相次ぐ情報漏えい、攻撃側のAI活用「間違いない」 防御側はどう使うか 傾向と対策を大手ベンダー各社に聞く
タイムズカーの免許証画像を含む情報漏えいやIDCFクラウドのランサムウェア被害など、第三者のサイバー攻撃によるセキュリティインシデントの報告が後を絶たない。
チームみらいの安野貴博党首が、攻撃者が高性能なAIモデルを使用している可能性を示唆するなど、今回のインシデント増加が攻撃者によるAIの利用によるものだとする指摘もあるが、実際、サイバー攻撃はどの程度増えていて、AIが増加を助長しているといえるのか。
これらの点に関してITmedia AI+は大手ITベンダー各社に取材。日立製作所(以下、日立)、アクセンチュア、日本IBM(以下、IBM)、社名非公開のベンダーの4社から回答を得た。追加で回答があった場合は本稿に追記する。
本当に攻撃は増えているのか?
そもそも、日本企業を対象としたサイバー攻撃は本当に増えているのか。直近約1カ月で、各社の観測・対応の範囲で、国内の攻撃や被害がそれ以前より増えているか聞いたところ、「増えている」とする回答もあれば、「攻撃が増えているという明確な証拠はない」という回答もあり、見解が分かれた。
日立の具志香菜子氏(Cyber CoE シニアコンサルタント)は「増えている。個別の件数は開示を控えるが、AIの進化により脆弱(ぜいじゃく)性の公表から悪用までの時間は数週間から数時間へと縮まり、攻撃の量・速度ともに一段上がったと捉えている」とした。
アクセンチュアの藤井大翼氏(サイバーセキュリティ 日本リード)は「SOCやIRの対応件数も増加するなど、肌感としては増えている」としつつも「日本独自で統計データを取っていないため、具体的な数字は示せない」とした。
一方、IBMの担当者は「直近1カ月に発表された事案が多い印象はあるが、それらが直近1カ月に発生した攻撃によるものなのか、それ以前に発生した事案がこの時期に公表されたものなのかを区別して判断することは困難」とし、公表件数のみをもって攻撃動向を評価することは難しいと指摘している。
社名非公開のベンダーも「顕著な攻撃増加は観測されていない」とし「9月以降、日本企業による不正アクセスなどの被害報告は70件を超えており報告ベースでは件数が増えて見えるが、7~8月の侵害も含まれていること、侵害されたプラットフォームサービスの影響を受けた各社が個別に公表することで数が多く見える側面がある」とした。
被害増加にAIはどう関係しているか?
攻撃者がAIを活用する危険性が繰り返し指摘されているが、直近の日本で起きているこの惨状もAIが関係していると言えるのだろうか。
日立の具志氏は「個別の事例は申し上げられないが、攻撃側がAIを活用しているとみて間違いない」とし、「防御側もAIを活用して守らなければ追いつけない」「1社で抱え込まず、防御側の連帯が重要」と呼び掛けた。
アクセンチュアの藤井氏も「当社の脅威情報チームでも複数の事案でAIエージェントに関連したケースを確認している」とし、「攻撃者がAIを利用することで攻撃のスピードが上がっているほか、攻撃者が人ではなくAIエージェントを中心とした侵入プロセスにシフトしている」という見解を示した。
IBMは「今回の一連の事案においては、手口を公表した企業がごく少数で、公表された事案からも攻撃者がAIを利用した痕跡は確認できていない」とした一方で「フロンティア級のモデルをクラウドAPIで安価に利用できる現状があり、もはや攻撃者がAIを使わない理由はない」とした。
社名非公開のベンダーもAIの利用は「断言はできない」としつつも「被害報告はインターネットからアクセス可能なWebシステムに目立っており、システムの構築ミスや脆弱性探索にAIが使用されたかもしれない」とした。同社は「こういったWebシステムは各企業で独自に設計されていることが多く、これまでは攻撃コストで見逃されていた弱点を突かれた可能性がある」とも指摘している。
企業はまず何を対策すればいいのか?
