「日本の勝ち筋は、計測にある」
東北大学(仙台市)と島津製作所(京都市)は10月1日、分析計測技術の高度化に向けた研究拠点「異分野融合計測イノベーションセンター」(CICMI/シクミ)を共同で開設した。共同研究機関は5年間で、両者は計15億円を拠出する。
最大の目玉は、現在の「1000倍」もの精度を誇る質量分析技術の開発と、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏(島津製作所 エグゼクティブ・リサーチフェロー)が母校・東北大の国際卓越教授に就任したことだ。田中氏は学生への講義、学生・若手研究者への研究開発、ノウハウの助言をすることで次世代を育てる。
「引退前に、もうひと花咲かせたい」と語る67歳の田中氏が、次世代の若手とともに挑むのは、病気の超早期発見やグリーン領域に革命を起こす「見えないものを見る」技術の限界突破だ。経済安全保障を支える共通基盤にも位置付けられる「計測」を武器に、日本は世界の頂点に立てるのか。産学連携の枠を超えた、国力強化への挑戦が始まる。
東北大の青葉山と星陵の両キャンパスに新設されたCICMI。なぜ今、東北大と島津製作所は巨費を投じて新たな拠点を築くのか。その背景には、計測技術が日本の「経済安全保障」を左右するという強烈な危機感と期待がある。
政府は高市政権下の7月に、AI・半導体、創薬・先端医療、防衛など官民で重点投資を進める「戦略17分野」を定めた。こうした先端技術の全ての基盤となるのが、この「計測」だ。今回CICMIは「ソフトレーザー脱離イオン化法」や「MEMS」(微小電気機械システム)の開発を目指す。
要するに「タンパク質などの重要な分子を壊さずに分析し、半導体技術を応用した超小型センサーによって病気の『超早期発見』を実現する技術」だ。医薬や食品、さらにはグリーン領域に至るまで、これまで見えなかったものを“見える化”することで、新たな産業を創出し、世界をリードする狙いがある。
日本には長年培ってきた「複雑なものを分離し、微量なものを検出し、同定する」という世界屈指の技術基盤がある。東北大の総合知と島津製作所の技術を結集し、この強みを極限まで伸ばそうというのが、CICMIの野心的な目標だ。
具体的には、たんぱく質など高分子をできるだけ壊さずにイオン化してその質量を分析する装置「MALDI-TOF MS」の高度化を図る。計測品質の目安となる「有用な信号成分と妨害となる雑音成分比率」(S/N比)を、現在より1000倍に高めるという限界突破に挑むのだ。
東北大の金子俊郎非平衡プラズマ学際研究センター長は「病気の早期発見には、ごく微量のバイオマーカー(生体指標)を捉える必要があります。日本には、複雑なものを分離する力、微量なものを検出する力、それらは何であるかを同定する力など、そういうものに対する強い技術基盤があります。この強みを伸ばすことが日本の科学技術と産業競争力の強化につながります」と説明する。
精度が1000倍になれば、極めて微量なバイオマーカーを検出でき、感染症や疾患の超早期対応という医療イノベーションが起きる。さらに、膨大な計測データから意味ある情報を抽出するため、AIも組み合わせて社会実装を加速させる構えだ。
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