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Survey:コラム 2003/10/15 00:01:00 更新

通信と放送の“非”融合〜何が両者の間を隔てているのか?〜
第1回:ケータイから見た“非”融合(上)

「通信と放送の融合」というキーワードが叫ばれ続けて10年以上が経過しているにもかかわらず、一向に変わる気配を見せていないようだ。通信と放送が「融合していない」という事実から真の「融合」を実現する上で解決すべき課題について考えていきたい。

はじめに

 「通信と放送の融合」というキーワードが叫ばれ続けて10年以上が経過している。

 xDSLやFTTHといったブロードバンド加入者数は既に1000万件を超えるなど、かねてから夢見られ続けてきた社会のブロードバンド環境は着々と整いつつある。

 そうなると、そろそろいい加減「通信と放送が融合した!」という実感が得られてもいいようなものだが、一般生活者から見る限り、通信と放送は一向に交わる気配を見せていないように思える。

 実際のところ、通信業界の「放送的」ビジネスへの進出、放送業界の「通信的」ビジネスへの進出、の事例は既に登場している。しかし、そこでむしろ「通信」と「放送」の二つの業界が本質的にいかに相容れないかが浮き彫りになってくることも多い。

 「通信」と「放送」の融合を口にするだけなら簡単であるが、それを乗り越えるためのハードルは思いのほか高い。逆に言えば、両者の違いを乗り越え「融合」が実現できたとすると、非常に大きく「おいしい」果実が収穫できる可能性も高い。

 本稿では通信と放送が「融合していない」という事実から逆照射し、業界の取引慣行、企業風土、ビジネスモデルの違い、生活者需要性、法制度など、放送と通信を隔てるさまざまな要因を検討しながら、真の「融合」を実現する上で解決すべき課題について考えていきたい。

 そこで第1回目は、数年後の実現が期待されている携帯電話での地上波デジタル放送受信を題材として、「融合」において何がネックとなっているかを検討したい。

次々と発表されるテレビ付き携帯電話試作機

 今夏、NEC三洋電機などから地上波デジタル放送を受信できる携帯電話の試作機が相次いで発表されたことは記憶に新しい。バッテリーの持続時間が短い(1時間強)など、ユーザビリティにおいて改善すべき点はいくつかあるが、携帯電話向け地上波デジタル放送に関する技術的要件はほぼクリアされたと言っても過言ではない。

NEC

NEC試作機

三洋電機

三洋電機試作機

 技術的な解説は割愛させていただくが、地上波デジタル放送の最大の特徴として、移動体でもクリアーな映像が受信できるという点がある。放送局、通信キャリア、端末メーカー各社はいち早くそこに目を付け、携帯電話でのテレビ放送受信の可能性を技術、需要性、ビジネス性などあらゆる側面から検討してきた。しかし、いまだサービスの開始時期が確定できていないのが現状である。

 実は、当初は携帯端末向けのテレビ放送サービスは2003年末の地上波デジタル放送開始と同時にはじまる予定だった。この予定が大幅に遅れた最大の要因は、動画圧縮方式の特許料支払いに関して放送局と特許管理団体の交渉が難航したためである。

 特許管理団体は、従来メーカーからのみ徴収していた特許料を拡張し、コンテンツ配信事業者にも特許使用料を課すことを発表した。管理団体側にはこれによって開発コストの回収を容易にしようという意図があったが、放送事業者はこれを拒否し、交渉は平行線を辿った。放送局側にどれほどの利益増が見込めるか分からない中、年間最高1億円という特許料負担を強いられることに放送局が拒絶反応を起こしたのも無理はない。

 しかし、放送局が反発したのは金額の問題だけではないように思える。そもそも(地上波)放送は極めて特殊なビジネス構造をしている。すなわち、受益者(視聴者)から直接対価を得るのではなく、番組の間に広告を挟み、それを多くの人々に到達させることで広告主から対価を得るという構造である。特許料の支払い方式はコンテンツ配信時間に応じて料金を支払う「ユース課金」という形態になるが、特許使用料を利用者に負担させることができない放送局にとって、ユース課金の考え方が馴染まないのももっともなことである。

