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XIIIの秘密〜プログラマブルシェーダを使わなくてもできる効果的な表現(1/2 ページ)

» 2004年03月19日 21時56分 公開
[トライゼット西川善司,ITmedia]

XIII(サーティーン)とは?

 3月13日、UBI SOFTから「XIII(サーティーン)」の完全日本語版が発売された。詳しいゲーム内容については4gamer.netの筆者執筆のゲームレビューを参照して欲しいが、簡単にここでも紹介しておこう。

 「XIII」はフランスの同名の人気コミックを3Dゲーム化した作品で、欧米ではPC版のほか、PS2、GC、Xboxといった家庭用ゲーム機版もリリースされている。「フランス漫画ゲーム化作品がなぜ日本で?」という声もあるが、実は次に紹介するような事情を考えていくとUBI SOFTジャパンがこのゲームを日本で展開する判断も納得が行くはずだ。

 本国フランスでは、コミック人気を受けて好調なセールスを記録したXIII。エンターテインメント性満点で洗練されたゲーム内容とユニークなビジュアルが高く評価され、毎年ロンドンで開催されるヨーロッパ最大のゲームショー「ECTS」の2003年度では、ベスト家庭用ゲーム機ゲーム賞を受賞しただけでなく、「DOOM3」や「Half-Life 2」を抑えて総合ベストゲーム大賞も受賞。二冠達成という快挙を成し遂げた。

 この、ヨーロッパでの人気を引き継ぐ形で米国とカナダでもまずまずのセールスを記録。フランスとは順序が逆だが、ゲーム人気を受けて原作漫画の評価も高まってきている。このように、全世界的にXIIIというゲームタイトルは「成功」を収めているわけで、「これを日本でも」という流れはむしろ自然…というわけだ。

 ゲーム内容はオーソドックスな主観視点の3Dシューティングゲーム、いわゆるFPS(First Person Shooting:第一人称シューティング)のスタイルをとっている。しかし、競合が多いこのタイプのゲームにおいて、ここまで高い評価を獲得できたのは「コミック人気」以外の理由がある。

 理由の一つは、その独特なビジュアル表現にあるとみていいだろう。セルシェーティング(トゥーンレンダリング)技術を3Dグラフィックス表現に採用。サウンドも音が鳴るだけでなく、そこに効果音を文字化した「描き文字」をちりばめるといった、原作が漫画であることを逆手に取った「コミックライクなビジュアル演出」を徹底しているところが異彩を放っている。

 大統領暗殺の容疑を掛けられたXIIIの「入れ墨」を持つ記憶喪失男の、数奇なインポッシブルなミッションで綴られる逃亡劇……、というストーリーラインにも手に汗握るものがある。

 さて、ゲームの説明はここまでにして、本題である、XIIIのビジュアル表現の秘密に迫ってみたいと思う。なお、本稿はUBI SOFTフランスの開発スタッフからのお話を元にしていることをあらかじめお断りしておく。

UBI SOFTフランス「XIII」開発チームのオリバー・ドウバ氏(左)とダミエン・モレト氏(右)。記事内で示しているスライドは両氏から提供していただいたものだ

まず初めに漫画ありき

 「XIII」は80年代にフランス全土で650万部というセールスを記録した大人気少年漫画で、Moret氏によれば「当時のフランス少年はみんな読んでいた」という。1980年代に大流行し21世紀にゲーム化されて再び人気を博すあたり、日本でいうところの「北斗の拳」とか「ドラゴンボール」などに当てはまるのだろうか。

 XIIIのゲームプロジェクトがスタートしたのは約3年前。リリースまで意外と時間がかかっている。開発スタッフはXIIIを全巻読み直し、さらには世界中の漫画を読みあさり、「漫画らしいビジュアルとは何か」について議論を重ねたのだという。なんだか、その「議論」とはただの漫画マニアの井戸端会議なのではないか……、と邪推してしまうが、とにかくその研究(!?)の末に到達した「漫画らしい表現」として、

その1:大写しページの中にはポッアップされたサブコマが配置され、この中には別視点の状況が描かれる

その2:擬音が、その音を発した場所付近に描かれる

その3:ディテールを省略したコントラストだけのタッチで印象的なビジュアルを挿入することがある

その4:人物が、現実ではあり得ないような、かっこいい、もしくは過激なポーズを取る傾向にある

その5:暴力表現が派手なわりに、流血表現は簡素な場合が多い

 という、彼らなりの仮説が導き出せたのだという。なお、紙の上に描かれた(印刷された)漫画の1コマ1コマは基本的に時間の経過を表すが、3Dゲームの場合はゲームの進行こそが時間経過になる。ディスプレイに表示されているゲーム画面そのものが漫画の1コマであるため、画面上にコマ割りを行って時間経過を表現することは、後述する一部の表現を除けば「ゲームでは不要」という解釈になっている。

 上記のオリジナル仮説をインプリメントしていくことで漫画版XIIIのイメージを壊さずゲーム化できると考えたXIII開発チームは、この表現を実現するための技術開発に乗り出すことになった。

 なお、XIIIは「原作漫画がスパイアクション物」「メインマーケットが欧米」ということもあり、ゲーム化にあたっては「FPS」というゲームジャンルを採用することに、それほど抵抗はなかったようだ。「主人公が画面にほとんど登場しない」FPSは、日本ではあまり人気がないわけだが、このあたりはズバリ「お国柄の違い」というものだろう。

サブコマに別視点映像を入れる……というアイディアは3Dグラフィックスを採用することで難なく実現できる
ゲームそのものはオーソドックスなFPSスタイルで、誰にでもカジュアルに楽しめる内容。この春一番のお勧めFPSだ。
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