どうすれば要件定義で失敗しないのかプロジェクト管理トピックス(1/2 ページ)

プロジェクトの複雑化などによって、要件定義の難易度はますます高まっている。@IT情報マネジメント編集部では、こうした状況に頭を悩ますIT担当者に向けて「要件定義から見直すプロジェクトの進め方」と題したセミナーを開催した。

» 2010年06月17日 12時00分 公開
[唐沢正和,@IT]

 近年のシステム開発は、プロジェクト環境の変化によって要件定義の難易度が非常に高まっており、要件定義におけるプロジェクトマネジメントが、システム開発全体の成否にも大きな影響を及ぼすようになってきた。いかに要件定義でつまずかないようにするかが、システム開発の成功の鍵となるのだ。

 @IT情報マネジメント編集部は5月27日、IT担当者に向けたセミナー「第9回 情報マネジメント カンファレンス プロジェクト管理セミナー」を開催した。基調講演に登壇したプライスウォーターハウスクーパースの杦岡(すぎおか)充宏氏は、要件定義で失敗しないためのプロジェクトマネジメントについて考えを示した。

失敗プロジェクトでよく見る3つの要件定義

 要件定義が難しくなっている原因について杦岡氏は、(1)ビジネスとITの一体化(2)組織横断的プロジェクトの増加(3)情報システム部門の体制および役割の変化を挙げた。ビジネスとITの一体化によって、システム開発の要件が複雑化かつ高度化したほか、組織横断的プロジェクトの増加により、ステークホルダーが増えてしまっている。

 さらには、情報システム部門の役割が変わり、パートナーにシステム開発を任せて企画業務に専念するケースが増えており、企業内にITと業務の両方に精通した人材が減少している。「こうしたことから、要件定義が難しくなり、失敗するリスクが高まっている」と杦岡氏は語る。

 �學岡氏によると、要件定義で失敗するプロジェクトは、典型的な3つのパターンに類型化される。1つ目は、やっても次々と要件が出てくる「終わらない要件定義」、2つ目は、重要な要件が漏れたまま進行して最終的に仕様変更が生じる「ざる型要件定義」、3つ目が、小規模プロジェクトでの経験を大規模プロジェクトにそのまま持ち込んでしまう「やりすぎ要件定義」である。

現実を見極めたプロジェクト管理を

ALT プライスウォーターハウスクーパース 杦岡充宏氏

 では、要件定義での失敗を防ぐにはどうしたらよいか。杦岡氏は、要件定義におけるプロジェクトマネジメントの勘所として3つのポイントを説明した。

 1つ目のポイントとなるのが、「目的の明確化と共有」である。プロジェクトを立ち上げるときには、5W2H(What、Why、When、Who、Where、How、How much)の観点で、どのようなプロジェクトであるかを確認し、プロジェクトの目的を明確にすることが重要だという。「目的を明確にしたら、それをメンバー間で共有することが大切だ。例えば、プリントアウトして壁に貼ったり、ポータルページのトップ画面に常時表示させるなど、メンバーに浸透させる工夫をしてほしい」と杦岡氏はアドバイスする。

 2つ目は、「リソース特性に応じたプロジェクト運営」だ。ここで重要なのが、ユーザー側とシステム側の要件定義を同じものと考えないことである。

 「ユーザーとシステムでは求める要件が異なるため、これを一緒にまとめようとすると要件定義が曖昧(あいまい)になってしまう。まず、ユーザー側が業務を遂行するために必要な要件を洗い出した後、それらをどのようにシステム化するかをシステム要件としてまとめるとよい」(杦岡氏)

 そうしたうえで、プロジェクトマネージャとユーザー部門、システム部門が三位一体になってプロジェクトを進めるのが理想的な姿だという。しかし、実際のプロジェクトでは、ユーザー部門とシステム部門のリソースに差があることが多く、理想通りにはいかないのが実状だ。そのため、「プロジェクトマネージャには、プロジェクトが持つ現実のリソースを見極めて、その特性に応じたプロジェクト運営を行うことが求められる」と杦岡氏は強調する。

 例えば、ユーザー部門のリソースが少ないプロジェクトでは、システム部門が必要とする業務要件を洗い出せず、十分なシステム要件がまとまらないケースが出てくる。この場合には、プロジェクトマネージャとシステム部門、さらには協力会社も加えて、想定される業務要件をユーザー部門に提示するなど、リソースの少ない部分をカバーしながらプロジェクトを進めていく必要があるという。

2つの要件品質が求められる

 最後のポイントとなるが、「要件品質のマネジメント」である。要件定義フェイズは、管理対象と成果物が明確になっている設計・開発フェイズと違って、何をどこまで作るかが不明確な状態である。

 そのため、一般的なWBS(作業分解図)を中心とした定量的管理では不十分であり、求められるプロジェクトマネジメント手法も異なってくる。「後続作業に必要な要件を具現化し、ステークホルダー間で深い理解と合意がなされていることが必要であり、この部分をマネジメントすることが不可欠だ」と杦岡氏は話す。

 つまり、「『要件定義成果物の定量的管理のみに頼るマネジメント』や『一応のユーザーレビューに依存する形式的・属人的マネジメント』から脱却することが、成功する要件定義への近道」であり、それは、要件内容が十分であることを可視化する仕組み作りに取り組み、要件品質のマネジメントを確立するということである。

 例えば、必要な関係者への理解と合意という観点では、合意したとされる要件と合意形成に費やした実績時間の相関を見ることで、理解と合意の十分性を確認する示唆を得られる。より具体的に説明すると、「もし、合意形成の時間が非常に短い要件があれば、要件内容を疑ってみる必要」があり、逆に「時間が掛かり過ぎている場合は、要件内容がまとまっていない可能性が高い」と判断できるのだ。

 このように杦岡氏は、「要件定義フェイズにおいては、要件品質をしっかり管理し、可視化、トラッキングすることで、後続作業での手戻りやプロジェクト失敗のリスクを大幅に軽減できるだろう」としている。

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