iPhoneの目玉機能なのに日本は“お預け” 「AppleのAI」が抱えるジレンマとは(2/3 ページ)
個人のアシスタントAIには「プライバシー」が重要
Apple Intelligenceではいろいろなことができる。メールの要約をし、文章をまとめ直し、友人に送るメッセージ内の絵文字を「生成」し、街中にあるポスターからスケジュールを生成する。
簡単にいえば、利用者の周囲にある情報にAIが関与し、個人のアシスタントとなることを目指している。
この方向性はアップルだけのものではない。GoogleやMicrosoft、サムスンなど、「個人が使うIT機器を扱う大手」が一斉に目指している、と言っていい。
その中でテーマとなってきたのがプライバシーの保護だ。
AIが個人のアシスタントとなるには、機器の中に蓄積されている「利用者の行動や情報を活用」する必要が出てくる。ChatGPTにはいろいろな質問ができるし、文書の翻訳も手伝ってくれるだろう。だが現状は、自分のスケジュールも友人関係も分からないから、個人のアシスタントになれるわけではない。
自分に関するプライベートな情報や、守秘が求められる情報を無造作にクラウド上のサービスに預けられるわけではない。
そこで出てきたのが、個人が持つ機器(スマホやPCなど)の中で処理を完結し、クラウドに情報を送らない「オンデバイスAI」だ。
GoogleはAndroidの中に同社の生成AIである「Gemini」を結合していこうとしている。そこで、プライバシーに関わる情報や素早い反応が求められる機能については、デバイス内で動き、クラウドに情報を送らない「Gemini Nano」を利用する。
Microsoftも生成AIを使うWindows 11搭載PCとして「Copilot+ PC」を定義した。オンデバイスAIを動かす目的から、Copilot+ PC向けのプロセッサには「40TOPS(Tera Operations Per Second)以上のNPU搭載」という条件が付いている。
オンデバイスAIを活用する、という意味ではApple Intelligenceも同様だ。現状、Apple Intelligenceに対応するiPhoneはiPhone 15 Pro系とiPhone 16系、16 Pro系。これらの機種が採用するプロセッサには35TOPSのNeural Engine(NPU)が搭載されており、主にこの能力で処理を行う。
すでにスマホの中では多数のAIが使われているが、生成AI系の機能ではより性能が求められる。「デバイス内で動く個人のためのアシスタント」を実現するためにはプロセッサの刷新が必要であり、アップルも例外ではなかった。
「オンデバイスAI能力不足」のジレンマ
ただここに1つのジレンマがある。
デバイス内で処理をするために性能を上げ、スマホ内で動く生成AIを導入したとしても、「AI自体の絶対的な能力」ではクラウド上の巨大な生成AIには現状敵わない、ということだ。
Apple Intelligenceで採用され、iPhoneの中で動作するAIモデルは約30億パラメータ。GoogleのGemini Nanoも約32億パラメータだ。それに対し、クラウドで動作する大規模な生成AIのパラメータ数は、数百億から数千億規模。GPT-4などでは兆の単位になってくる。
パラメータ数だけでAIの賢さが決まるわけではないが、今すぐ使える「オンデバイス生成AI」の能力には相応の制限があるわけだ。宣伝する機能が期待外れ……と評価される可能性はある。
では、性能不足からこれらの機能は意味がないのか、というと、そうではない。
特にApple Intelligenceが採った技術は非常に興味深い。
Apple IntelligenceはオンデバイスAIだと書いたが、これはあくまで「基本的には」という話だ。別途「Private Cloud Compute」という仕組みが用意され、こちらではより大きなAIモデルが動作している。デバイス内で処理が足りなくなるような場合には、Private Cloud Computeの処理能力を使ってカバーするわけだ。
「結局クラウドを使っているが、プライバシーは?」という疑問が出てくるだろう。Private Cloud Computeでは、処理に使うサーバを「機器ごと」に完全に分けつつ、処理に使ったデータも蓄積できない仕組みが取られている。もちろん、AIの学習にも使わない。クラウドではあるが、必要な時に自分のiPhoneが使うプライベートな処理系が一時的に増える……という仕掛けになっているわけだ。
他社は処理を分け、プライバシーに関わらない部分をクラウドのAIで処理したり、「プライバシーを保つ」という条件でクラウドのAIを使ったりしている。アップルは大規模な生成AIを持っていないからPrivate Cloud Computeを開発したわけだが、プライバシーの守り方と性能の維持について、他社とは違う戦略を採ったと言える。Apple Intelligenceの性能を高めやすい一方で、Private Cloud Computeの利用頻度がずっと下がらないようだと、サービス運営のコストが嵩んでいくことにもなる。
この差がどう機能に「目に見える形で」反映されるかは、もう少し様子をみる必要がある。
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