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「10兆円ファンド」支援対象の東北大、若手臨床医の研究を支援 狙いは?

» 2024年12月21日 05時00分 公開
[今野大一ITmedia]

 東北大学は2025年4月1日、若手の臨床医研究者(フィジシャン・サイエンティスト)が研究に注力できる環境を提供するため、同大学内に「SiRIUS」(シリウス、医学イノベーション研究所)を開設する。同大は6月に、政府が創設した10兆円規模の「大学ファンド」の支援対象となる国際卓越研究大学(卓越大)に認定。シリウス設立も卓越大としての取り組みの一つで、診療や教育に忙殺される若手研究者が研究に専念できる環境を整備することで、医学研究をけん引する人材育成と医療イノベーション創出を推進する狙いだ。

 12月17日に開催した記者会見で冨永悌二総長は「フィジシャン・サイエンティストの育成を目指して、シリウスを創設できたことは画期的だと考えています。日本の医療アカデミアがさまざまな課題を抱えている中で、今後の方向を示す一助にしてもらいたい」と話した。

東北大学の冨永悌二総長(撮影:河嶌太郎)

臨床や教育といったマルチタスクから解放 ハーバード大副学長もアドバイス

 近年、バイオテクノロジー、医療工学、情報科学などの急速な発展により、医療は高度化と専門化がますます進んでいる。このような変化の中で、臨床医の視点を持つフィジシャン・サイエンティストは、医療イノベーションをけん引する鍵となる存在として期待されている状況だ。だが大学の臨床系教員は、複雑化する診療や教育業務に追われる一方で、研究に十分な時間を確保することが困難な現状がある。こうした背景から、医学・医療分野における研究力の維持・向上が喫緊の課題となっている。

 シリウスは、臨床現場を熟知し、研究志向の強い若手フィジシャン・サイエンティストが、診療や教育などのマルチタスクから解放され、研究に専念できる環境を提供する医学研究所だ。若手研究者が独立して斬新なアイデアに挑戦できる場を重視し、東北大学病院の各診療科と連携して、医療現場の課題やニーズに即した成果を還元する体制を構築した。

 研究所長には片桐秀樹教授が就任。研究者は東北大学の外部からも積極的に登用する方針で、近く公募を開始する。研究者は当初5人からスタートし、5年後には30人以上に増やしたいとしている。任期は6年の予定だ。

 豊富な経験を有するメンターとチームを組織し、独創的な研究に対する国際的評価や競争的資金の獲得を支援する。東北大学病院臨床研究推進センター(CRIETO)による臨床試験、知財戦略、スタートアップ支援など、多面的なサポート体制も整備されている。革新的なアイデアが生まれる環境を提供し、世界最高峰のフィジシャン・サイエンティストの育成と医療イノベーションの創出を目指す。

 国際アドバイザリーボードメンバーとして米ハーバード大学副学長兼最高技術開発責任者であるアイザック・コールバーグ(Dr.Isaac Kohlberg)氏も招聘する。年に数回は来校してもらい、研究成果の実用化や国際戦略といったマネジメント面でアドバイスを受けるという。将来的には、事業化を支援するためにVC(ベンチャーキャピタル)投資などを積極的に活用できる仕組みや、新規スタートアップの支援なども手掛け、グローバルな展開(国際共同医師主導治験、米国への事業展開)も視野に入れている。

主要なキャリアパス

 東北大学は、「研究第一」と同時に「実学尊重」を理念に掲げている。冨永総長は卓越大の認定が決まった際に「大学が産業界と連携してイノベーションを生むことが大事」だとコメントした。

 シリウス設立後のビジョンを聞くと、冨永総長は「まずは研究をするんだということを考え、将来的な出口として、企業やスタートアップとの連携などいろんなことを考えていかなければいけない。そういう出口、支援するスタッフを十分にわれわれは準備できると考えています」と話した。卓越大の「次の一手」に注目だ。

左から冨永悌二総長、SiRIUS研究所長の片桐秀樹氏、理事・病院長の張替秀郎氏

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