IT資産管理のいまと未来勉強会リポート:ライフサイクル管理でコスト削減(2)(1/2 ページ)

2010年5月28日に東京・大手町で開催された@IT情報マネジメント勉強会「ライフサイクル管理で実現する資産管理のコスト削減──なぜSAMは失敗するのか?」の模様をお伝えする。勉強会ではIT資産管理について、基調講演やパネルディスカッションが行われた。今回は各種セッションとパネルディスカッションの様子をお届けする。

» 2010年07月27日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 前回は、2010年5月28日に開催された@IT情報マネジメント編集部主催の勉強会「ライフサイクル管理で実現する資産管理のコスト削減──なぜSAMは失敗するのか?」から、基調講演の内容を紹介した。今回はそれに続くセッションとパネルディスカッションの内容を紹介する。

IT資産管理の自社導入からサービス提供へ

 最初のセッションでは、兼松エレクトロニクス株式会社(以下、兼松エレクトロニクス)マネージメントサービス事業部 クラウドサービス推進室の片貝和人氏が登壇し、同社のIT資産管理に対する取り組みを紹介した。

ALT 兼松エレクトロニクス株式会社 マネージメントサービス事業部 クラウドサービス推進室 片貝和人氏

 同社では現在、顧客企業に対してIT資産管理サービスをSaaS形式で提供しているが、サービス提供を開始する前に、まずは自社内でIT資産管理への取り組みを行ったという。その理由について、片貝氏は次のように説明する。

 「IT資産管理は業務プロセスだ。ツールを導入したら実現するというものではない。従って、業務プロセスや導入手順、効果測定といった点について、顧客にサービスとして提供する前に、自社内で実際に導入して検証する必要があると考えた」

 同社では以前からIT資産の目録は整備していたものの、それらの資産が現在どのような稼働状況にあるかは正確に把握できていなかった。その結果、余っている資産があるにもかかわらず、新たな資産を購入してしまう無駄な投資が発生していたという。また、資産そのものだけでなく、それらの保守契約やリース契約に関しても管理が不十分で、契約継続の手続きを忘れてしまい、無駄な購入コストが発生するような事態も起こっていた。

 そこで同社は、株式会社コアのIT資産統合管理ツール「ITAM」を導入し、資産管理システムの構築に着手。同ツールを選択した理由は幾つかあったが、その中の1つに「資産情報のリレーション管理機能」を備えている点があった。これは、IT資産の管理台帳データベースと、他システムの関連データベース間のリレーションを構成する機能だ。

 例えば、あるIT資産の情報が管理台帳データベースに登録されている場合、その資産の利用者に関する情報は人事データベースに、契約に関する情報は購買データベースにといった具合に、関連情報がさまざまな台帳に分散して登録されているケースが多い。

 このような場合、IT資産に関する情報を参照・更新するたびに、それら複数の台帳データベースにいちいち個別にアクセスするのは効率が悪いし、情報の精度も落ちてしまう。資産情報のリレーション管理とは、このような複数の台帳に登録された情報を、ツールによってすべて関連付けて管理できるようにするための機能なのだ。

 このように、ツールを導入してIT資産管理プロセスを構築した結果、社内のすべての資産を可視化して把握できるようになっただけでなく、異なる資産台帳間の整合性も取れるようになった。また同社では、最終的にはIT資産のライフサイクル管理(LCM)も実現し、より正確で効率的なIT資産の運用を目指しているが、そのための体制と手順を確立することができたという。

 現在同社は、こうした社内導入のノウハウを反映させた資産管理サービスを顧客企業に提供しているが、特に契約管理サービスとライセンス管理サービスに対する引き合いは非常に多いという。片貝氏は講演の最後を、以下のように締めくくった。

 「われわれはIT資産管理のユーザーであり、同時にベンダでもある。どちらの立場も理解でき、どちらの立場にも偏っていないので、中立の立場から顧客に実践的なソリューションを提供できると考えている」

構成管理データベースを中心に据えたIT資産管理ツール

 続いてのセッションでは、株式会社コア プロダクトソリューションカンパニー ネットワークソリューション部 情報資産ビジネスユニット 武内烈氏が登壇し、同社が考えるIT資産管理のあるべき姿と、同社が提供するIT資産統合管理ツール「ITAM」について講演を行った。

 セッションの冒頭、武内氏はソフトウェア資産管理(SAM)の標準規格「ISO 19770-2」の一節を紹介した。

 「私が『これだ!』と思ったのは、次の一節。『ISO 19770-2は、SAMデータの仕様について規定するものであり、完全な便益を得るためには、ソフトウェア製造業者(内部および外部)およびツール開発業者に導入を要求する』。これを読み、思いを新たにした」(武内氏)

ALT 株式会社コア プロダクトソリューションカンパニー ネットワークソリューション部 情報資産ビジネスユニット 武内烈氏

 「ツールを導入してIT資産管理を行う」というと、企業のIT部門は「何だか面倒な仕事を押し付けられそうだ……」とネガティブにとらえがちだが、資産管理ツールは本来、業務を楽にしてIT部門とユーザーの双方を幸せにするためのものだ。上記のISO 19770-2の一節を読み、武内氏はあらためてそのような思いを強くしたという。

 同氏は、ITILの普及やクラウドコンピューティングのトレンドなどを勘案した場合、今後はITをサービスとして提供する考え方が浸透し、そのうえでIT資産管理の重要性は今後ますます増していくとする。

 「そもそもクラウドコンピューティングとは、IT資産をサービス化して提供するもの。その実現のためには、サーバからネットワーク機器、PCに至るまですべてのIT資産をしっかり把握することが不可欠だ」(武内氏)

 同社はツールベンダとして、IT資産管理ソリューションに長く取り組んでおり、特にPC資産のライフサイクル管理には力を入れているという。かつて同社は、PC資産管理の業務フローをワークフローシステムに落とし込もうと試行錯誤を繰り返したが、業務の関係者が多部門にわたるため、結果としてうまく機能しなかったという。

 そこで、ワークフローに代わるものとして同社が採用したのが、構成管理データベースを部門間で共有する方式だ。構成管理データベース内の資産データには、その資産が今どのような状態にあるのかを表す「資産ステータス」を持たせる。そして、データベースを利用する関係者には、おのおのロール(役割・部門)とタスク(作業)を割り当てる。各部門の関係者は、自分のロールとタスクに従って構成管理データベースにアクセスし、目当てのIT資産の情報を参照する。そして、その資産に設定されているステータス情報を確認し、それに沿った作業を実行すれば良いわけだ。

 こうした方法であれば、部門をまたがる業務フローもスムーズに管理できる。また、資産情報を構成管理データベースで一元管理するため、複数のデータベースに情報が散在しているような状態に比べ、情報の整合性を確保でき、管理も効率化できるという。

 ITAMは、この構成管理データベースを中心に据え、その周囲にユーザーインターフェイスや連携インターフェイス、各種ツールなどを配した製品だ。武内氏は「ライフサイクル管理を実現するうえで、構成管理データベースが一番の肝だと考えている」と、その製品コンセプトを説明する。

 2010年6月には最新バージョンである「ITAM V5.0」がリリースされる予定だが、構成管理データベースと他システムのデータベースとの間の連携機能を中心に、さまざまな機能強化が図られているという。

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