小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
“AIが国家運営を左右”する時代がやってくる? 注目の「ソブリンAI」とは何か、“4つの要素”で解説(3/4 ページ)
しかし特に生成AIの登場以降、「高性能なAIを自社内で安定的に使い続けられるか否か」が企業の競争力に直結する状況になりつつある。さらに、AIをビジネスの補助ツールと位置付けるのではなく、AIを中心に据えてビジネスモデルを組み直す「AIファースト」を実践する企業では、AIの利用可否がビジネスの存続にまで影響する。いうなれば、AIがビジネスの基盤インフラになっている。
ここに、近年注目を集めている「経済安全保障」の観点も加わる。経済安全保障とは、国家や社会の安全を守るため、重要物資や技術、インフラなどの維持や安定確保を図り、経済活動を通じた脅威や依存関係のリスクを管理・低減する考え方を指す。ロシアのウクライナ侵攻や米中対立など、世界各地で緊張が高まる今、経済活動を安定して維持するための仕組みが企業にも問われている。
その結果、従来のAIガバナンスを超えた主権AIの取り組みに、企業も関心を寄せている。ここでは、実際に主権AIを企業レベルで追求している例として、欧州最大級の金融グループである仏BNP Paribasを挙げてみたい。
BNP Paribasの主権AIに関する中核施策は、25年6月に発表した社内共通基盤「LLM as a Service(大規模言語モデルをサービスとして提供する仕組み)」だ。LLM as a Serviceは、同社の各部門が、各種AIアプリケーションの頭脳にあたるLLMに統一的にアクセスできる「共通の窓口」となる。
重要なのは、全ての処理がBNP Paribasのインフラ内のセキュアな環境で実行されることだ。同社のIT部門が運用し、各部門が勝手に外部ツールを導入する状況を避けている。標準化された安全なインタフェースを通じて利用する設計のため、セキュリティと統制が両立する。同社のデータセンターに基盤を設置し、GPUなど専用の計算能力を備えている。
現在、LLM as a Serviceでは、各種のオープンソースAIモデルに加えて、同社のパートナーであるAIスタートアップの仏Mistral AIのモデルを提供している。将来的には、BNP Paribasの社内データセットで学習した独自のモデルも展開する計画という。
BNP Paribasによると、Mistral AIとの提携は23年9月に始まった。当初はグローバルマーケッツ部門での試行だったが、この結果が良好だったことから、24年2月にはグループ全体に展開。今後は、顧客対応や営業、IT部門など幅広い領域への適用を見込んでいるという。
またBNP Paribasは、公式サイトに掲載したWeb記事内で、Mistral AIについて「透明性が高く、オープンウェイトモデル・アプローチを採用しており、顧客はモデルを容易にカスタマイズできるだけでなく、顧客データを外部に持ち出すことなく、自社内でモデルを自己展開することも可能」と述べている。
もっとも前述の通り、主権AIは「インフラの箱」を整えるだけでは完成しない。BNP Paribasは、AI開発を推進するフランスの非営利団体「Hub France IA」主導のホワイトペーパーの作成に参画。AIシステムのリスクを体系的に洗い出し、対策手法の整備に関与した。さらにBNP Paribasのグループをまたぐタスクフォース「ai@scale」を組成。データサイエンス基盤の整備やリスク管理など、実行レベルでの課題の解決を加速したという。
“主権AIの4要素”でBNP Paribasを評価すると……
では、先ほど整理した主権AIの4つの要素別に、BNP Paribasの現状を評価するとどうなるだろうか。
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小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
生成AIやメタバース、新たなサイバー攻撃など、テクノロジーの進化が止まらない。少しずつ生活の中に浸透し、その恩恵を預かれることもある一方、思いもよらない問題を生み出すこともある。このコーナーでは、さまざまな分野の新興技術「エマージング・テクノロジー」について、小林啓倫氏が解説する。
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