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インターネットはマスメディアになるのか?e-biz経営学

» 2005年04月06日 03時04分 公開
[水野誠,筑波大学]

 ライブドアによるニッポン放送買収騒動を契機に、インターネットとテレビ(マスメディア)の関係が改めて議論されています。2004年のインターネット広告費がラジオ広告費を上回ったというニュースを聞くと[1]、広告主にとってインターネットがマスと同列の存在となりつつあるという印象を受けます。実際、1カ月に何百万というアクセスがある有力サイトの場合、消費者へのリーチ(広告メッセージの到達範囲)の点で雑誌やラジオと比べ遜色ないといえるでしょう。

 では、インターネットはマスメディアになれるのか? これを考える上で興味深い議論を紹介しましょう[2]。ゲーム理論には「共通知識」(common knowledge)という概念があります。これは、お互いにあることを知っていることをお互いに知っており、そのことをさらにお互いに知っている(無限の繰り返し)…ということです。Eメールなどで共通知識を成立させるのが難しいことは、皆さんも理解できると思います。共通知識を得るためには、理論上、私が相手のメッセージを了解したという返事し、相手が「私が了解した」ことを了解したと返事し、さらに…と延々メールを繰り返さなくてはなりません。もちろん現実には1〜2回の「了解」で終わってしまうわけですが、言われてみれば、どこか不安が残る感じがしないでしょうか。

 マスメディアの場合、あるメッセージを同時に多くの人々が得ていることを個々が了解し、さらにそうした了解をお互い共有していることを個々が了解している…という共通知識が成り立っています。今同時に何十万、何百万という人々が同じイベントを見ているという実感を与えます。単に視聴者が多いというだけでなく、彼らの間に共通知識が成り立っていることが、マスメディアの真の力なのです。したがって、インターネットがマスメディアになり得るのは、サイトへの来訪者が何百万人もいるということだけでなく、その何百万かが今この瞬間、同じ情報を共有したと実感させることができたときです。 

 さて、ここで少し視点を変えて、インターネットがマスメディアになるかどうかを広告という側面から考えてみましょう。バナー広告の特長はクリックを通じてサイトに導き、より詳しい情報を提供したり直接購買を喚起したりすることだと言われてきました。しかし、現実にはクリックスルーレートは低下傾向にあるようです。これは、インターネット広告費の増加というトレンドと矛盾しているように思えます。

 ここで興味深いのが、ネット広告の効果は、TVスポットや駅貼広告と同様、露出であり、それを通じたブランド知名の形成であることを実証した研究です[1]。アイカメラを用いて消費者の視線を追跡したところ、インターネットになれた人ほど、バナー広告を避けて閲覧する傾向があることがわかりました。やはり、バナー広告は期待された役割を果たしていないのか… しかし、視聴者によってバナー広告のブランドを変えてみると、その効果はちゃんと、サイト訪問後のブランド想起率の変化に現れたのです。つまり、消費者はバナー広告をしっかり注視しているわけではないが、周辺知覚なども含め、何らかの形でバナーに接触し、知らず知らずのうちにブランド名を記憶しているということなのです。

 だとすると、バナー広告は多くのマス広告と同じように、露出の繰り返しによって認知を形成する役割を果たすものとして、同列に考えることができます(もちろんインターネットのほうが相手を特定し、それに合わせてカスタマイズしやすいという違いがありますが)。あとは、目的に照らしてどちらのコスト・パフォーマンスが高いかの問題。広告という観点からは、インターネットはある部分、マスメディアとしての条件を満たしつつあるのではないでしょうか。

[1] http://www.itmedia.co.jp/survey/articles/0502/18/news063.html

[2] チウェ、マイケル・S・Y、儀式は何の役に立つか:ゲーム理論のレッスン、安田雪訳、新曜社、2003年。

[3] Xavier D. and H. Francois-Xavier, Internet Advertising: Is Anybody Watching?, Journal of Interactive Marketing, 17(4), Autumn 2003, 8-23.



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