「エンジニアの代替ではなく、できることを増やす」 Devin開発元が見据えるIT外注大国・日本の“伸びしろ”

 自律型のAIエンジニア「Devin」を提供する米Cognition AIが、日本市場への攻勢を強めている。2026年4月にはアジア太平洋地域で初となる拠点として日本法人を設立した。Devinのユーザー人口は「アメリカに次いで2番目に大きい」という。IT人材の約7割がSIerなどベンダー側に偏在するといわれるIT外注大国・日本で、同社は何を見据えているのか。日本法人代表の正井拓己氏に聞いた。

Cognition AI Japan代表の正井拓己氏(撮影:筆者)

評価額は4兆円超 急成長「Devin」の特徴

 Cognition AIは2023年設立の若い企業だ。24年3月、自律的にソフトウェアを開発する「AIエンジニア」としてDevinをリリースし注目を集めた。26年5月の資金調達で評価額は4兆円を超え、年間売上高は約790億円まで拡大した。顧客は米Goldman Sachsや米Microsoftといった世界有数の金融機関や企業をはじめとした大企業が多くを占める。Devinの利用量を示すセッション数は、26年初めから現在にかけて10倍以上に増えたという。

 Devinの特徴について正井氏は「エージェント型IDEが開発者と高頻度に対話しながら支援する『優秀なペアプログラマー』だとすれば、Devinは自律的に動く『独立したソフトウェアエンジニア』。タスクを渡せば、計画から実装、テスト、プルリクエストの作成まで自律的に完結する」と説明する。エンジニアが実際にコードを書く時間は2割程度で、残りの8割はコードベースの理解や設計、レビュー、テストといった作業だ。Devinはこのライフサイクル全体の自動化を狙って設計されたという。

AIによるソフトウェア開発の進化の過程(出典:正井氏の投影資料)

「アジア太平洋初の拠点」はなぜ日本だったのか

 その同社がアジア太平洋地域初の拠点を日本に置いたのは、日本市場が抱える課題とDevinが提供する価値の適合性が高いからだと正井氏は説明する。同氏が挙げるのは、IT人材の不足やレガシーシステムへの依存といった課題だ。

日本市場が抱える課題(出典:正井氏の投影資料)

 「Devinは既存のエンジニアを代替するものではない。日本企業ではそもそもIT人材が不足していて、これまでできないことがたくさんあった。それをできるようにするのがDevinのような(自律的に開発を進める)ソリューションだ」(正井氏)

 日本ではITエンジニアの約7割がSIer側に偏在し、エンドユーザー企業側の人材が不足しているとされる。だからこそ、外注から内製への転換や、ドキュメントが残っていないレガシーアプリケーションのモダナイゼーションなど、これまで難易度が高くて手を付けられなかったプロジェクトへのDevinの適用が進むという。

 導入企業は先進的なテクノロジー企業にとどまらない。金融や製造、通信といった各業界を代表する企業が導入を始めており、中でも金融機関の導入数が多いという。例えばみずほ証券は、外部委託と内製、AIの活用比率を1対1対1にする戦略を掲げ、AI活用の柱の一つとしてDevinを大規模に利用している。

 中堅・中小企業への広がりも見え始めた。パートナーがDevinを再販し、顧客の内製チーム立ち上げを伴走支援するパターンに加え、パートナー自身がDevinを活用して開発成果物やサービスを顧客に届けるパターンも増えている。

 後者は「結局アウトソースのままでは」とも思えるが、正井氏は「これまで手掛けられなかったプロジェクトに着手できたり、これまでとは比較にならない速さで新しいサービスを提供できたりと、顧客への価値提供はかなり大きい」と話す。最近では内製チームを持たない企業から「外注先のSIerにDevinを紹介して、使ってもらえるようにしてほしい」という要望まであるという。

「いくら使ったか」ではなく「どれだけの価値を生んだのか」

 AIによる開発が広がる一方で、トークンコストの増大は多くの企業が抱える悩みだ。人月ベースのシステム外注費からAIへの従量課金へと支払いの形が変わる中、企業にとって最適なIT投資の形はどのようなものか。正井氏は「私自身も明確な解はないが、今どの顧客とも議論になっている」と明かす。

 Devinはタスクごとに最適なモデルを自動で選別し、軽いタスクには軽量モデルを、複雑なタスクには高性能なモデルを使い分ける。ソフトウェア開発に特化した自社開発の軽量モデル「SWE」の利用割合も増えているという。「全てのタスクに最上位のモデルが必要なわけではない。タスクごとに最もパフォーマンスの高いモデルとコストを使い分けることが、これからとても重要になる」(正井氏)

 Cognition AIは、Devinが実施した作業が人月換算でどの程度のワークロードに相当するかを計測するエージェントを既に実装している。さらに、Devinが提供した価値が利用料金を下回った場合に保証する取り組みも発表した。「いくら使ったかではなく、どれだけの価値を生んだのかを示すべきだ、という業界への問題提起だ」と同氏は語る。

Devinの提供価値を工数換算で計測する機能(出典:正井氏の投影資料)

 正井氏はかつて、米Pivotalの日本法人代表として、顧客の内製チームの立ち上げを支援した経験を持つ。「どんなに先進的な開発プラクティスを移植しても、最終的には顧客側の組織や人事評価制度、マインドセットがボトルネックになるケースが多かった」と同氏は振り返り、「開発の大部分をエージェントに任せられるDevinは、顧客側に内在する課題にも具体的な解決策を提供できる」とアピールした。

 AIエージェントは、構造的な課題を抱える日本のIT業界をどこまで変えるのか。Devinの日本市場での動向はその試金石になりそうだ。

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この記事の著者

村田知己
村田知己

ITmedia AI+ 編集記者。市場調査会社でのエンジニア職を経て、2022年アイティメディア入社。キーマンズネット編集部、社内のデータ分析基盤構築担当、ITmedia エンタープライズ編集部を経て現職。

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