小売の業務とIT利用 ―POSとEOSによる店舗運営―IT担当者のための業務知識講座(2)(1/3 ページ)

今回から各業種の業務内容を具体的に検討していく。まずはあらゆる業務のベースとなる小売業を取り上げ、顧客や組織について考察する。

» 2010年07月28日 12時00分 公開
[杉浦司,@IT]

むやみに業務知識を増やしても意味がない

 今回から業種ごとの具体的な業務内容について考察していきます。まずは小売業務を取り上げます。その理由は、「顧客は誰か」「組織の使命は何か」というあらゆる業種の業務の本質を考える土台となるからです。「顧客は誰か」「組織の使命は何か」という問い掛けはピーター・ドラッカーがマネジメントの目的を定義するうえで提示してくれた強力なツールです。業種ごとに共通するマネジメントの目的を明らかにできれば、そこで展開されている業務内容の意義や課題を導き出せるはずです。

 むやみに業務知識を増やしても、それをビジネス革新に結び付けられなければ何の意味もありません。少ない業務知識しか持ち合わせていなくても、その本質さえ押さえていれば論理的に必要となる業務機能を推測でき、慣習的に繰り返されている業務の中から必要なものと不必要なものを見極められるようになるのです。

小売業における顧客は誰か

 小売業における顧客は誰でしょうか。読者の多くは消費者だと即座に答えるかもしれません。しかし、実際に店売りの経験を持つ人であれば、消費者だとは言い切れなかったりします。小売店舗には食品や雑貨など商品の種別を問わず、業者も買い付けにきているからです。小売店舗に買い付けにくる業者は一般消費者と同じように多品種少数の商品を購入します。少品種大量の商品を購入するのであれば、卸売業者から購入した方がお得に決まっています。与信審査や取引条件など制限があるものの、卸売業者の方がコストメリットに優れています。ただ裏を返せば小売の場合は誰でも簡単に取引できるというメリットがあるのです。

 もう1つは、いつでも必要なときに商品を買えるのが小売店舗のメリットでしょう。典型例がコンビニエンスストアです。

 小売業における顧客を学術的に「消費者」と考えてしまうと、そこで思考がストップしてしまいます。業務の本質を理解したいのであれば、顧客の定義はそのニーズから導き出すことが重要です。以下は、本連載における小売業の顧客の定義です。

 「いろいろな商品をいつでも、どこでも、早く、手軽に買いたいというニーズを持つ消費者や事業者」

小売業における組織の使命は何か

 顧客を定義できれば組織の使命はおのずと導き出せます。ドラッカーは顧客を見つけること、顧客を増やすことで企業は利益を生み出せるとしています。そうだとすれば、小売業における組織の使命は「顧客に対して、できるだけいろいろな商品を、できるだけいつでも、できるだけどこでも、できるだけ早く、できるだけ手軽に、買えるようにすること」と定義できます。

 実際には経営資源に限りがあるため、取り扱える商品のリーチ(品ぞろえ)や店舗数、営業時間に限界があります。また、医薬品や食品、眼鏡など法規制対応やノウハウが必要な商品では、誰でも販売できるわけではありません。できるだけ手軽にといっても、分割払いや工事手配などのように、ある程度面倒な事務手続きは避けられないでしょう。個々の小売業者の経営環境や経営戦略によって、組織の使命は限定的になったり、強化されたりするでしょう。つまり、「できるだけ」という言葉には小売業者の思いや悩みのすべてが凝縮されているのです。

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