と今後について、早稲田大学大学院の小尾敏夫教授に話を聞いた。

» 2007年05月17日 12時00分 公開
[大津 心,@IT]

 日本版SOX法や個人情報保護法といった各種コンプライアンスへの対応では、ITシステムと経営の両方を理解する情報システム部と経営陣の橋渡し役として、CIOの役割が見直されてきている。しかし、日本ではまだまだCIOの普及度は低い。

 今回は、このような日本のCIOを取り巻く現状について、国際CIO学会会長を務めている早稲田大学大学院 国際情報通信研究科/公共経営研究科の小尾敏夫教授に話を聞いた。

CIOはもっと地位向上を!

 まず、小尾教授は、現在の日本企業におけるCIOの役職や社内の立場の低さを指摘した。現在、多くの日本企業ではCIOはキャリアパスの一環としか考えられておらず、情報システム部長がCIOを兼任しているケースや、そもそもCIOがいない企業も多く存在する。

国際CIO学会会長を務めており、早稲田大学大学院 国際情報通信研究科/公共経営研究科の教授でもある小尾敏夫先生

 そのような状況に対し、小尾教授は「ITへの投資額が増加している現在では、部長クラスでは不十分であり、CIOは最低限役員である必要がある」と指摘する。多くの企業では、企業内において情報システムの重要度が増すのに比例して投資額も増えており、経営においても情報システムへの投資や戦略は非常に重要になってきている。しかし、現在の日本のようにCIOを情報システム部長が担っているケースでは、経営を理解していないため、CIOの役割を果たし切れないのだ。この問題を解決するためには、情報システム部長が経営を理解する必要があり、経営者も情報システムを理解する必要がある。

 情報システム部長が経営を分かるためには、そのようなキャリアパスを企業側が用意しなければならない。その点、金融業界はそのあたりの仕組みがしっかりしており、実際経営陣にCIO経験者がかなりいるという。なぜかというと、金融業界が情報システムに依存している度合いが多いからだ。金融業界ではほとんどのシステムがシステム化されており、ATMなどは社会インフラとして重要度も高いため、非常に高度で堅牢なシステムを構築しなければならない社会的責任もある。このため、社内におけるITシステムの地位が高く、その管理を行うCIOの地位も必然的に高まる。

 続いて多いのが、コンビニやデパートといった小売業界だ。例えばコンビニの場合、店舗ではアルバイトの学生やパートの主婦などがPOSを操作しており、そのデータがそのまま本社のマーケティングシステムと直結している。そして、そのデータを基にマーケティング部はさまざまな分析を行い、翌日の仕入れなどの参考にしているという。このように、誰でも使えるインターフェイスを実現しつつ、リアルタイムデータをマーケティングに生かすためには、かなりのレベルの情報システムが必要だ。従って、小売業界においてもITシステムの地位とCIOの地位が高いというわけだ。

大学の文系教育は役に立っているか?

 しかし、これまで情報システム部長でもCIOの役割を果たせたのは、企業内に入り込んでいるSIerやベンダの力が非常に強く、手取り足取り教えてくれていたことも一因だ。企業から見ると、情報システムをアウトソーシングしているのに近い状態だ。しかし、現在はシステムも複雑化し、かつ投資額も増しているので、すべてを任せてしまうわけにはいかなくなっている。自分たちも、最低限自社システムを理解していなければ、システム構築のための要件定義も行えない。

 こういったベンダ依存はユーザー企業のシステム部を弱体化させた。ユーザー企業の情報システム部員や開発担当者不足が叫ばれて久しいが、これは大学側の責任もあるという。小尾教授は「大学の教員としてあえていうが、現在の大学の文系教育がビジネス面に貢献している度合いは疑わしい。いまは企業側の訓練制度が充実しているので、入社後のさまざまなビジネスマナー研修などを経て、学生も立派なサラリーマンに育っているが、本来であればその役は産学連動で担うべきだ。大学がすべてを担ってしまってはあまりにもビジネスに直結してしまうので、産学が共同で担い、負担し合うべきではないだろうか」という問題を指摘する。

 そして、その解決策として「例えば、私の研究所は大学院なので社会人が多いのだが、多くは企業に入ったものの、“もっと勉強したい”と個人個人が考えて入ってくる学生たちだ。しかし、本来であれば企業がこのような社会人が勉強できるシステムをきちんと整備し、大学とタイアップしてシステムとして学べる環境を整備すべきだろう」という考えを示した。

 例えば米国の場合、このような社会人が大学院に入学できる環境が日本よりも整っているが、それは人材に流動性があるからだ。日本の場合、大企業を中心にまだまだ終身雇用制度が存在する。しかし、教授は「終身雇用は逆に専門家を育成するのには向いている」と語った。この環境を生かし、企業がきちんとしたキャリアパスを築けば、かなりの専門家が育成できるはずなのだ。

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