小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
“AIが国家運営を左右”する時代がやってくる? 注目の「ソブリンAI」とは何か、“4つの要素”で解説(1/4 ページ)
2025年11月17日、ウクライナ政府は「主権AI(ソブリンAI、sovereign AI)」の構築に関する国家方針を示した。デジタル変革省が、米NVIDIAなどと提携し国家的AIインフラの整備に向けた共同プロジェクトを行うという。狙いは、政府が使う重要なAIサービスを支える計算基盤を自国の統制下で整備し、戦時下も含む国家運営に必要なAI機能を安定提供できる体制の構築だ。
12月1日には、その第1弾として、国家LLM(ウクライナの国家向け大規模言語モデル)の開発計画を発表。同国の通信大手Kyivstarと、デジタル変革省傘下のWINWIN AI Centerが、米GoogleのオープンなAIモデル「Gemma」をベースに、政府機関の文書など公的データを幅広く学習させ、行政サービスや官民の実務に使える基盤を目指す。
一方日本でも、類似した動向が見られる。政府は23日、AIに関する国家戦略「人工知能基本計画」を閣議決定。AI関連施策に1兆円超を投資する方針などを示している。戦略の一部では「国家主権と安全保障の観点や日本の文化・習慣なども踏まえた信頼できるAI」の実現を目指し、AIモデルの開発やデータの整備などを推進するとしている。
ウクライナ政府が追求し、日本政府の姿勢からも伺える主権AIとは、どのような概念なのか。本稿で整理してみたい。
「主権AI」とは? 4つの要素で整理
豪マッコーリー大学のロバート・デール名誉教授によると、主権AIの概念自体は、20年ごろから存在していた。当時は「デジタル主権(個人や企業、国家などが、自身の関連データやインフラを自らの意思で管理・統制できる権利)」や「データ保護」を巡る政策議論の文脈で語られていたが、次第にAI技術全体を管理・統制する概念へと発展したという。
主権AIがバズワード化するのに決定的な役割を果たした人物として、デール教授はNVIDIAのジェンスン・フアンCEOを挙げている。フアンCEOは23年11月に開催されたNVIDIAの決算説明会以降、「sovereign AI」という言葉を前面に出して各国政府へのアピールを始めた。その結果、世界各地で主権AIを掲げる動きが一気に加速したという。
なぜフアンCEOはこの言葉を使い始めたのか。NVIDIAは23年以降、GPUやAI基盤を国家単位で提供するケースが急増した。しかしそのままでは「米国企業によるAI支配」との批判を招くことになってしまう。それを避けると同時に、各国のデータ主権や経済安全保障に関する懸念を緩和する言葉として主権AIを掲げた。
では主権AIは、どのように定義できるのか。デール教授は「主権」の一般的な概念(国家が外部干渉なしに自らを統治できる能力)をAIに当てはめ、主権AIを「外国の企業やプラットフォームに依存せず、自国のインフラ・データ・人材に基づいて、AIシステムを自前で開発・維持・運用できる国家の能力のこと」と定義する。これを分解すると、次の4つの要素に整理できる。
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小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
生成AIやメタバース、新たなサイバー攻撃など、テクノロジーの進化が止まらない。少しずつ生活の中に浸透し、その恩恵を預かれることもある一方、思いもよらない問題を生み出すこともある。このコーナーでは、さまざまな分野の新興技術「エマージング・テクノロジー」について、小林啓倫氏が解説する。
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