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» 2016年07月21日 06時00分 UPDATE

麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」:実用化に向かう8K技術群――技研公開で見えた8K放送の実現性 (1/4)

前編に続き、「技研公開」のレポートをお送りする。今回は8Kを中心とした「すぐそこの未来」がテーマだ。長年にわたってNHKの8K開発を見つめてきた麻倉怜士氏は、今年の8K展示からどんな未来を描くだろうか。

[天野透,ITmedia]

 前回に引き続き、5月下旬に行なわれた「技研公開」(NHK放送技術研究所の一般公開)のレポートをお送りする。前回は裸眼立体映像を中心とした未来の放送技術を取り上げたが、今回は8Kを中心とした「すぐそこの未来」がテーマだ。長年にわたってNHKの8K開発を見つめてきた麻倉怜士氏は、単板式フル8Kカメラやホログラムメモリ、あるいは地上波8K放送や次世代コーデックなどといった今年の8K展示からどんな未来を描くだろうか。

麻倉氏:今回はより具体的な近未来映像技術である8K関連の話題をお話しましょう。前回も触れましたが、今まで映像の最先端技術というと、とくにNHKでは8Kが中心だったのが、今年は立体という新基軸へ移りました。つまり研究対象としての8Kはある程度完成したということです。8Kは昨年くらいで撮像から編集、伝送、表示という一連の流れをクリアしており、既に実用化研究のレベルで最先端を開発するフェーズは終了しているのです。

――今後の8K開発は「安定性や効率化など、汎用規格としての精度をいかに高めるか」というレベルが主題となる訳ですね

麻倉氏:そのような前提のもと、研究所として今後の8Kは研究開発として何を攻めていくかという方針が、今回の技研公開で示されました。1つは8Kの高度化です。一口に8Kといってもその概念は広い訳で、現行のハイビジョンも最初は走査線が650本でOKというゆるいものでしたが、次第に720本、1080本と進化していきました。この流れに例えると、今の8Kはいわば720pの段階です。実用化といってもその規格を“極めた”という訳ではなく「とりあえず入りやすい段階を作った」というのが現状なので、今後はいかに“本物の8K”へ移行させるための提案をするかというのが主題となります。

 8K高度化の規格としては、まずBT.2020(広色域)が挙げられます。HDRは入っていませんが、色域やDレンジは広く、8K解像度を持ち、フレームレートの規定値は60〜120fpsです。では実際問題として出てくるテレビはどうかというと、まだ全てのテレビがBT.2020とはいかず、フレームレートは60fps止まりです。松竹梅の“梅”ですね。今回の展示では、どのようにして“竹”や“松”へ行くかという方針が出てきたということが極めて重要です。それが分かるのがアストロデザインの8Kカメラです。

アストロデザインが手がけた“フル8K”単板式カメラ

――アストロデザインはこの連載でもお馴染みの、NHKの最新技術をサポートする映像機材の開発集団ですね

麻倉氏:従来の単板カメラはデュアルグリーン方式で、8Kの3300万画素のうちRGBが均等に配分されているのではなく、緑画素以外の色を減らすことで解像感を稼ぐという手法をとっていました。対して今回のものは1枚の素子でRGB各色がそれぞれ8K画素を持っています。つまり(サブピクセルの)総画素数が1億3000万画素のCMOSを使い、それぞれにカラーフィルターを同じ数だけ配置しているのです。

――4つのサブピクセルでフルカラーを表示するいわゆる「ベイヤー配列」で、いままではサブピクセルの総数が3300万個だったのが、今回は緑が6600万個、赤と青が3300万個ずつあるものを作ってきたということですね。確かにこれは大きな進化です。

総画素数1億3000万の新CMOS

麻倉氏:CMOS自体は一昨年の時点で開発されており、昨年の「NABショウ」で発表・展示されていました。これの何が凄いかというと、単板式でもRGB 3板式のものに引けをとらない色解像度を出せるカメラになったという点です。今回のデモではこれを使い、リアルタイムで撮影したミニチュアレイアウトをリアルタイムで85型8Kディスプレイに表示していました。出てきた映像は色の深み、彩度感、階調感など、豊富な情報量を持っていましたね。しかもカメラヘッドは4Kと同じくらいのコンパクトなものです。これからこのカメラはさまざまな撮影現場で活躍するでしょう。“小さい”ということは大きなアドバンテージで、8Kのコンテンツ制作にも大きな力を与えます。

 このカメラは色的にフル解像度であるというだけでなく、HDR撮影にも対応しています。8KのHDR映像は2015年の「CEATEC JAPAN」でHybrid Log-Gamma(ハイブリッドログガンマ:以下HLG)を使ったものが初披露されましたが、今回の技研公開でも8Kの新しいトレンドとして、HLGを用いたDレンジ拡張を展示していました。従来からいわれている色のリッチさと解像感の高さにHDRが加わることで、8Kの生々しさやリアリティーがより増します。そういった8K HDR映像が、この単板カメラでならばしっかりと撮影できるという訳です。

――8K時代に求められる性能をキッチリと搭載してきたカメラですね。ますます活躍の場が広がりそうです

麻倉氏:ただし、フレームレートは60fps止まりです。今後は120fps化することで、動画における8Kらしさをキープしようとしています。こういったところからも「8Kの高度化を目指す」とはどういうことか、分かりますね。

新CMOSの優位性を示す解説パネル。カラム配置では4つのサブピクセルでフルカラーを表現するが、従来の単板方式は画像上部右側の画素配置で、実はフルカラー表示にすると4K分しかデータがなかった

麻倉氏:これとは別に、次世代のCMOSイメージセンサーが初登場したのもかなり印象的でした。先程のアストロデザインは単板式でしたが、こちらは裏面照射型の3板式の8Kセンサーで、光を無駄なく取り込むことができます。

静岡大学との共同開発による、超小型裏面反射型8Kイメージセンサーと解説パネル。10円玉の半分以下の小ささなので、3板式にしてもユニットがグッと小さくなる

――裏面反射というとセンサー層が回路層の上に乗っている、光とセンサーの間にじゃまな物がないチップですね。ソニーのイメージセンサー「Exmore R」などが有名ですが、今回のものは何が凄いのでしょうか

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