話題の職種「FDE」、実際何をやってるの? OpenAIの現役2人に聞いた
「社内では『Tip of the spear』とよく言われる」――米OpenAIのForward Deployed Engineer(FDE)である齊藤初雲(さいとう しょうん)氏は、自身の役割についてこのように説明する。
Tip of the spearは、日本語の「一番槍」に似た言葉だ。戦いにおいて最初に敵陣に突入するイメージから、危険や困難が伴う任務を真っ先に引き受ける人や集団を指す。
FDEは昨今、OpenAIをはじめとするAI開発企業の間で注目を集める職種だ。多くの場合、顧客と現場で連携しながら、AIシステムの設計から開発、導入まで担うとされる。一方、話題となって日が浅いこともあり、業務の実態は見えにくい。
実際のFDEの働き方とは、どのようなものなのか。仕事内容や事例、日本での展望について、OpenAIのFDEチームで働く齊藤氏とライアン・ケイン氏(Strategic Delivery Lead)に聞いた。
SIerやコンサルとの違いは?
OpenAIのFDEチームでは、顧客企業の課題発掘に始まり、解決策の立案、AIを活用したソリューションの構築、導入までを支援する。基本的には技術者で構成されており、ケイン氏らStrategic Delivery Leadが中心となり顧客と連携する。
ケイン氏は、従来のシステムインテグレーター(SIer)やITコンサルタントとの違いとして「本番環境で動くAI」を実現するための体制を挙げる。独自のモデルやプロダクト、APIを提供している強みを生かし、経営層や現場の社員と膝を突き合わせて課題を探りながら、AIの導入を進める。
「どこにこのモデルを当てるべきか、という初期の構想から導入まで一気通貫で担う。OpenAIのモデルが本番環境で動いていない限り、われわれに十分な価値はない。価値を最大化するには、全工程を網羅する必要がある」(ケイン氏)
研究やプロダクト開発を担うチームとの連携もその一環だ。FDEチームでは、OpenAIのAI技術を企業課題に適用する際、従来のモデルやプロダクトでは対応できない部分も見つけ出す。こうした知見を開発側に還元し、顧客に提供できるモデルやプロダクトの改善につなげる。
導入後の運用は、場合によって異なる。FDEチームが携わりながら徐々に顧客のIT部門でも運用できるようにするケースや、OpenAIのパートナー企業が一部引き継ぐケースなどがある。
取り組むのは“ChatGPTでは解けない課題”
一方、FDEの支援は、AIによる効率化を求める全ての企業に必要というわけではない。課題によっては、法人向けAIサービス「ChatGPT Enterprise」などで解決できることもあるからだ。
FDEは、Tip of the spearという表現の通り、既存のAIモデルやプロダクトでは解けない困難な問題に最前線で取り組む。モデルが学習していないデータを扱う専門性の高い分野でAIを導入したり、試行錯誤の結果、残された課題に対応したりするパターンなどがある。
齊藤氏は日本での事例として、ある企業の営業部門における業務改革プロジェクトを挙げる。同部門は規模が大きく、業務の属人化や従業員ごとの成果のばらつきなどが生じていた。そこで、FDEチームが業務に特化したAIエージェントのシステムを開発した。新卒社員の提案の質が3~4年目の社員と同等のレベルまで高まるなどの成果が出たという。
「こうした組織の業務効率を高め、全体のパフォーマンスを底上げするシステムを構築するには、単にChatGPT Enterpriseを導入するだけでは難しい。その業務を深く理解し、必要となるソリューションやプロダクト、技術などを選定し、E2Eで作る必要があった」(齊藤氏)
コードのモダナイゼーションにも注力している。ケイン氏によれば、20~30年前に開発された基幹システムでは、仕様書が残っていないこともよくある。ただAIでコードを生成するだけでなく、動作検証まで含めて作り込み、セキュリティ上の脆弱(ぜいじゃく)性も修正しながら実運用できる状態まで持っていくという。
「モダナイゼーションは8割が完成したとしても、本番導入までの残りの2割がとても重要な分野の一つだ。そこをスピード感を持って実現するため、FDEが入ることがある」(ケイン氏)
より高性能なAIサービスへの置き換えも「悪いことではない」
FDEによるAI導入プロジェクトが製品化につながったケースもある。齊藤氏が、ある企業で「Microsoft PowerPoint」を使った資料作成の工数削減に取り組んだ時のことだ。支援用のAIエージェントを構築してプロダクトチームにも連携したところ、性能の高さから、Microsoft PowerPointのアドイン「ChatGPT for PowerPoint」として製品化された。
OpenAIのFDEならではの事例といえるが、顧客企業としては、AIモデルやサービスの性能が日々向上するなかで、AI導入の効率も考えざるを得ない。ケイン氏によると、経営層から「この半年間人材を投入して作るものが、最終的に別の製品やサービスに置き換えられたらどうするのか」といった懸念が寄せられることも少なくないという。
ケイン氏は、モデルの進化をキャッチアップしながらAIシステムの開発を進めることを前提に、こうした置き換えも大局的にはプラスになるとの考えを示す。
「(置き換えは)決して悪いことではない。よりサステナブルで性能の高いものができたとしても、それまでに培った知見やスキルは残るため、次のより大きな業務課題に取り組めるようになる。われわれもモデルの進化を受け入れる立場だ。顧客に対しても同じようなマインドセットのシフトを支援している」(ケイン氏)
FDEは「0→1」 日本での展望
OpenAIのFDEを巡っては、同社傘下でAI導入を支援する米OpenAI Deployment Companyが5月に設立された。また、ソフトバンクグループとの合弁会社であるSB OAI Japanも日本企業向けにAI導入を支援している。
ケイン氏は、OpenAIのFDEと2社の役割分担について、主にOpenAIのFDEが「0→1」、OpenAI Deployment CompanyやSB OAI Japanが「1→10」と整理する。
「0→1はFDEがやる。一方、まだ新しい分野であっても、スケールの観点からは、既存技術の土台の上で横展開することが重要だ。全人類にAIを届けるにあたって、FDEが全てを担えるわけではない。OpenAI Deployment CompanyやSB OAI Japanが1→10に展開していく」(ケイン氏)
日本でもFDEのニーズは高まっており、OpenAIとしても重視するマーケットの一つだという。今後は製造業や金融業を中心に、サイバーセキュリティの強化やコードのマイグレーション(別環境への移行)などに注力するほか、「新しい分野」にも積極的に取り組む考えだ。
「FDEはやはり、新たな問題に真っ先に取り組むチームだ。今後もモデルが改善されるにつれ、新しい課題・分野も出てくるだろう。1年先は誰にも予測できないが、前向きにさまざまな分野に挑戦したい」(齊藤氏)
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