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空回りするスマートフォンの健全化対策小寺信良「ケータイの力学」

さまざまなアプリをインストールできるスマートフォン。ユーザーにふさわしくないアプリはレーティング機能によってフィルタリングできるはずだが、実効性はどこまであるのだろうか?

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 前回の「カカオトーク」の現状について、驚きのリアクションが各所から届いてきたが、現時点でも相変わらずApp StoreとAndroidマーケットのカスタマーレビュー欄は、放置状態が続いている。ほとんどのユーザーがアプリに対するレビューではなく、自分のプロフィールとIDをさらして評価に★5つを付けるので、もはや評価機能を果たしていない。そもそも「出会いとかは求めていません」と書いてIDをさらすという行為自体、意味不明である。

 Androidマーケットでは、昨年末からアプリ開発者に向けてレーティング表示を義務づけた。開発者に対してのコンテンツのレーティングは、全対象、低、中、高の4段階に分かれている。詳しくはマーケットのヘルプにも記載があるが、表にまとめると次のようになっている。

「Androidマーケット」によるアプリケーション コンテンツのレーティング
コンテンツレベル 条件
全対象 ・ユーザーの現在地データは収集しない
・好ましくないコンテンツを含まない
・ユーザー コンテンツを共有しない
・ソーシャル機能を含まない
・刺激の少ないアニメーションや架空の暴力描写、不適切である可能性のあるコンテンツを含む
・現在地データを収集するが、そのデータを他のユーザーと共有しない
・ある程度のソーシャル機能が含まれるが、ユーザー同士の出会いやコミュニケーションを主眼としない
・性的な内容の言及、刺激の強い架空の暴力描写やリアルな暴力描写、冒とく的な表現や下品なユーモア、薬物、アルコール、タバコの使用への言及、ソーシャル機能、ギャンブルのシミュレーションを含むことがある
・ユーザーの同意を得た上でデータを共有または公開するために、ユーザーの現在地データを収集することがある
・性的な内容または性的なものを暗示する内容、暴力的な画像、ソーシャル機能、ギャンブルのシミュレーション、刺激の強いアルコール、タバコ、薬物の使用への言及を主眼とする、またはそのような内容を含むことがある
・ユーザーの同意を得た上でデータを共有または公開するためにユーザーの現在地データを収集することがある

 条件としては、性的・暴力的な内容のレベル、現在地データの収集と共有、ソーシャル機能のレベルという3項目で区別しているようだ。

 現在カカオトークは、「コンテンツレベル中」で登録されている。「コンテンツレベル低」では、“ユーザー同士の出会いやコミュニケーションを主眼としないもの”とあるので、「中」は妥当な評価であろう。そしてそのツールを使って、どのようなコミュニケーションをするかはユーザーに任せられている。

機能しないレーティング

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Androidマーケットに搭載されたレーティングオプション

 カカオトークだけが、そして日本だけでこのような出会い系ツールになった理由は定かではない。一説には一部の同性愛者がパートナーを探すために、マイナーなツールであった同アプリを使い始めたのがきっかけという噂もある。

 一方今年5月には、Androidマーケットの機能として、閲覧する際にユーザー側がレーティングによって表示されるアプリを制限できるオプションが追加された。レベルとしては、全員、少年向け、青年向け、成人向けがある。「すべてのアプリを表示」は実質的にレーティングを使わないということになる。

 制作者向けのレーティングと、ユーザー側のレーティングの表現が合わないが、上から順に当てはめるということになるのだろう。

 しかしユーザー側のレーティングは、自分で設定するものである。自分は少年だから、“少年向け”のレーティングを自分で設定する子がどれだけいるだろうか。

 さらに、“青年”という定義は非常に曖昧だ。ウィキペディアによれば、青年に該当する年齢は、一般的にはおおむね15歳から39歳までをさすとされている。40歳前まで青年というのはどうかという意見もあるだろうが、商工会議所の青年部などは40歳で卒業というルールがあり、このあたりの慣習が幅を広くしている。


開発者とユーザーのレーティングの比較
開発者向けレーティング ユーザー向けレーティング
全対象 全員
少年向け
青年向け
成人向け

 しかし法律的には20歳を超えたら成人ということになっているわけで、そうなってくると青年と成人の境目が約20年かぶるという、ものすごい事態になる。こういう分け方のレーティングが、機能するのだろうか。

 この問題は、もはや携帯電話の世界だけにとどまらない。iOS端末であれば音楽プレーヤーとして携帯キャリアの契約なしで買えるiPod touchがあるし、先日のIFAではAndroid搭載ウォークマンが参考出品されている(これまでもAndroid搭載音楽プレーヤーは存在したが、それらはAndroidマーケットが使えなかった)。スマートフォンと同じアプリが使える音楽プレーヤーも、やがて同じ問題を抱えることになる。

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iOSに搭載されているアプリのレーティング機能

 iPhone、iPod touchについてご存じない方のために補足すると、iOSでは設定の中に、子供の年齢をレーティングしてアプリをインストールさせない、あるいは特定のアプリを起動させない「機能制限」という設定がある。設定も解除も暗証番号でロックするので、ペアレンタルコントロールが可能だ。

 ただ、年頃の子供のiPod touchをいちいち取り上げて機能制限をかけるというのも、親としてはなかなか厳しい話だ。さらに子供に先回りされて、全機能をオンの状態で機能制限パスワードをかけられてしまうと、親は子供からパスワードを聞き出さない限り、機能制限が使えなくなってしまう。

 人間が考える仕組みのことだから、必ずどこかに穴はある。さらにアリバイ作り程度の健全化への取り組みもある中で、新しいものが出てくるたびにいちいち大騒ぎして社会問題に担ぎ上げていては間に合わない現実が、もう目の前に来ている。いくらケータイを取り上げても、子供たちからネットを遮断することはもう無理なのだ。一刻も早く各家庭へ、ネットがある前提での子育て支援に着手するしか道はない。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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