第2回 プロジェクトは点数化できるプロジェクト・ポートフォリオ管理の基礎(2/2 ページ)

» 2008年03月04日 12時00分 公開
[小林秀雄,@IT]
前のページへ 1|2       

プロジェクトは学業成績のように5段階で評価される

 上述の評価軸には、例示したように幾つもの指標が含まれる。プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールは、その指標を組み込んだテンプレートを持っている。そのテンプレートがプロジェクトを評価する作業を支援する仕組みだ。その仕組みと流れは以下のようなものである。

 テンプレートは、見た目には縦軸にプロジェクト名がずらっと並び、横軸に評価項目が設定されている一覧表という形をとっている。評価項目は、例えば、プロジェクトを実行した場合の「期待される売り上げ」「コスト」「ROI」「必要なリソース」「技術リスク」「所要期間」といった具合になる。もう少し詳しく書くと、「売り上げ」やコストは金額を、ROIは%を、技術的リスクは5段階評価のレベル(A〜E)を入力する。数値を入力するのは、プロジェクトを推進するマネ−ジャである。

 プロジェクトごとに評価項目に対する入力が行われると、総合評価が5段階で計算され、一覧表として、つまりポートフォリオとして示される仕組みである。経営者は、一覧表の形式で示された総合評価を見れば、優先度の高いプロジェクトとそうでないプロジェクトとを瞬時に判別することができる。例えば、10個のプロジェクトがあれば、それぞれのプロジェクトに「5」や「3」あるいは「1」という評価が学業の成績のように示されているからだ。「1」と評価されたプロジェクトは、投資効果が高く技術リスクは低く、「5」と評価されたプロジェクトは投資効果はさほど期待されず、技術リスクが高かったり所要期間が長期にわたるなど、その理由も各項目の数字で明示される。

 このように、多数のプロジェクトを幾つもの評価軸を用いてしかも定量的に想定される効果をCIOはもちろん、経営者に分かりやすく示すことがプロジェクト・ポートフォリオ管理ツールの特徴といえる。

 ツールが導き出した結果は、CIOや経営者の判断を支援する材料である。極端な話、総合評価が「1」だとしても実行すべきだと考えれば実行すればいいという考え方もあるだろう。その逆もいえる。そうだとしても、あるプロジェクトのどこに問題があるか(売り上げ増は期待できるが、同時にコストが掛かったり技術的なリスクが高いなど)を事前に把握できることは大きなメリットとなるはずだ。

 採否を判断する際の指標はテンプレートに組み込まれているもの以外に、自社独自のものを用いることもできる。しかし、あらかじめテンプレートとして用意された指標を用いることのメリットは大きい。社内のステークホルダー全員が判断指標を共有していれば、そこから導き出された結果(総合評価)を妥当なものと認めるだろうから。テンプレートを用いることは「公平性」を担保することに働くといえる。

 プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールにはまた、幾つかのシナリオに基づいてシミュレーションできる機能もある。例えば、「予算を削減するシナリオと予算をふんだんに使うシナリオで得られる結果をシミュレーションすることができる」(日本ヒューレット・パッカードHPソフトウェア事業本部ソリューションコンサルタントの長崎健一氏)という。ツールが計算した結果を受け入れるだけではなく、仮説を繰り返しシミュレートして、最適なプロジェクトの組み合わせを考え出すことにも有効に機能するといえる。

テンプレートが採否からレビューにわたるライフサイクルを支援

 以上、要求管理フェイズにおけるプロジェクト・ポートフォリオ管理ツールの機能について述べたが、同ツールは、プロジェクトが開発プロセスへとフェイズが進んだ場合にも効力を発揮する。言葉の順番は逆になるが、ポートフォリオ機能がプロジェクトの採否判断を支援し、プロジェクト管理機能がプロジェクトのスムーズな進捗を支援するわけである。それがバラバラにあるのではなく、一貫した仕組みとして備わっていることがプロジェクト・ポートフォリオ管理ツールの特徴だ。

 開発が計画どおりに進捗することが理想なのだが、そういうケースはむしろ例外だろう。そこで、CIOは、膨大なプロジェクトの進捗に目を光らせ、問題が生じたプロジェクトを早期に発見し、かつ早期に解決策を実行することが求められる。プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールは、以下のように、問題プロジェクトの発見を支援する機能を持っている。

 プロジェクト開発には始まりと終わりがある。そして、その間に達成すべき工数があり、コストが生じる。コストを縦軸に、期間を横軸にした線グラフを作成すると、その線は右肩上がりになる。その線は計画として作成されたものであり、べースラインと位置付けられる。そのべースラインの線と現実の線を重ね合わせて比較することによって、CIOは問題のあるプロジェクトを早期に発見することができる。それは、画面を見れば一目瞭然だ。「べースラインより現実の線が高いところにあれば、そのプロジェクトは計画に対してコストオーバーとなっている」(日本アイ・ビー・エムソフトウエア事業ラショナル事業部の春原秀仁氏)とパッと見て判断できるようになっている。

 また、プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールは、数多くのプロジェクトの成果をレビューすることにも有効だ。「当初立てた目標と、実際の成果を比較するサイクルを作ることが大切」(日本CAマーケティング部の国和徳之マーケティングマネージャー)なのだが、表計算ソフトでは作業が煩雑になっておろそかになりがちだ。しかし、プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールにプロジェクト進捗に伴う数値を逐次、入力していけば、プロジェクトの成果をレビューすることができる。多数のプロジェクトの採否から成果判断に至るライフサイクルを何年も回していけば、プロジェクトの採否や運用に関する能力が成熟していくと考えられる。

 実は、この「成熟」という概念は、プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールを使いこなす上でのキーワードでもある。次回は、プロジェクト・ポートフォリオ管理ツールを利用する上で押さえておくべきポイントを中心に取り上げることにしたい。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