BCPの三択は「リダイレクト」「移動」「何もしない」PwCコンサルタントがパンデミック時におけるBCMを提言

» 2009年09月09日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント(以下、PwCコンサルタント)は9月9日、報道関係者向けの説明会を実施。新型インフルエンザ流行時におけるBCM(Business Continuity Management)のあり方を提言した。

山本氏写真 PwCコンサルタント テクノロジーソリューション シニアマネージャー 山本直樹氏

 4月ころから新型インフルエンザが流行を始め、WHO(世界保健機構)はパンデミックと認定し、警戒水準フェイズを最高の6に上げている。PwCコンサルタントによると、現在世界で10万人が感染、死者は2000人に上っており、日本を含むアジア地域でも6〜7万人が感染、死者も200〜300人に達しているという。同社 テクノロジーソリューション統括ディレクター 中村潤氏は、「事業継続という観点で、パンデミックは大地震や大火災などと比較すると影響が小さいと思われがちだ。しかし、現在大企業のほとんどはワールドワイドでビジネスを展開し、海外にアウトソースしているケースが多い。例えば、中国に給与計算をアウトソースしていて、中国でパンデミックが大発生したら、日本の従業員の給与が払えなくなる可能性もある。このように世界規模でのBCMが必要だ」と解説した。

 また、災害発生時には国の援助金などを当てにする企業もあるが、「災害発生時、まず優先されるのは人命だ。当然その後、何がしかの援助はあるかもしれないが、当てにするべきではない。中越地震の場合、交付金が支給されたのは半年後だった」(中村氏)とした。

 経団連が行った「現在実施中の新型インフルエンザ対策」の調査によると、「マスクや手袋、食料などの備蓄」が1番多く83.3%、「新型インフルエンザ関連の連絡体制の整備」が81.9%、「職場における感染予防・感染拡大防止策の策定」が79.3%と多くの企業が手掛けていることが分かった。しかし、同社 テクノロジーソリューション シニアマネージャー 山本直樹氏は、「これらの対策は、社員や家族に健康被害が及ばないようにする対策であり、業務中断リスクを管理する本来のBCMにはなっていない」と警告。逆にBCMに必要である「継続業務の絞込み・業務継続体制の整備」は22.5%、「発生時対応訓練の実施」は7.3%と非常に低い数値だった。

 この調査結果を受けて、山本氏は「BCMとはそもそも、不足の事態によって業務が中断した際に事業上のダメージを最小化するためのリスクマネジメントだ。先述のマスクや手袋の備蓄などは、損失ダメージ軽減にはまったく役に立たないだろう。きちんと実効性の高いBCMを構築し、被害を最小限に抑えることが経営者の使命だ」と強調した。

 そこで、PwCコンサルタントが実効性の高いBCP(Business Continuity Plan)として推奨するのが「リダイレクト」「移動」「何もしない」の3つだ。リダイレクトとは、災害発生時にある拠点が業務を地理的に離れた別の拠点に一時的に移管することで、地震や火災などに有効だ。例えば、東北地方のコールセンターで局地的な地震が発生した場合、顧客からのインバウンドコールを一時的に九州のコールセンターで受けられるように電話回線を変更するというものだ。「このようなコールセンターを一時移管する手法は、現実でも比較的よく実施されている成功例。ただし、事前のシミュレーションや訓練は必要だ」(山本氏)とした。

 「移動」とは、担当者が普段のオフィスとは別の場所で業務を再開することで、自宅勤務などが代表例となる。例えば、火災で本社ビルが立ち入り禁止になった場合に、一部の社員はレンタルオフィスで働き、一部社員は自宅勤務にする、などのポリシーを定めておくこと。代替オフィスとしては、自社/グループ会社の他拠点のほか、取引先や委託先と災害時には相互にオフィスを融通しあう契約を結んでいる企業も増えているという。

 「何もしない」は、一定期間業務が中断することを許容する手法。事業継続に最低限必要な部署だけを運営し、特定の部署はあえて業務を停止してリスクを抑えることが目的。例えば、感染力の強い伝染病が流行している場合に、小売店など人が集まる業種では、顧客・従業員の感染を防ぐために、あえて何もせずに業務を停止するケースが有効な場合もある。山本氏は「ただし、すべての部門を停止するのではなく、停止するべき部門だけをしなければならない。ここの見極めが重要になってくる」と説明した。

 また、同社では提言の2つ目として、「危機時に適切な判断ができるコマンドセンターを設立するべき」と強調する。災害時に、実際にBCPを発動し、組織を動かすのは人だ。従って、きちんと専門部署を設立し、災害時のマニュアルや手順などを整備、さらに普段から訓練することが重要だという。さらに、このコマンドセンターには、総務、人事などからIT、物流、営業まであらゆる部署から危機対応経験が豊富なマネージャクラスをアサインすることが望ましいとした。

 山本氏は、「BCPの作り方は『新型インフルエンザに対応するためのBCP』など、特定の脅威への対策を前提に作る方法と、比較的汎用なものを作る方法の2種類がある。現在、後者が主流だが、後者をメインとしつつ、『新型インフルエンザ流行時には○○を実施。地震発生時には△△を実施』といったように、個別の対応を考えている企業もある。その部分を企業がポリシーとしてしっかりと策定することが重要」とコメントした。

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