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西日本鉄道「nimoca」はこんなサービスになる神尾寿の時事日想: (1/2 ページ)

» 2007年12月21日 13時06分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 九州の福岡を中心に鉄道・バス路線を展開し、地域密着で多角的なビジネスを営む西日本鉄道グループ(にしてつグループ)。同社は九州最大の民間鉄道会社であり、全国の民鉄各社で見ても主要10社に入る大手公共交通事業者だ。また福岡の経済的中心地である天神地区に駅と商業施設を持ち、沿線には大規模な住宅事業を展開している。他にも、航空貨物など運輸分野でのプレゼンスも高い。このように西日本鉄道グループは、九州を代表する大企業と言える。

 この西日本鉄道が、2008年春から導入するIC乗車券および電子マネーのシステムが「nimoca(ニモカ)」である(参照記事)。鉄道の天神大牟田線全駅と一部の路線バスでIC乗車券を、さらに天神を中心とした福岡都心部と沿線商業地域に電子マネーを取り扱う加盟店を展開する予定であり、“九州のIC乗車券/電子マネー”として今もっとも注目されている。

 今日の時事日想は特別編として、西日本鉄道 事業創造本部 ICカード開発室課長の飯田浩之氏にインタビュー。九州におけるnimocaの取り組みと、サービス開始に向けての展望を聞いた。

nimoca(ニモカ)
西日本鉄道 事業創造本部 ICカード開発室の飯田浩之氏(左)と杉本将隆氏(右)

福岡の中心地「天神」を軸に、多角的な事業展開

 西日本鉄道は福岡を中心に北部九州を事業エリアとしている。鉄道事業の軸は天神大牟田線で、営業キロ数は95.1キロメートル、車両数は318両、駅数は61駅(うち無人駅4駅)である。九州の経済的および文化的な中心地である「天神」から大牟田駅まで福岡県を南北に結び、天神−大牟田間の所要時間は特急電車で約60分。そのため地元では古くから「特急電車」の愛称で親しまれている。1日あたりの輸送人員が約26.4万人に及ぶ、福岡の大動脈だ。同社は他にも、福岡市東区貝塚から新宮町を結ぶ貝塚線(営業キロ数11Km、駅数10駅)を所有しており、こちらは福岡市営地下鉄2号線と接続している。

 そして、もう1つ同社の特徴になっているのが、バス事業の大きさである。西日本鉄道のバス事業は本体とグループ会社10社で構成されており、保有車両数は約3000台。1日あたりの輸送人員は77万8千人と、鉄道事業以上の規模で“福岡県民の足”になっている。

 「西日本鉄道は社名に“鉄道”とありますが、鉄道事業そのものの路線距離や駅数は、大手私鉄各社の中でそれほど規模の大きいものではありません。むしろ(規模が)大きいのはバス事業で、グループ合わせた保有車両数3000台は日本一の規模。運輸事業の収益で見ましても、鉄道よりバスの方が多いという状況になっています」(飯田氏)

 西日本鉄道グループの構成は90社1学校法人で、運輸業は本体の西日本鉄道を筆頭に、鉄道・バス・タクシー・物流を合わせて29社になっている。グループ全体の収益構造では、運輸事業が占める比率は全体の約27%。その他の大きなセグメントとしては、収益の約24%を占める流通小売業、約30%を占めるレジャー・サービス業がある。運輸事業は事業の柱だが、収益構造の多角化が進んでおり、「鉄道」一極集中でないのも特徴といえる。

 「もう1つの特徴が不動産業ですね。(西日本鉄道は)福岡経済の中心である天神地区に福岡(天神)駅を中心とした商業施設を所有しており、このエリアを『天神ソラリア』地区として開発しています。ここは天神大牟田線の鉄道事業とも連携していますので、我々の事業にとって中心地でもあります」(飯田氏)

 天神ソラリアの開発計画は昭和61年からスタートしており、ソラリアターミナルビルを中心に、ソラリアプラザビル、ソラリアステージビルが隣接している。ソラリアターミナルビルには天神大牟田線の福岡(天神)駅と西鉄天神バスセンターがあり、キーテナントとして「福岡三越」が入る。ここは福岡における交通と商業の要衝だ。また、この天神ソラリア地区のすぐ近くには、西日本鉄道が所有するオフィスビル「福岡ビル」がある。福岡の経済・文化の中心である天神は、西日本鉄道にとってビジネスの要でもある。

nimoca導入の狙い

 西日本鉄道が来春展開する「nimoca」は、IC乗車券としては、福岡(天神)駅を中心とした天神大牟田線と一部バス路線で展開する。このnimoca導入で西日本鉄道が狙うのは、福岡における公共交通利用全体の効率性・利便性の向上だ。

 「福岡における公共交通の状況を見ますと、収益および輸送人員は、最盛期からの落ち込みは一段落しましたが、それでも微減から横ばいという状況です」(飯田氏)

 西日本鉄道の統計によると、バス事業のピークは1964年(昭和39年)度、鉄道事業のピークは2006年(平成4年)度。その後は減少傾向が続き、昨年度にやや微増して落ち込みが止まったところだ。福岡市の人口構成比で見ると、10代後半から20代半ばの年代で他の地方都市より大きな人口流入があり、他地域よりも“人が集まる”傾向はあるものの、公共交通事業の実態は厳しい状況が続いているという。

 「公共交通事業が厳しい背景には、1つにはモータリゼーションの進展がありますが、それ以上に『少子高齢化』が懸念材料ですね。特に今後は団塊の世代の定年退職が進み、通勤需要の落ち込みが予想されます。現役世代の減少が及ぼす影響は大きい」(飯田氏)

 一方、モータリゼーションで見ると、郊外型ショッピングセンターが増加したことで、人の流れが郊外に向かう傾向が見られるという。

 「(福岡の)住宅需要そのものは『都心回帰』の傾向が見られます。しかし、商業で見ますと郊外型ショッピングセンターが増えた結果、クルマで買い物に行く傾向が強くなっている。

 このような環境変化の中で、(西日本鉄道では)天神エリアの商業地としての価値向上と、公共交通の効率性・利便性向上が重要だと考えています。nimocaの導入はこういった背景を受けています」(飯田氏)

 公共交通におけるIC乗車券システムの導入では、駅の自動改札運用の効率化やコスト削減、料金収受の確実性向上など様々なメリットがあるが、西日本鉄道がまず重視したのは「バス乗降のスムーズ化」である。

 「西日本鉄道グループのバスは東京(編注:都バスなど)のような定額ではなく、乗車距離に応じて料金が変動するタイプですが、これがnimocaに移行すれば乗降がスムーズ化になる。これはお客様の利便性向上とともに、乗降時間の短縮につながり、バスの運行改善にもなります。nimoca導入に当たり、バスの利便性向上は強く意識した部分です」(飯田氏)

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