クラウドを使えばCO2の9割削減も夢じゃない?NRI、定期説明会でグリーンITへの「戦略的な取り組み」を促す

» 2010年06月09日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 野村総合研究所(以下、NRI)は6月9日、グリーンITの現状に関する説明会を行った。多くの企業が環境対策を「CSRやコスト削減の一環」と認識している中、「ITの利活用による業務効率化/コスト削減」がCO2削減に直接的に寄与することを挙げ、「いま、ビジネスやITが目指している方向は、グリーンITの目指す方向と合致している」と指摘。「グリーンITはビジネスの糧となり、また、ITのさらなる進展を促すものだ」として、“コスト削減策の結果”ではない、より戦略的なグリーンITの取り組みを促した。

 2008年以降、グリーンITという言葉は多くの企業に浸透したが、売り上げに直接的に貢献しにくい環境施策には消極的になりがちな傾向が強く、その取り組み事例はあまり聞かれない状況にある。事実、NRIが2009年に行った「企業情報システムとITキーワードに関する調査」では、「グリーンITに取り組む目的」という質問に対し、有効回答241社中、50.2%が「CSRの一環」、21.2%が「コスト削減」と回答。CO2削減は多くの企業にとって「あくまでCSRやコスト削減の結果」であることがうかがえた。

写真 グリーンITの認知度は高いが、多くの企業は積極的に取り組んでいるとはいえない

 だが、コスト削減を目的に、多くの企業が取り組んでいる「仮想化によるサーバ統合」や、必要なときに必要なだけITサービスを利用できるクラウドコンピューティングは、無駄なIT機器を持たない、使わない点で、環境面でも非常に有効な施策となる。きめ細かな需要予測に基づいて、調達、製造、輸送の無駄を省くSCM(サプライチェーンマネジメント)や、テレビ会議システムなどで人の余分な移動を抑制するユニファイドコミュニケーションも同様だ。

 「すなわち、いま企業が業務効率化やコスト削減を目指して行っている、もしくは検討している取り組みの多くは、そのままグリーンITの施策にもなる。だが、CSRやコスト削減という意識が先行するばかりに、仮想化やクラウド、SCMなどの施策と『グリーンIT』という概念が、いまひとつ、うまく結びついていない」(NRI 技術調査部 グループマネージャーの古明地正俊氏)。

写真 NRIの試算では、複数の企業がすべて自社開発でITシステムを用意するのに対し、クラウドでIT資産を共同利用すると、最大96.6%ものCO2排出量削減効果が見込まれたというデータもあるという

 しかしこうした中でも、世の中の動きは環境保護に向けてますます加速している。2009年12月にはCOP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)が開催され、先進国全体のCO2排出量を2050年までに80%削減することを目指して議論が行われた。日本国内においても2008年5月、国が省エネ法を改正したほか、東京都も2008年7月から「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」を導入するなど、環境規制は一層強化されつつある。

 一方、社会一般においては、次世代自動車や省エネ家電、交通流対策、各種IT機器の省エネなどが今後、一層強く求められるようになる。特に昨今は電力需要を予測し、それに応じた無駄のない発電・供給を目指す「スマートグリッド」が日本でも注目を集め始めている。

 古明地氏はこうした状況を指して、「今後、新たな製品や技術の開発、施策を考案・実現するための費用が発生する。すなわち、環境意識の高まりは社会にさまざまな需要を生み出し、それに答えるグリーンITの取り組みは、企業にとってビジネスの糧になると言える。さらに、クラウドやスマートグリッドを、あらためて環境対策という視点から見据えることは、よりスピーディなITシステムの発展にも寄与するはずだ」と解説した。

 ただ、ますます厳しくなると予想される各種環境規制に対応しながら、自社の業務効率化を目指し、同時にビジネスチャンスも獲得していくためには、“それなりの対応体制”が求められる。そのことを深く認識し、環境対策と業務効率化・コスト削減策をバランスよく、戦略的に推進することができれば「グリーンITは、企業価値を増大させる強力な武器になる」という。

写真 ビジネスとITが目指すべクトルはグリーンITの進むべきベクトルと合致している

 古明地氏は「クラウドコンピューティングによる『共同利用の促進』、テレビ会議システムやユニファイドコミュニケーションなど、人の無駄な移動を抑制するユビキタスネットワークの活用、ITによる『制御の自動化・高度化』『業務の最適化』といったトレンドは、今後ますます進展していく。すなわち、いま多くの企業が目指している省力化・効率化というベクトルは、グリーンITの目指す方向と完全に合致している」と力説。

 これを認識したうえで、現在の施策を環境という視点からあらためて見直し、「積極的かつ戦略的にグリーンITに取り組むことが、確実に自社の発展につながるはずだ」と訴えた。

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