Gemini“ヘビーユーザー”が1年で10倍に 「平均年齢高い、IT本業じゃない」首都高が実践したAI活用推進ノウハウ

 企業による生成AIの導入は増えたが、配ったツールが現場に定着せず「導入しただけ」になってしまう企業もあるだろう。

 首都高速道路株式会社(以下、首都高)では、月100回以上「Gemini」を利用する従業員が、2025年2月の22名から26年2月には224名へと増加。7割超の従業員が1日当たり30分以上の業務効率化を実感しているという。何が転機となったのか。「Google Cloud Next Tokyo '26」のセッションにて、首都高の鈴木佑哉氏(DX推進室 DX推進課 課長代理)がその軌跡を語った。

首都高の鈴木佑哉氏(撮影:筆者)

「ITは本業ではない」 DXが自分ごとにならなかった3つの前提

 首都高は05年10月に首都高速道路公団から民営化され、25年に20周年を迎えた。首都圏の高速道路の建設や維持管理、運営の他、駐車場や休憩所の運営、道路以外の社会インフラ整備事業なども担う。

 DX推進体制も段階的に整えてきた。21年にDX推進室を発足させ、23年に首都高グループのDXビジョン、24年には具体施策を定めた「DXアクションプログラム」を公表。施策の対象も建設やメンテナンスから、交通情報や顧客向けサービス、人材育成へ広がった。

 しかし、体制が整ったからといって従業員の意識が変わるとは限らない。毎年の全従業員向けアンケートには、「DXが重要であることは分かるが、自身のメリットにつながるという実感が湧かない」といった声が多く寄せられていた。

 鈴木氏は、従業員の平均年齢が高い(43.9歳)こと、ITが本業ではないこと、そして安心・安全を最優先とする事業特性から、DXのような変革が起きにくい環境だったと振り返る。

動画研修では変わらない 対面・終日のワークショップへ

 そんな同社にも生成AIの波が押し寄せた。25年1月、首都高が利用していた「Google Workspace」のプラン内で、入力データが学習利用されない形でAIモデル「Gemini」を使えるようになり、ほぼ同時期に「Gemini Notebook」(旧「NotebookLM」)が登場したのだ。これを受けて同社は25年4月、GeminiとGemini Notebookの機能説明、デモ、ハンズオンを行う「DX研修」を開いた。

 ところが、従来のDX推進施策と同様、生成AIもなかなか浸透しなかった。研修後のアンケートでは若手従業員から、「正直、自分の仕事で何にどう生成AIを使えばいいか分からない」との声もあったという。そこで同社は以下の3つの取り組みを実施した。

 1つ目が「誰一人取り残さない」全社レベルでの推進だ。デジタルに強い一部の従業員が使い込むのではなく、全員が一定レベルまで使えることを目標に据えた。

 「生成AIを既に多くの業務で使っている従業員にさらに使ってもらうよりも、まったく使っていない従業員に使ってもらう方が簡単で、業務効率化の効果も大きいと考えました」と鈴木氏は振り返る。

首都高が定めた生成AI活用レベル(出典:鈴木氏の投影資料)

 2つ目が、対面かつ終日のワークショップだ。GeminiとGemini Notebookの機能を網羅し、業務で高頻度に発生する、効果の大きいユースケースをハンズオンで扱った。DX推進課のメンバーが講師を務め、グループ企業を含めて全23回、合計約500人を対象に実施した。

 3つ目が、局長・部長級を対象としたワークショップだ。現場の従業員が生成AI活用を進めるには、上司の理解が欠かせないと考えたためである。約50人が参加し、参加者からは好評を得たという。

7割超が1日30分以上を実感。平均は48分の効率化

 これらの見直しが転機となり、冒頭に示したように、月100回以上Geminiを利用する社員は10倍に増えた。月間アクティブユーザー数もほぼ100%に達したという。

 26年5月の社内アンケートで「仮に生成AIが使えなくなった場合、同じ業務量をこなすのに1日の業務時間がどの程度増えるか」を尋ねたところ7割以上の従業員が「30分以上」と回答し、平均は約48分だったという。

首都高におけるGemini活用の成果(出典:鈴木氏の投影資料)

 ここまで急速に利用が広がった要因として鈴木氏が挙げたのが、Gemini Notebookの存在だ。鈴木氏はGemini Notebookの強みとして、1)ソースをアップロードするだけで使えること、2)ソースに基づいて回答を生成し引用元も分かること、3)機能やユースケースが多様で、文書作成やFAQにとどまらず、動画やスライドの作成にも使えるといった点を挙げた。これらのメリットがITツールに苦手意識を持つ従業員にも刺さったと分析する。

社内規則のFAQから社史のドラフト作成まで 首都高のGemini活用例

 では、首都高ではどのようにGemini Notebookを使っているのか。鈴木氏は活用事例を5つ挙げた。

  • 社内規則や技術要領のFAQ: 社内の規則や技術要領をGemini Notebookに読み込ませ、カテゴリー別ノートブックを作成して全社で共有
  • 社史や工事誌のドラフト作成: 民営化20周年を機に社史を作る際、過去の社史や作成ルール、直近の取り組みの会議資料をソースにドラフトを作成
  • 運用ルールの教育と現場視察対応: ETC専用の入り口を設けることで料金所の運用が変わるため、スタッフ教育用の動画を既存のマニュアルから作成。多言語にも対応し、外部からの視察者向けの説明動画にも使用
Gemini Notebookで作成した動画のイメージ(出典:鈴木氏の投影資料)
  • アンケート結果の資料作成: DX研修後に「Googleフォーム」で集めた結果を「Googleスプレッドシート」形式でアップロードし、スライド作成機能で社内共有用の資料を作成
Gemini Notebookで作成した資料のイメージ(出典:鈴木氏の投影資料)
  • 難解な資料の比較: 自社と他社の決算資料やガイドライン、技術要領を読み込ませ、相違点などを分析

 また、こういった活用例を社内に広め、横展開を促すために「生成AI活用ケース集」を整備。現在、自社業務での活用方法が約100例まとまっており、全従業員が投稿できる形になっている。

生成AI活用ケース集のイメージ(出典:鈴木氏の投影資料)

 Geminiの利用実績はダッシュボード化し、部署ごとの状況まで可視化。優れたアイデアを表彰する取り組みも始めた。

 鈴木氏は、生成AI活用が従業員のDX推進に対する意識醸成を促したと振り返り、企業におけるDX推進・AI推進活動について、「推進担当者が、泥臭く、しつこく、熱意を持って取り組むこと。その上で、従業員の小さな成功・感動体験を積み重ねていくことが重要です」と強調した。

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この記事の著者

編集:村田知己
編集:村田知己

ITmedia AI+ 編集記者。市場調査会社でのエンジニア職を経て、2022年アイティメディア入社。キーマンズネット編集部、社内のデータ分析基盤構築担当、ITmedia エンタープライズ編集部を経て現職。

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