情シスはプロジェクトファシリテーターであれ!情シスをもっと強くしよう(2)(4/4 ページ)

» 2009年06月29日 12時00分 公開
[植松 隆,@IT]
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合意形成のための施策評価と優先順位付け

 A社の事例では「評価軸」「評価基準」「評価後の取捨選択基準」を以下のように定めました。

評価軸

 A社の事例では、評価軸をオンライン販売サイトの成約数の増加とサイトメンテナンスにかかる費用の削減という視点での「効果」、サイト構築など施策の実行にかかわる「コスト」に加え、施策の実行に伴い現場へ負担がどの程度かかるか、という視点で「受入」という評価軸を設けました。

 これはどんなに効果が上がって低コストで実現できる施策であったとしても、ユーザー部門がその施策に対応しきれなかった場合には効果が半減したり、ユーザー部門の負担が倍増した結果、施策実行コスト以外の新たなコストが発生したりする可能性があるためです。また、どんなに効果・コスト面で秀逸な施策であっても、ユーザー部門の合意が得られなければ、結局ユーザー部門とのギャップは埋まらないこととなります。

評価基準

 評価の段階で誰もがその評価に納得ができるようにするためには、評価基準の作成の仕方も重要です。定量化できるものは極力定量化し、定量化が難しいものについても評価に迷いが生じないよう、できるだけ具体的に評価基準を設定することが必要です。

 以下はA社事例での評価基準(一部抜粋)です。

図2 A社事例での評価基準の例

効果
・販売サイトの成約が確実に向上する(この施策なしに成約向上は望めない
・サイトの維持運営コストを30%以上削減可能
・販売サイト成約のための新たな施策を導き出すことが可能となる
・サイトの維持運営コストを10%以上削減可能
・販売サイトの成約向上に貢献しない
・販売サイトの成約向上にどの程度寄与するかが現時点で明確ではない
・サイトの維持運営コスト削減に貢献しない。貢献しても10%未満
コスト
・想定施策実行コストが1000万円より多い(A社の社長決済レベル)
・想定施策実行コストが1000万円以下(A社の担当役員決済レベル)
・想定施策実行コストが500万円以下(A社の部長決済レベル)
受け入れ
・現場の業務には影響がない
・現場業務のプロセスの変更、新規プロセスなどが伴うが、マニュアルなどの整備で対応可能
・プロセスの変更対象が部レベル(部内のプロセスを変更することで対応可能)
・現場業務のプロセスの変更、新規プロセスが伴い、業務担当者全員への説明会の開催とその後のフォローが必要
・プロセスの変更対象が全社レベル(全社のプロセスを変更する必要がある)
・現場の混乱が想定される

評価後の取捨選択基準

 A社の事例では「効果が見えない施策は徹底的に排除」「現場の負担は極力最低限にする」という基本方針の下で、取捨選択基準を以下としました。

  • 効果が「低」、コストが「中」以上のものは施策実行の対象としない
  • 効果が「低」、受入が「低」のものは施策実行の対象としない
  • 上記に当てはまらないものを第一次候補として検討する

