ITmedia NEWS >

ネット業界団体がISPに自主規制を呼び掛け

» 2005年08月26日 16時48分 公開
[IDG Japan]
IDG

 インターネット業界団体USIIAが、顧客の権利に関する業界独自の規範を確立して、米議会の介入を阻止しようと業界に呼び掛けている。

 全米インターネット産業協会(USIIA)は8月25日、顧客が好きなアプリケーションとコンテンツに――あくまでも合法的に――アクセスできるようするとともに、顧客にはスパムやスパイウェアといった望まないコンテンツを遮断するサービスを受ける権利があることを認識しようとインターネットサービスプロバイダー(ISP)に訴えた。USIIAはワシントンD.C.に本拠を置く、会員200名以上で構成される業界団体。

 USIIAのデビッド・マクルーア会長兼CEO(最高経営責任者)は、こうした自主規制によって、現在米議会に提出されているオンラインコンシューマーの権利に関する幾つかの法案を阻止できるかもしれないと語っている。「われわれ業界が自ら進んで自己統制機構を確立することで、議会とFCC(連邦通信委員会)は介入しなくて済む」(同氏)

 FCCは今月初め、大手電話会社が競合企業に安値でDSL回線を開放することを義務付ける、昔ながらの規制を撤廃すると発表した。マクルーア氏は、この規制緩和にともない、インターネット企業は今後――弁護士や会計士を監督するのと似たような――自主規制型の業界評議会を構成する必要があるだろうとしている。

 今月初めにFCCから支持を得た消費者の権利の数々は、「Principles for Broadband and IP Services」(ブロードバンドおよびIPサービスの基本原則)と題されたUSIIAのホワイトペーパーにまとめられている。FCCではこれら権利を義務付けてはいないものの、顧客がネットワークに害をもたらさない限り、好きな合法的コンテンツに自由にアクセスし、好きなアプリケーション/サービスを利用し、それらを好きな合法的デバイスで利用できるようにすることをISPに求めている。

 FCCはこれまで長きにわたり、消費者が合法的なコンテンツにアクセスし、ブロードバンド回線を通じて好きなアプリケーションを利用する権利を支持してきた。この権利は「Net neutrality」(ネットの中立性)とも呼ばれている。しかし一部の議員や消費者団体、そしてVoIPプロバイダーのVonage Holdingsからは、これら権利を定義する法律の制定を求める声が上がっている。

 Vonageのジェフリー・シトロンCEOは、ブロードバンド企業3社が、顧客によるVonageサービスの使用を規制または阻止しようと試みたと訴えた。名前の挙がったノースカロライナ州のブロードバンドプロバイダーMadison River Communicationsについては、FCCが今年3月に制裁金1万5000ドルの支払いとVonageサービス遮断の中止を命じ、和解が成立している。

 シトロン氏はコロラド州アスペンで開催されたProgress and Freedom Foundationイベントで25日、残り2社との係争は未解決のままだが、FCCが最近DSLの規制緩和に乗りだしたこともあり、今後FCCはVoIPやほかのサービスを遮断するブロードバンドプロバイダーに罰金を科す権限を持たなくなると語った。これからは、独自のVoIPサービス展開をもくろむブロードバンド企業によるVonageなどの独立系サービスを阻止する動きが増えるだろうと同氏は予測した。

 「時間の問題だ。サービスの運営企業が競合を排除するということが、一体私たちがこの国で求めている原則なのだろうか?」(同氏)

 これに対し、USIIA会員でもあるVerizon Communicationsを含む一部のブロードバンドプロバイダーは、「これまでの法律は必要ない。なぜなら顧客の拘束はプロバイダー自身のためにはならないからだ」と主張。好きなWebサイトやサービスにアクセスできなければ、顧客はほかのプロバイダーへの乗り換えを考えるだろう、とVerizonの連邦政府担当上級副社長、ピーター・デビッドソン氏は説明した。

 同氏もまたアスペンのイベントで、問題は限られているのに、「無理に起こり得る問題を考え出し、それを阻止する規制を敷くというのか?」と訴えた。「(プロバイダー各社が)従うであろうコミットメントがあるはず、というのが私たちのアプローチだ」

 ネットの中立性に関する法律は、プロードバンドプロバイダーにとって帯域幅を消耗するスパマーなどの阻止にも役立つだろう、と全米ケーブルテレビ協会(National Cable & Telecommunications Association)の会長兼CEO、カイル・マクスラロウ氏は言う。「人々はWeb上の好きなところに、今、アクセスできる――それがあるべき姿だ」と同氏は言い添えた。

 今月初め、リック・バウチャー下院議員(バージニア州選出・民主党)は、ネットの中立性に関する法案を、今年後半にかけて議論される予定の電気通信改革法案に盛り込むよう議会にも求めた。「ネットの中立性に関する原則を成分化した法律が含められなくては、規制構造に著しいギャップを残すことになり、この穴は将来不適切な競争優位性を狙う企業によって、再び悪用されることになるはずだ」と、同氏は述べている。

 USIIAのマクルーア氏は、FCCは先のMadison Riverに対する調査で、1万5000ドルの和解を成立させるために数万ドルを費やしたとし、これは現行規制の非効率性を示す好例だと主張している。「この業界はあまりに長い間、マーケティング上のささいな争いの解決に政府の介入を必要するという自滅的な構造に依存してきた」(同氏)

 ネットの中立性に関する法律は、「現実には決して起こり得ないであろう仮想の脅威を防ごうとしている」(同氏)とも。

 USIIAが提案している基本原則には、5つの消費者権利と5つのネットワークプロバイダーの権利が含まれている。ネットワークプロバイダーの項には、商用契約を通じてほかのプロバイダーと相互接続する権利、ならびに好きなコンテンツにアクセスし、好きなアプリケーションを走らせることができるという顧客の権利を侵害しない限りにおいて、自社の専有サービスを顧客に提供する権利が盛り込まれている。

Copyright(C) IDG Japan, Inc. All Rights Reserved.