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“街の力”でAmazon対抗――神保町の書店ネット書籍とネットの微妙な関係

» 2005年12月01日 16時42分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 Amazon.co.jpなどネット書店が売り上げを伸ばす中、既存の書店が苦しんでいる。新刊書店30店舗と古書店160店舗がひしめき合う東京都千代田区神田神保町は、長引く出版不況に加え、近隣の大学が郊外に移転した影響などで訪れる人が減り続けているという。

 町内に本店を置く三省堂書店は、神保町“復活”の第一歩として10月から、町内の他書店と在庫情報を共有し始めた。探している書籍が三省堂になければ、在庫のある他の書店に案内する仕組みだ。

 ライバルに顧客を渡すことにもなりかねないが、神保町全体の活性化を優先。「神保町なら探していた本が必ず見つかる」という環境を築きながら、実店舗の良さをアピールする手段を探っていく。

photo 神保町の三省堂書店神田本店

 神保町の三省堂書店本店には、店内の書籍の在庫情報を検索できるタッチパネル端末が9台ある。10月から同端末で、同店の約300メートル先にある岩波ブックセンターの在庫情報を検索できるようにした。同時に、岩波ブックセンターの店員用端末からも、三省堂の在庫情報を検索できる仕組みにした。

 目当ての本が町内のどの書店にあるか教えることで、神保町から顧客を逃さない作戦だ。三省堂の端末で書籍を検索した顧客のうち1日あたり20人程度が岩波ブックセンターに足を運ぶといい、神保町内での顧客の循環に一役買っていると三省堂書店事業企画部の児玉好史部長は自負する。

 在庫情報共有システムへの参加書店は今後増やす計画で、書泉グランデほか1社の参加が決まっているという。神保町の古書店検索サイト「BOOK TOWNじんぼう」とも連携したい考えだ。

 児玉部長によると、神保町の書店は相互に協力しあってきた。自社の店舗に在庫がない書籍に関しては、「近くの○○書店なら、この分野に強いから置いてありますよ」などと案内することも多かったという。「本屋が集中している小さな町で、反目しあっていたら生きていけない」

 在庫情報を見せ合うと、ライバル店でどんな本が何冊売れているかがリアルタイムで分かる。自社のマーケティングデータをまるまるライバルに見せてしまうことにもなるが、メリットの方が大きいと児玉部長は話す。各書店は「文芸に強い」「コミックに強い」「オタク分野が深い」などとそれぞれ強みや特徴があり、直接は競合しないというのが児玉部長考え。強みの異なる書店なら、マーケティングデータを渡しても構わないというわけだ。

Amazonは「対極のライバル」

 「Amazonのようなネット書店は対極のライバル」と児玉部長は言う。ネット書店は、目的の本を買いにくるためだけの場所。神保町の実店舗は「何かあるかもしれない」とぶらりと来てもらって書棚を楽しみ、本をパラパラめくって知らなかった本と出合ってもらう場所。販売する商品は同じでも、役割は異なると見る。

photo 児玉部長

 ただ本を買うだけならワンクリックのネット書店のほうが便利。わざわざ電車賃と体力と時間をかけて神保町の書店に来てもらうためにはどうすればいいか――「小売りの本来に立ち返る必要がある」と児玉部長は言い、接客という小売りの基本を徹底したいと話す。

 「書店員とのコミュニケーションが楽しめる場にしたい」と児玉部長は考える。たとえ目的の本がなくても「書店員と楽しい時間を過ごせたからまた来よう」と思ってもらえるような書店作り目指す。

 同時に、神保町全体の魅力もアピールしていく考えだ。例えば「この喫茶店は徳富蘆花の行きつけだった」「あの中華料理店は周恩来の書が飾ってある」など神保町ならではの街の魅力を情報発信し、街としてのリアルさ、面白さをアピールしたいという。

 「神保町としての“街の力”があるうちに、対策を練っていきたい」

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