小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
「AIリテラシー」って一体なに? 企業に求められる水準を考える(1/3 ページ)
「リテラシー(literacy)」という言葉がある。ケンブリッジ辞書で調べてみると、その意味は「読み書きする能力」「特定の分野に関する、もしくは特定の種類の知識」と定義されている。しかしご存じの通り、最近では「何かを正しく理解したり、使用したりする能力」というニュアンスで使われている。「ネットリテラシー」と言えば、ネット上に流れる有象無象の情報を正しく理解し、活用する能力……といった具合に。
特に近年、新しいデジタル技術、中でもメディアに関係するものについて「〇〇リテラシー」という造語に使われる例が見られる。ただその際、漠然とした意味にとどまっていることが多く、識字能力の場合のように「読み書き」という具体的な能力が示されることはまれだ。
その造語の最新の例が「AIリテラシー」である。先ほどの解釈に当てはめれば「AIを正しく理解し、活用する能力」という意味だろう。すでにさまざまな場所でAIリテラシーの必要性が叫ばれているが、こちらも他の〇〇リテラシー同様、具体的にどのような能力があればそれが身についたといえるのかはっきりしていない。
一方、AIリテラシーの普及に向けて、企業に具体的なアクションを取ることと求める動きが生まれている。代表例の一つが、EUで導入された「AI法(AI Act)」における規定だ。ではAI法においてAIリテラシーはどう定義され、また専門家はそれにどう対応することを推奨しているかを見てみよう。
EU AI法における「AIリテラシー」
まずはAI法における規定だ。同法において、AIリテラシーは次のように定義されている。
「AIリテラシー」とは、提供者や導入者、影響を受ける人々が、この規則(※AI法)の文脈における各自の権利と義務を考慮しつつ、AIシステムを十分な情報に基づいて導入すること、ならびにAIの機会やリスク、さらには生じ得る害について認識することを可能にするスキル、知識、理解を指す」
つまりは「AIを正しく提供・導入・使用する能力」なのだが、ポイントはAIの使い方に関する知識だけでなく、「機会やリスク、生じる害を認識する」能力も含むのだと指摘されているところだろう。
AI技術に限らず、新しい技術を適切に利用するには、その有効なユースケースだけでなく、それがもたらす各種のインシデントについても理解しておかなければならない。AI法で言う「AIリテラシー」には、後者に関するスキルや知識も含まれていることが明確に示されている。そうしたAIリテラシーについて、AI法は次のような義務を定めている。
AIシステムの提供者や導入者は、スタッフやその代理でAIシステムの運用や利用に携わる人々のAIリテラシーを十分なレベルに保つために、彼らの技術的知識や経験、教育、訓練の程度、ならびにAIシステムが使用される文脈を考慮しながら、可能な限りの対策を講じなければならない。またその際、AIシステムが使用される対象となる人々や、そのグループにも配慮しなければならない。
こちらも要するに「AIを提供・導入する者は、関係者にAIリテラシー教育を実施せよ」ということなのだが、興味深いのは「文脈」や「AIシステムが使用される対象」を考慮しながら、実施する教育の中身を決定せよと説明している点だ。
全従業員がAIに関する高度な知識を持つ必要はないという意味であると解釈すれば、この規定は企業の負担を軽くするものといえるが、一方で何が「十分なレベル」であるかの判断を求められている点で、企業にとっては新たな悩みの種となり得る。
「十分なリテラシー」をどう判断する?
それでは何をもって十分と判断するか、つまり求められるリテラシーの内容をどう整理していくかについては、専門家からさまざまなアドバイスがなされている。まずは導入するAIシステムのタイプによる分類だ。
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小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
生成AIやメタバース、新たなサイバー攻撃など、テクノロジーの進化が止まらない。少しずつ生活の中に浸透し、その恩恵を預かれることもある一方、思いもよらない問題を生み出すこともある。このコーナーでは、さまざまな分野の新興技術「エマージング・テクノロジー」について、小林啓倫氏が解説する。
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