小売の業務とIT利用 ―POSとEOSによる店舗運営―IT担当者のための業務知識講座(2)(3/3 ページ)

» 2010年07月28日 12時00分 公開
[杉浦司,@IT]
前のページへ 1|2|3       

小売業で必要となる業務

 小売業では、「売る:販売」「置く:在庫」「買う:仕入れ」の3大業務が不可欠です。これに「知らせる:広告宣伝」と「助ける:顧客サポート」が加わります。特に、顧客サポートは高度化しつつあります。現代の小売業では、個人情報保護はもちろんのこと、品質や安全チェック、販売後のトラブル対応など、消費者保護という社会的使命が課せられています。売る品物さえあれば事業を始められるというような時代ではもはやありません。

 高齢化社会に向かう中、顧客の来店を待つだけでなく、注文伺いや商品配達といった昔ながらの小売スタイルも見直されています。新製品の販売サイクルが短くなっており、古い機器に対する保守の継続や、設置支援といったアフターサービスの重要性もますます高まっています。

小売業におけるIT利用

 販売、在庫、仕入れ、広告宣伝、顧客サポートという業務を強化するために、小売業におけるIT利用は不可欠です。以下にそれぞれのIT利用の動向を紹介します。

売る:販売

 POSシステムを利用することで、購入金額の精算だけでなく、販売データに基づいた売れ筋、死に筋商品の分析などができます。会員カードと組み合わせれば、顧客属性(年齢層、性別、地域など)や行動特性(来店傾向、商品嗜好、広告反応など)からみた傾向分析も可能になります。ネットショップでは、送付先住所など顧客情報の登録が前提となるため、顧客属性や行動特性などを基に商品陳列や宣伝広告をカスタマイズできるパーソナライゼーション技術の利用が広がってきています。

置く:在庫

 一般的なPOSシステムは在庫管理機能や仕入れ機能を併せて提供しています。ネットショップ事業者では、例えば楽天など外部のモールシステムを利用する場合、受注データをCSV形式などで取り込んだうえで受注引当てするための在庫仕入れシステムを導入していることが多いようです。

 在庫管理機能は、Excelベースの在庫有高帳のように単純な在庫計算をするものから、発注点数を設定しておけば自動発注してくれる高度なものまであります。しかし、売れ筋や死に筋は日夜動いているものですから、回転率をはじめとする在庫推移の動向をきめ細かく分析、監視できる機能が重要となります。

買う:仕入れ

 仕入れ商品の発注は小規模な小売店では今でも電話やFAXで行われていますが、インターネットの普及によってEDIによるデータ発注が一般化してきています。コンビニやスーパーの多くでは、店頭でハンディターミナルに入力された発注データを仕入れ先にデータ送信するEOS(自動補充発注システム:Electronics Ordering System)が導入されています。EOSの中にはPOSシステムと連携することによって、イメージ表示した陳列棚ごとの商品の在庫状況を表示したり、棚割りができるようなものもあります。仕入れ先が主導して開発したシステムには、FAX注文をOCR(光学式文字読取装置:Optical Character Reader)で読み取るものや、商品カタログをデジタル化してネット上で受注する電子商取引サイトを運営するものなどがあります。

知らせる:広告宣伝

 広告宣伝では、Web広告やメルマガなどの配信が一般的です。ネットショップでは、購入商品から動的に「この商品を買った人はこんな商品も買われています」といったレコメンデーションメッセージを表示したり、顧客のパーソナル情報に類似する別顧客の嗜好や購買履歴を分析してダイレクトメールを送付したりしています。実店舗用のPOSシステムにも、レシートに購入商品から生成したレコメンデーションメッセージを印字するものがあります。

助ける:顧客サポート

 最後は顧客サポートです。顧客サポート業務では顧客情報を管理することが不可欠となります。顧客からの問合せや苦情対応、購入商品の返品や交換など、顧客との全接点において統一性のある応対を実現するためには、購買履歴だけでなく問合せ対応などすべての対応履歴を統合的に管理するCRM(顧客関係管理: Customer Relationship Management)の導入が有効です。

 もう1つ、顧客サポートにおけるIT利用として注目されているものにトレーサビリティがあります。トレーサビリティについては、BSE(牛海綿状脳症)をきっかけに制定された牛肉トレーサビリティ法に基づく牛の生産履歴管理システムが有名です。「ISO 22000:食品安全マネジメントシステム」においても製品回収のためのトレーサビリティ確保が要求されているなど、あらゆる商品について回収対応のためのトレーサビリティの確保が望まれています。

 食品事故が起きた場合に確実に回収するためには、誰にいつ何をどれだけ(商品の仕入れロット)売ったかという出荷記録を残しておくことが重要です。顧客を特定できないスーパーマーケットであっても、商品の仕入れロットをいつからいつまで陳列したかという販売記録は必要でしょう。


 次回は卸売の業務について考察します。卸売業者の業務を理解するうえでも、顧客と組織の使命を考えることが出発点となります。

著者紹介

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

MBA/システムアナリスト/公認不正検査士

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了
  • 信州大学大学院工学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