情シスはプロジェクトファシリテーターであれ!情シスをもっと強くしよう(2)(2/4 ページ)

» 2009年06月29日 12時00分 公開
[植松 隆,@IT]

プロジェクトファシリテーターの役割 その1

STEP1:場を作り、つなげる

 プロジェクトでは、「参加者の数を増やし過ぎたために、参加者のコントロールができなくなり、いつまでも意思決定ができない」「参加者を絞りすぎたために、十分な意見収集ができず、プロジェクトの進むべき方向を見誤ってしまう」といった失敗が、発生しがちです。

 このステップで、プロジェクトファシリテーターが最も注力しなければならないのは、「プロジェクトの状況に合わせて適切な参加者を選出し、参加させる」ことです。

 それでは、ここから事例に基づいてお話ししましょう。

 「Webサイトの再構築を支援してほしい」ある企業(以下、A社)の情報システム部長から依頼がありました。まずはプロジェクト状況のヒアリングをすると、以下の答えが返ってきました。

  • サイトリニューアルはここ数年で複数回実施しており、情報システム部としては徹底的に予算を切り詰めてそれなりの品質でプロジェクトを完了してきているつもりでいる。しかし、経営からは「成果が見えない」といわれている
  • このまま現状のサイトを更改し続けるのではなく、抜本的にサイトを見直すように経営層から指示されている
  • これを受けてサイトのデザインを一から見直し、全面的に改修しようと思っている
  • あわせてCMSを導入してサイトの更新を自動化したいCMSを導入してサイトの更新を自動化したい
  • 早速サイトのデザインを開始したい。御社のこれまでの実績から参考となるようなデザインパターンを提示してほしい

 「デザイン一新、全面改修という方針は理解しましたが、まずは経営層がWebサイトに対して何を求めているかを明確にしましょう。今回のプロジェクトに関係する経営層で、特に現状サイトに『成果が見えない』という意見をお持ちの方を招集してください」

 これが筆者が出した回答でした。

 A社のケースでは、情報システム部はこれまでのリニューアルにおいて、できる範囲で予算を切り詰め、品質も維持していると自負しているにもかかわらず、経営からは「成果なし」と見られています。

 デザインの一新、CMS導入といった手段が挙げられていますが、それによって、経営層のいう「成果」を実現できるかが不明確です。

 まずは、経営層の想いをきちんと聞き出さないと、どんなに最新鋭のツールを使い、斬新なデザイン、高いメンテナンス性のサイトを構築したとしても、経営層は満足しないだろうと判断したわけです。

STEP2:意見を引き出す

 このステップで重要になるのは、経営層やユーザー部門の方々が「いいたいことはいった」という実感が持てるようにすることです。意見を抽出し切れないままプロジェクトを進めても、経営層やユーザー部門の期待に応えきれないシステムを生み出してしまうからです。

 しかし、「意見を抽出し切る」というのは簡単そうで、なかなかうまくいかないものです。「何が課題なのか?」「何を期待するか?」と単純に問いかけるだけでは、経営層やユーザー部門からの意見を引き出すことはできません。

 意見を引き出すためには、プロジェクトファシリテーターが事前に仮説を立て、それに基づいて質問を繰り返す、といったアクションが有効です。

 A社の例では、経営層が現状のWebサイトに対して「成果が上がっていない」と感じている理由について、以下の仮説をまず立てました。仮説を立てるに当たっては、現状のWebサイトの実態に合致しているかよりも、できるだけ多面的な視点で仮説を作ることにフォーカスしました。

  • 企業活動の説明がサイト上で十分にできていない
  • 取り扱い商品の紹介ができていない
  • 情報発信が遅い、時間がかかる
  • サイトのデザインがコーポレートイメージと合っていない
  • ページによって統一性のないデザイン
  • 販売サイトの売り上げ不振
  • サイト更改の費用が高い
  • 訪問者が少ない

などです。

 これらの仮説に基づき質問を組み立て、さまざまな視座を経営層に提供することによって、Webサイトの現状に対する想いを、より多面的に引き出すことが可能となるわけです。

 その結果、経営層の想いとして以下が挙げられました。

  • WebサイトにはA社の看板という位置付けと同時に、商品の販売チャネルの1つとして期待している
  • Webサイトからの成約が一向に伸びていない
  • Webサイトへの誘引策として各種広告を積極的に出しているものの、成約に結びついておらず、広告の効果が見えない。無駄な広告を出しているのではないか
  • 日々のサイトの更新も開発会社に外注しなければならず、微細な変更でも数百万円かかる現状は理解できない
  • サイト更新のために開発会社への依頼、見積もりなどを都度実施する必要があるため、情報の配信がタイムリーにできない

 つまり、経営層のいう「成果」とは、Webサイトからの成約向上と、広告宣伝費を含む維持コストの削減だったわけです。

 そして、プロジェクトは「Webサイトからの成約向上」と「維持コストの低減」という明確な目標に向けて動き出しました。

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