小売の業務とIT利用 ―POSとEOSによる店舗運営―IT担当者のための業務知識講座(2)(2/3 ページ)

» 2010年07月28日 12時00分 公開
[杉浦司,@IT]

組織の使命から生じる業務上の課題

 組織の使命からは小売業者に共通する業務課題が見えてきます。「できるだけいろいろな商品を」「できるだけいつでも」「できるだけどこでも」「できるだけ早く」「できるだけ手軽に」という5つの要素には、それぞれどのような課題があるでしょうか。

(1)できるだけいろいろな商品を

 「できるだけいろいろな商品を」といっても、売れない商品を仕入れるわけにはいきません。顧客は他店でも商品を買うことができるため、自店で何を取り扱うべきかしっかり検討することが何より重要です。そのためには、地域での売れ筋や自店舗を訪れる顧客の声を調べる必要があります。小売業においてPOSシステム(販売時点情報管理: Point Of Sale System)による販売分析、GIS(地理情報システム: Geographic Information System)による商圏分析、アンケートなどによるマーケティングリサーチが行われている理由はここにあります。

(2)できるだけいつでも

 「できるだけいつでも」を突き詰めると、年中無休、24時間営業ということになります。近ごろではコンビニエンスストアでなくても夜遅くまで営業している店が増えてきました。

 ネットショップを併用する小売業が多いのも、「できるだけいつでも」を実現するための方策だと考えられます。しかし、夜間営業さえすればよい、ネットショップさえオープンすればよいというわけにはいきません。そこには商品が陳列され、店員(スタッフ)が待機している必要があります。深夜に来店しても品切ればかりだった経験はないでしょうか。注文しても納品回答は休み明けというネットショップはないでしょうか。これでは形だけの年中無休、24時間営業であり、顧客ニーズに対応しているといえません。今日注文すれば明日必ずお届けするというアスクルの経営理念は、シンプルながらすさまじい覚悟を持ったものなのです。

(3)できるだけどこでも

 「できるだけどこでも」を実現しようとすると、新規出店による多店舗展開を考えるか、実店舗の場所に制限されないネットショップを考えることになります。多店舗展開している大手スーパーマーケットですらネットスーパーを運営しているように、「できるだけどこでも」を実現するうえでインターネットの活用は極めて重要な小売戦略といえるでしょう。携帯電話などのモバイル端末では、さらに実現の度合いが高まります。

(4)できるだけ早く

 「できるだけ早く」に対応するためには、在庫を持っておくことが一番の近道です。しかし、売れ残りのリスクがあるため無制限に抱えていることはできません。売れ筋商品の在庫は多く積んでおき、死に筋商品の在庫は減らしていくといった仕入れ在庫管理の業務機能が小売業で重要となるのはご存じの通りです。

 「できるだけ早く」は商品開発の段階でも当てはまります。市場動向の分析から新商品を企画し、仕入れから広告宣伝、商品陳列といった一連の流れに時間がかかりすぎては販売機会を逸する恐れがあります。PB(プライベートブランド)として設計、製造まで行う場合はさらにスピード感が必要になります。アパレルなど流行のある商品の場合には、出来上がったころには顧客の心はすでにそこにあらずということになりかねません。EOS(電子発注システム: Electronic Ordering System)やEDI(電子データ交換:Electronic Data Interchange)、SCM(サプライチェーンマネジメント)を実装し、調達先とのシステム連携によって納期短縮を図ろうとするのは、「できるだけ早く」を実現するための必然的なIT利用といえるでしょう。

(5)できるだけ手軽に

 「できるだけ手軽に」に対応するための小売業の努力は、並大抵ではありません。わたしたちが消費者として小売店舗を利用するとき、何も考えることなく買い物できるのも、こうした努力のたまものです。例えば、わたしたちはスーパーマーケットでかごに入れた商品をどの売り場から持ってきたのか、いちいち申告しません。商品にはタグが付いており、POSレジの担当者はそれをスキャンすることで、たちまちにその商品がどこに置かれていたもので、いくらで販売されていたかを知ることができます。POSシステムが入っていない店舗では、店員がいちいち売り場まで行き、商品名や価格を確認しなければなりません。

 ネットショップでは「できるだけ手軽に」に対応するためにいろいろなシステム機能が提供されています。送付先や支払方法(クレジットカードや代金引換など)、よく購入する商品の登録と再呼び出し、購買履歴など行動特性に合わせたリコメンデーション(お勧め)といった、顧客のパーソナル情報に基づいた、あの手この手のサービスが生み出されています。

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