小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
“AIが国家運営を左右”する時代がやってくる? 注目の「ソブリンAI」とは何か、“4つの要素”で解説(4/4 ページ)
1)「国内に置かれたインフラ上でAI技術を開発する能力」
国内インフラに関する取り組みの達成度は高い。BNP ParibasのデータセンターとGPUを整備し、社内基盤として運用しており、主権AIの要件を達成しているといえるだろう。処理の「場所」と「運用責任」が同社内にあり、監査・規制対応も積極的に設計している。
2)「ローカルなデータと人材に基づいてAIを開発すること」
ローカルなデータと人材については、「前進中」という評価にしたい。社内データで学習した独自モデルを前向きに提供しているが、現時点では外部のAIモデル(オープンウェイトモデルやMistralのモデル)を社内で安全に使う段階にとどまる。一方、同社内では、AI活用を戦略計画の柱に置き、実に800以上のユースケースが本番環境で稼働しているといい、同社全体での取り組みも確認できる。
3)「外国プラットフォームや多国籍企業への構造的な依存からの自由」
国外プレイヤーへの依存からの脱却は、評価が最も割れる領域だ。外部クラウドの「ブラックボックス」に丸投げせず、同社のデータセンターで運用する設計は依存度を下げる。また顧客が自社環境でモデルを展開でき、自社データを外に出さずに済むアプローチを採用するMistralとの提携は、米国の巨大プラットフォーム企業への一極集中を避ける手でもある。
ただしGPU供給や基盤モデルの進化は、グローバルなサプライチェーンに左右される。完全な独立は難しく、依存度が0になっているわけではない。現時点では、依存先を分散し、交渉力を高める状態を達成していると見るのが妥当だろう。
4)「AIライフサイクル全体のコントロール」
ライフサイクル統制については、共通基盤+段階的な展開+リスク管理の仕組みという3つの要素がそろっており、成熟度は高い。また一部の部門での先行導入・検証を踏まえて、ノウハウを同社全体に段階的に広げる手法は、AIを「全社で安全に量産する」ガバナンスを達成するものになるだろう。
総じてBNP Paribasは、4要素のうち1)と4)を先に固め、2)と3)を段階的に引き上げる戦略を採用していると評価できる。フルスタックな主権AIでわけではないが、企業レベルで到達できる内容として、多くの企業の参考になるのではないだろうか。
主権AIの実践で問われるのは「範囲とレベル」
BNP Paribasの事例が教えるのは、主権AIに注目が集まる時代、守りこそが最大の攻めであるという逆説的な事実だ。主権AIの強固な基盤があるからこそ、最も重要な業務領域にもためらいなく最新AIを投入できる。
とはいえ、ここまでの取り組みを直ちに行える体力のある組織は、企業レベルでは限定されるだろう。多くの企業に問われるのは「どの範囲まで、どのレベルの主権を確保するか」という点と、掲げた目標を達成するまでのロードマップだ。
企業内の全ての業務において、最高レベルの主権確保が求められるわけではない。軽微な社内業務は、SaaS型のAIアプリケーションでも十分だろう。しかしミッションクリティカルな業務や、顧客の利益を大きく左右する業務の場合は、安心安全に継続的運用するための環境が必要だ。その切り分けをして、重要な領域を取りこぼさないことが求められる。
目標を定めたら、どう達成するかも計画しなければならない。その際には前述の「主権AIの4つの要素」の考え方と、BNP Paribasの事例が参考になるだろう。どの要素から先に着手し、段階を追って実現していくのか。各業界・各企業において、さまざまな考え方があるはずだ。
「sovereign」という英単語の語源となったラテン語の「superanus」には、「上にある」という意味があるそうだ。AIをより積極的に活用していくために、より上位のAIガバナンスである「主権AI」の追求が求められている。
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小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
生成AIやメタバース、新たなサイバー攻撃など、テクノロジーの進化が止まらない。少しずつ生活の中に浸透し、その恩恵を預かれることもある一方、思いもよらない問題を生み出すこともある。このコーナーでは、さまざまな分野の新興技術「エマージング・テクノロジー」について、小林啓倫氏が解説する。
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