広告料か通信料か 〜異なる「儲け」の構造〜

 そもそも、携帯電話という「通信」端末に、テレビという「放送」サービスを載せることは思いのほか容易ではない。

 第1に、放送事業者と通信事業者(キャリア)の収益構造の違いがある。先述のように、放送局の最大の収益源は広告主から得る広告収入である。一方、通信キャリアの収益の柱はパケット料である。携帯電話向けテレビ放送によって、放送局にどれだけの広告収入の増加をもたらすかは定かでないが、少なくともこれによって放送局が損害をこうむることは考え難い。

 一方、通信キャリアにしてみれば地上波デジタル放送は諸刃の剣である。テレビ番組は放送波で配信されるから、ユーザーがテレビを視聴するだけではパケット通信は発生せず、通信キャリアに何の利益ももたらさない。それどころか、携帯でのメールやネットの利用がテレビ視聴に置き換わってしまうと、パケット通信の減少をもたらす恐れさえある。

 これに対して、通信事業者サイドはEPG(電子番組ガイド)、番組連動型通信サービスなど、通信連動型のサービスによってパケット通信を増大させようと考えている。しかし、こうしたサービスがどのくらいパケット通信を誘発するのかは定かではない。

放送事業者は「プロデューサー」、通信事業者は「プラットフォーマー」

 第2の問題として、放送事業者と通信事業者は担ってきた役割が異なるという点がある。放送事業者(キー局)は生産から流通のバリューチェーンのあらゆる領域をカバーする垂直統合型のビジネスモデルを取ってきたが、あくまでもコア・バリューは番組プロデュース能力にある。一方、通信事業者はインフラ(伝送路)部分にコア・バリューがあり、その中身は何であれ、「確実に情報を伝達させること」が第一の使命である。したがって、通信事業者はコンテンツ流通のプラットフォームを提供する能力に長けている反面、コンテンツ制作・調達のウェイトは低く、蓄積ノウハウも少ない。

放送と通信のバリューチェーン

放送と通信のバリューチェーン

 もちろん、両者が手を組むことによって確固たるバリューチェーンが築けるには違いない。しかし、業種・業態も異なれば、これまで担ってきた機能も異なる通信事業者と放送事業者が同じテーブルにつき、共通言語で会話すること自体容易ならざることである。

「大きければ大きいほどよい」放送と、「大きいだけでは困る」通信

 第3の問題として、通信業界と放送業界のメンタリティーの違いが指摘できよう。「マスメディア」という言葉に象徴されるように、放送事業者にとっては「広くあまねく」番組・広告を到達させることが至上課題であり、既存の放送システムはそれを可能ならしめる形で構築されてきた。

 もちろん通信業界においても規模の大きさは重要であるが、放送と比べて通信はシステム的な制約が大きい。通信では輻輳(大勢の人が同時に回線を利用するなどでトラフィックが増え、ネットワークが混雑してつながりにくくなること)の問題が生じるからである。通信においては、確実なサービスを提供するための「適性規模」の考え方が重要であり、無闇に規模だけが大きくなることは望ましくない。

「融合」はありえるのか?

 以上で検討してきたように、通信と放送の間には、収益モデル、事業構造、業界のメンタリティーなど様々な違いがあり、その違いが「融合」の阻害力として働いている。

 それでは「融合」は絵に描いた餅に過ぎないのだろうか? これまでネガティブな点ばかり述べてきたが、生活者にニーズがあり、そこにビジネスチャンスが見出せるのならば、通信と放送の両事業者は協力し合い、万難を排して「融合型サービス」に取り組むはずである。

 その可能性については次回以降に詳細に検討したい。次回は「シナジーとカニバリズム」という視点から分析してみたいと考えている。

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▼第2回:ケータイから見た“非”融合(中)

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▼OPINION:電通総研

[西山守,電通総研]

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