このような状況で、企業が優先して取り組むべき対策は何か。各社の回答を整理する。
守るべき対象の明確化
日立の具志氏は「事業継続のために止めてはならない『コア』を理解し、守るべき資産と監視対象を見える化したうえで、アセスメントにより対策の優先順位を明確にすること」が重要だと指摘。IBMも「保有資産を正確に把握し、守るべき対象を明確にすること」に優先的に取り組むべきだとした。
基本的な対策の徹底
IBMは「パッチ適用をはじめとする、基本的なセキュリティ対策の徹底」を推奨。また社名非公開のベンダーも「公開するWebシステムや保持データを必要最小限に絞るなど、基本的な対策をまずは確認すべき」とした。
アクセンチュアの藤井氏は過去のインタビューで、AIが高度な攻撃を広範囲に可能にしているというより、もともと存在した「簡単な標的を大量に見つけて突く」攻撃をさらに効率化している現状を指摘している。まずは「簡単な標的」にならないことが出発点になる。藤井氏は今回の取材でも、Webサービスやインターネットの出入り口など外部に接する部分(アタックサーフェス)のセキュリティを網羅的に把握し、「認証方式の妥当性と脆弱性の有無を確認のうえ、速やかに対処する」こと、不審な通信や異常な振る舞いの有無を継続的に監視することを挙げた。社名非公開のベンダーもASM(アタックサーフェスマネジメント)による攻撃面の把握を有効な手段とした上で、「AIを使うことで、セキュリティ対策をおろそかにしてしまうリスクが高まっている」と警告している。
侵害を前提とした備え
防御を固めても、侵入を完全に防げるとは限らない。日立の具志氏が最初に挙げた「事業継続のために止めてはならない『コア』」の理解も、守りの目的を事業の継続に置く考え方だ。
アクセンチュアの藤井氏は、インシデント発生を前提としたプレイブックの策定や体制構築など「サイバーBCP(事業継続計画)を完ぺきな形でなくとも早期に策定し、訓練を実施する」ことを勧める。防御策は当然の前提としつつ、現時点ではレジリエンス強化を優先すべきだという。委託先に渡したデータを過去分も含めて洗い出し、契約終了後の破棄状況まで含めて委託先のセキュリティ状況を点検することも挙げた。
防御へのAI活用が有効な場面
では、こうした対策を進める上で、AIはどこで役に立つのか。4社の回答を並べると、有効性を見込む領域と、その温度感には違いがある。
日立の具志氏は「AIは大規模なコード解析など、人手では追いつかない規模と速度が求められる場面で威力を発揮する」とし、日立の検証では脅威モデルの作成を「数週間から数時間に短縮した」という。アクセンチュアの藤井氏も、脆弱性診断やソースコード診断でAIエージェントを活用したサービスが登場し、「従来は人手によるツール操作で数週間から数カ月を要していた作業が、短いケースでは数日で完了するまでになった」と具体的な効果を挙げた。
IBMは「セキュリティ戦略の策定からシステムの堅牢(けんろう)化、脅威管理まで幅広い領域で有効」とみる。特に高い効果を期待する分野として「SOC(セキュリティオペレーションセンター)における脅威の監視・分析」「AIを活用した脆弱性の検出・評価」「リスクベースでのパッチ適用の優先順位付けや意思決定」の3つを挙げた。
社名非公開のベンダーは、より慎重だ。企業が独自に構築した固有のアプリケーションについては「AIを利用した脆弱性診断が有効となる側面もある」と述べるにとどめた。
一方、AIに任せきれない部分はどこか。IBMが「リスクベースでのパッチ適用の優先順位付けや意思決定」をAIの有効領域に挙げた一方で、日立の具志氏は「最終的なリスク判断には人間の専門家が不可欠」だとし、「AIと人財の融合こそが次世代の防衛の要(かなめ)」と語った。
社名非公開のベンダーが指摘したのは、技術ではなく経営の問題だ。「対策の実施や停止などは各企業の経営に関わる問題だ。この意思決定・経営判断が円滑に動作していないと、AIの防御活用も宝の持ち腐れになりかねない」とした。藤井氏も、経営者から「防御力強化とレジリエンス強化、どちらを優先すべきか」と問われる機会が増えているとしており、何を守り、何を止めるかの判断が経営の仕事になりつつあることがうかがえる。
4社の回答から浮かび上がるのは、「AI時代の特別な対策」というより、守るべき対象の把握、公開範囲の最小化、パッチ適用、そして侵入された後の備えという、従来からの基本の徹底だ。その上で、人手では追いつかない規模と速度を補う手段としてAIを取り入れることが重要だと思われる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia AI+に関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「日本の勝ち筋は計測にある」 東北大がノーベル賞・田中耕一氏と挑む「精度1000倍」の限界突破
-
2
ChatGPT、無料版を含む全ユーザーに「GPT-6」 回答内に“操作できる画面”を生成する「Intelligent UI」搭載
-
3
止まらない不正アクセス、背景にAIの“超高速攻撃”か 識者「使われていない方が不自然」
-
4
AI“狂騒の半年”を振り返る Mythos公開、Fable停止、GPT-6登場――翻弄されない“堅実なAI導入”の鍵は
-
5
Googleが「Gemini 4 Argon」発表 “10カ月の沈黙”を破り、AI開発競争の首位奪還へ
-
6
約1.9kgで3000億パラメーターのLLMをローカル実行、日本HPの最新モバイルWS
-
7
バイブコーディングで作った公開中のWebアプリ、9割に脆弱性 MSの研究者など調査
-
8
ArmのCSS for Mobile 2はPC向けの伏線!? Neoverse CSS N4はAGI CPUと競合せず
-
9
「異常な事態」、AI悪用は「否定する方が難しい状況」──多発する情報漏えいにセキュリティ専門家が合同で見解 攻撃の特徴と対策方法は
-
10
2026年のAI開発最前線――「AIによるAI開発」から今後は再帰的自己改善「RSI」へ
SpecialPR
ITmedia AI+ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmedia AI+をフォロー
あなたにおすすめの記事PR