CIOが経営を説得し、最もコスト高のSAP ERPを導入事例に学ぶシステム刷新(3)(2/3 ページ)

» 2010年09月27日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

リスクが最も少ないSAP ERPに傾く

 実は一次選定の時点では、SAP ERPはさほど高く評価されていなかったという。

 ネックになったのは、価格だ。機能充足度は比較的高いものの、いかんせんライセンス費用が高額だった。そのため、まだ一次選定の時点ではほかの安価な製品の方が高い評価を得ていた。

 では、なぜ二次選定を終わった時点で急にSAP ERPが第一候補に躍り出たのだろうか? 同プロジェクトオーナーである同社 上級執行役員・コープレートユニット担当 兼 システム戦略担当の大日健氏は、その理由を次のように説明する。

 「結局、『動かないリスク』と『開発に掛かるリソースのリスク』が最も低いのがSAP ERPだと判断したからだ。SAPの製品は幅広い採用実績があり、担いでいるベンダの数も1番多い。また法対応の面でも、IFRS(国際会計基準)対応などを視野に入れた場合、SAPを入れていれば基本的には安心できる。このメリットは、上場企業であるわれわれにとっては大きいと考えた」

 ほかの候補製品は、一見コスト上のメリットが大きいように見えたが、その一方でさまざまな面で不安要素が多かったという。

 「例え同じ製品でも、それを担ぐSIベンダによってできることと、できないことが大きく異なっていた。そういう提案内容を見せられると、『じゃあ、そもそも製品の標準機能とは何か?』や『アドオン開発とは何か?』と、疑心暗鬼にならざるを得ない。こうなると、最も多くのベンダに長年支えられている製品を選ぶのが、開発リスクを減らす意味では最も賢明だと判断した。またコストに関しても、初期導入時だけではなく、カットオーバー後の維持や改修などを視野に入れた場合、特定のベンダにロックされてしまう製品よりも、多くのベンダが手掛けている製品の方が、長期的な視点で見たトータルコストを抑えられるのではないかとも考えた」(大日氏)

 こうして、二次選定を終えた2009年12月初旬の時点で、プロジェクト内ではSAP ERPの採用がほぼ内定していた。しかし、高額なライセンス費用は依然として大きなネックになっていた。ここから、同社とアビーム、SAPジャパンの間で価格交渉が始まる。その交渉内容は、それなりにシビアなものだったという。

 しかし、例えライセンス費用のディスカウントを引き出せたとしても、ほかの製品に比べて大幅に安価になる見込みは薄かった。このまま会社としてすんなりとゴーサインが出るかどうかは、この時点ではまだ不透明な情勢だった。

CIOが経営陣を口説きまわる

 そこで大日氏は、早速SAP ERP採用の妥当性を経営陣に説いて回る。

大日氏 GDO 上級執行役員・コーポレートユニット担当 兼 システム戦略担当 大日健氏

 ここで、今回GDOが採ったプロジェクト体制について少し触れておきたい。前回、同プロジェクトが現場主導で進められていることと、そのような体制を採るに至った背景を紹介した。大日氏はCIOとしてプロジェクト全体を管轄する役割にあるが、同氏いわく「わたしはプロジェクトのコントロール役というよりは、むしろプロジェクトメンバーにコントロールされてるようなもの」だという。

 「今回は、GDOとしては社長の名前が入っていない初めてのプロジェクトになった。社長ではない人間が現場と一緒にやっていき、現場が社長ではない人間を使って社長とネゴるという、初めての試みになった」(大日氏)

 従って、プロジェクトの現場と大日氏が共に考え、導き出した「SAP ERPの採用」という結論を、経営陣に説得するのが同氏の役割というわけだ。

 「プロジェクトとしては、検討に検討を重ねた結果、『もはやSAP ERP以外に選びようがない』という所まで来ていた。しかし、価格が高いものをあえて選ぶ理由を経営陣に納得してもらうのは、決して簡単な仕事ではない。でも肝はやっぱり、『リスクというものをどう考えるか』という点に尽きた。そしてもう1点は、IFRS対応などの法令順守。この2点を詰めていき、根気よく説明していった。また、他社の大規模ECサイトにおける同製品の採用事例なども、併せて説明した」(大日氏)

 こうして、経営陣に対する説明を続ける一方、ベンダとの価格交渉も大詰めを迎えつつあった。こうした地道な努力が実を結び、2009年末、ついにSAP ERPの採用が正式に決定した。

 SAP ERPの導入作業は、アビームが担当することになった。さらに、G10プロジェクト全体を管轄するPMOチームにもアビームは参画することになった。こうしたアビームとのパートナーシップも、今回のプロジェクトでは重要な鍵を握っていると大日氏は言う。

 「アビームさんがSAP製品に関する豊富な実績とナレッジを持っていることは、当然分かっていた。これに加えて、われわれ自身が要件定義に深くコミットしていくことで、かなりのリスクを回避できると考えた。少なくとも、システムがローンチできなくなるような事態は避けることができるだろうと判断した」(大日氏)

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