 上記のような評価軸・評価基準・評価後の取捨選択基準により、A社のWebサイトリニューアルに関する施策を以下のように優先順位付けしました。

図3.A社事例での優先順位付結果サンプル
課題解決の方向性・施策 効果 コスト 受け入れ コメント
【情報システム】
・Webサイトトップページから直接オンライン販売ページへジャンプできるリンクを追加
・トップページのデザイン一部修正
販売ページの不振がトップページからのナビゲーションに起因するものか不明なので、効果がどのくらい期待できるか不明。ただし、トップページ修正コストがほぼかからない
【情報システム】
・オンライン販売ページの構成変更
・ワンクリック購入機能の追加
販売ページの不振がページの構造に起因するものか不明なので効果がどのくらい期待できるか不明
販売ページ仕組みの全面改訂になるため、コストは極大
【情報システム】
・オンライン販売ページのカタログから商品紹介ページ(新規ページ)へリンク
効果は不明
商品紹介の静的ページを作成する必要があるのでコストは掛かる
【戦略】
・価格設定の見直し
価格が他社より安ければ成約はある程度期待できる
価格変更については営業部との調整が必要
競合他社の価格帯調査が必要(→営業部で実施)
【戦略】
・商品戦略の見直し
・オンライン販売商品の充実
販売ページの不振が商品ラインアップに起因しているか不明
商品ラインアップの変更には営業部との調整が必要(→価格調査と並行して営業部にて検討)
【情報システム】
・サイトアナライザーの導入(サイト訪問者のサイト上での振舞いを分析)
今後、サイト改善していくための情報源として必須
サイトの分析によって、成約向上の施策が導き出される
【情報システム】
・サイトアナライザーの導入(どのサイト(広告を出している)から弊社サイトにリーチしたかを分析)
・訪問者アンケートページ(新規ページ)の作成
【その他】
・紙媒体など分析が困難な広告をやめる
広告効果を分析するために必須
アンケートページ作成はそれほどコストが掛からない
【戦略】
・広告戦略の見直し
・顧客分析+広告戦略の見直し
同上
広告効果分析が必要(→広報部にて検討)
【組織・リソース】
・情報システム部メンバーのスキルアップ
・Webに詳しい人材の採用
サイトの内製ができるようになればコスト削減効果は高い
リソースとスキル不足が問題
派遣の活用を検討する(→情報システム部で検討)
【情報システム】
・Webサイト構造の見直し
・CMSの導入
・CMSにあわせたWebページデザインの見直し
【業務プロセス・ルール】
・コンテンツ管理プロセスの見直し(CMSを導入するなら)
内製化に当たってCMS導入は効果大
CMS導入に当たっては導入CMSに合わせてサイトを全面的に見直す必要があるのでコストは極大
コンテンツ管理プロセスという考え方がこれまでなかったので、プロセスを一から考える必要あり
【その他】
・開発会社の変更
・内製化
開発会社を変更するための引継ぎなどに現行の開発会社が協力してくるとは思えない、また切り替えコストが掛かる
開発会社によってそれほどスピードが異なるとは思えない
【業務プロセス・ルール】
・見積もり受領から発注までの業務プロセス見直し
プロセスは全社ルールにのっとっているため、変更はまず無理
(セルの色)白:第1フェイズ対象、グレー:第2フェイズ対象、黒:実施しない、青:営業、広報にて対応

 

 上記のような検討を経て、成約不振の原因分析を実施した上で最も効率よくサイトリニューアルをするため、まず第1フェイズでサイトアナライザーを短期間で導入、その分析結果を踏まえ、第2フェイズでWebサイトのリニューアルを進めるという方式を採ることにしました。

 また、第1フェイズと並行して、情報システム以外で改善しなければならない広告・商品ラインアップ・商品価格などの検討は、それぞれ広報・営業を担当する部署が検討することとしました。

でっちを卒業しプロジェクトファシリテーターへ?A社プロジェクト結果

 サイト分析の結果、A社のサイトを訪れる顧客層が当初まったく想定していなかった熟年層であることが判明しました。この結果を受け、商品ラインアップ、広告、サイトデザインを熟年層向けに変更することで、「成約の向上」と「広告費を含む維持運営費の削減」という経営層の想いを実現する結果となりました。

 また、情報システム部の方々が、経営層やユーザー部門と接する機会が増えたことにより、「自分達の活動は自社の企業活動に変化をもたらしている」という実感のもとプロジェクトを遂行していることが情報システム部の雰囲気すら変える結果となりました。

 長い下積み期間を経て、情報システム部がでっちを卒業した瞬間でした。

著者紹介

▼著者名 植松 隆(うえまつ たかし)

ウルシステムズ 主席コンサルタント。外資系コンサルティングファームなどを経て現職。経営とITを結びつけるためのオペレーション戦略、IT戦略の策定・実行に携わる。また、大規模ITプロジェクトのPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)の立ち上げ・計画・実行など、ユーザー企業への組織的プロジェクトマネジメントの定着化を得意とする。


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