狙いどおりのシステムを、短期間で無駄なく開発する方法富士通、「新要件定義手法」を確立

» 2009年10月07日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 富士通は10月7日、要件定義の課題を解決する「新要件定義手法」を確立したと発表した。「要件の目的、実現手段などのあいまいさの排除」「経営層、業務部門、情報システム部門における合意形成」「要件を確実に洗練させる要件定義のマネジメント」の3つを実現する手法を整備したことで、高品質なシステムを、定められた期限・コスト内でより確実に構築できる体制が整ったという。2010年度末までに、100件の開発プロジェクトにこの新手法を適用する。

 近年、ビジネスの高度化・複雑化により、ビジネスニーズをシステム機能に落とし込む要件定義の難しさも増している。これにより、「経営層や業務部門のイメージとは異なる、貢献度の低いシステムになってしまう」「必要な要件を絞り込めず、無駄な開発期間・コストが掛かってしまう」といった問題が多くの企業で発生している。

 同社でもこうした傾向を以前から課題とみており、2007年から要件定義の作業手順の標準化などを実施、開発品質の向上に継続的に取り組み続けてきた。今回、これに「新要件定義手法」が加わったことで、「どんなフォーマットの、どんなドキュメントを作成するかといった、従来取り組んできたような要件定義作業の“形式品質”だけではなく、要件内容の妥当性、経営への貢献度などを確実に担保できる“内容品質”を向上させる体制が整った」(富士通 常務理事 テクノロジーサポートグループ 副グループ長の八野多加志氏)という。

写真 富士通 常務理事 テクノロジーサポートグループ 副グループ長の八野多加志氏

 「新要件定義手法」には3つの手法がある。1つは「要件の構造化」。これは「目的」と「手段」を軸に、経営層・業務部門・情報システム部門という各階層の観点で、要件を整理する手法だ。具体的には、「経営層の目的」→「それを実現する手段」→「業務部門がその手段を実施するために必要なこと」→「その達成手段」→「その手段実現のためにシステムが実装する機能」といった具合に、経営層の求める要件を、システム機能にまで論理的に落とし込んでいく。

 例えば、経営層の目的が「需要に連動した調達・生産」の場合、その実現手段は「受注見込みによる販売予測の精度向上」で、業務部門がそれを実現するために必要なことは「受注見込み情報を収集できること」であり、システムは「それを実現できる機能が必要」といった具合だ。

写真 「要件の構造化」手法の考え方。経営層の求める要件を、システム機能にまで論理的に落とし込んでいく。

 2つ目は「因果関係からみた要件の可視化」。1つ目の「要件の構造化」により、経営層から情報システム部門まで、各階層における「目的と手段」の因果関係が明確になる。この因果関係に抜けや飛躍がないかを点検することで、要件定義のあいまいな部分を発見、改善することができるという。また、要件の実現手段が「業務要求に対して妥当か否か」「システム機能に対して十分か否か」を客観的に分析することで、要件の優先順位付けを行ったり、必要な要件、機能だけに絞り込んだりすることもできるという。

 3つ目は「要件を成熟させるプロセス」。システム開発には、経営層、業務部門、情報システム部門や、各部門の部門長、各担当者といった幅広い利害関係者が存在する。これは、そうした全関係者の合意を得るための作業プロセスを明確化したものだ。テクノロジーサポートグループ システム生産技術本部 SI生産革新統括部 統括部長代理の若杉賢治氏によると、「弊社のベテランプロジェクトマネージャーらが、経験の中で蓄積してきたノウハウを明文化したもの。いわば合意形成のコツを形式知化したものだ」という。

 具体的には、要件定義作業の「どの段階で、どの部門間の、どんなテーマについて」合意形成を図るべきかを明確化した12のタスクと、各タスク終了時にチェックすべき38の評価軸を用意している。これに沿って関係者間の調整を行い、その結果をチェックすることで、「各関係者の合意は十分に取れているか、もっと調整すべきか、切り捨てるべきかなどを客観的に分析しながら、着実かつ効率的に要件を洗練させていける」という。

 若杉氏は「新要件定義手法は、経営層から情報システム部門まで、全関係者の合意、納得が得られる点が最大の利点。これにより、経営層の狙いどおりの効果を発揮し、直接のユーザーにとって使いやすいシステムが開発できる。要件の確実な絞り込みができるほか、要件のあいまいさに起因する設計、開発作業などの手戻りなども防ぐため、開発期間、コストの削減にも大いに貢献する」と力説した。

 現在、同社とグループ会社では、“業務分析のプロ”として活躍している人材などを対象に、「新要件定義手法」の研修をすでに開始。2010年度からは、同社における3億円規模以上の全プロジェクトに適用し、顧客企業の大幅な満足度向上を狙うという。

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