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コラム
» 2004年10月21日 11時50分 公開

薄型テレビの普及は、STBの一体化をもたらすか?

テレビは薄型が標準となりつつある一方、続々と登場する新サービスを利用するのに必要なセットトップボックス類の数が増え続けている。薄型テレビの魅力はデザインの良さと場所を取らないという点にあり、今後は異なるサービス用のボックスも一体化していくことが必要になるだろう。

[西正,ITmedia]

 プラズマテレビや液晶テレビといった薄型のデジタルテレビの販売が好調だ。今後は薄型テレビが標準となっていくことは間違いないだろう。薄型テレビがこれだけ急速に受け入れられているのは、そもそもデザインが良いことに加え、大画面でも場所を取らない点が日本の居住環境に適しているからだ。

 テレビは部屋のコーナーに置かれるケースが多いが、ブラウン管型のテレビなら21インチを置いていたスペースに、薄型ならば32インチが置ける。ブラウン管型で33インチを置けたスペースに、薄型なら50インチが置ける。こういったように、大画面化すればするほど、スペースに余裕ができることが“薄型”ならではの魅力となっている。

 だが、薄型テレビとはいっても、薄型になっているのはディスプレイ部分だけで、チューナー機能などが収まっているセットトップボックス(STB、以下ボックス)は外付けになっている。ディスプレイも大画面になれば、キャスターの付いた専用台の上に置かれることになるので、このボックスはキャスターに収まるようになっている。

 とは言え、外付けのボックスをあまりにたくさん接続してしまうと、キャスターの中も一杯になる。せっかくの薄型テレビのデザインが台無しになるどころか、スペースを取らないという魅力も薄まってしまう。

増え続ける“ボックス”

 ところが、現状の流れからすると、ボックス類は増える一方である。

 まずはレコーダー(録画機)がある。アナログのVTRからデジタルのHDD付きDVDレコーダーに買い替えられる動きが加速しており、出荷台数も逆転するそうだが、ここでボックスが一つ必要になることに変わりはない。

 さらにはCATV経由で放送を受信している世帯では、CATV用のボックスが必要になる。日本の視聴世帯の5割強がCATV経由で放送を受信しており、ここでボックスが必要になるケースは多い。

 標準的に売れている薄型テレビの大半が、三波共用機となっているため、地上波デジタル、BSデジタル、110度CSデジタルのチューナーは内蔵されている。だから、そのためのボックスは必要なくなった。しかし、CATVのベーシックチャンネルのラインナップには満足できない世帯では、スカパー!を直接受信することになるから、スカパー!のボックスがさらに加わることもありえる。

 また、ブロードバンド系の事業者が提供しているIP放送を受信するためにも新たなボックスが必要だ。VODサービスを利用するだけでもボックスが必要になることに変わりはない。

 すなわち、一台で三波を受けられる薄型テレビが標準になっているにもかかわらず、新たなサービスが登場する都度、それを利用するために必要となる“ボックス”の数も増えていっているのが現状なのだ。

求められるボックスの一体化〜スタートはHDDから?

 外付けのボックスを接続するためにテレビ側に付いている端子の数にも限界がある。そうなると接続するボックスも取捨選択しなければならなくなるが、新たに登場してくるサービスの数々を享受することを、「ボックスがつなぎ切れない」という理由であきらめるのも残念な話だ。

 最も望ましい解決策として、いくつかのボックスの機能を一台に集約し、ボックスの数を減らすことだろう。

 単純に考えれば、蓄積機能自体を他のボックスと一体化させることは、今後の趨勢として一般化しそうだ。DVDレコーダーにHDD機能がセットされていることも当たり前のことになっているし、スカパー!のチューナーにもHDD機能がセットされる方針も発表されている。さらには、CATVのSTBにHDD機能が搭載されるのも時間の問題のようだ。もちろん、サーバ型放送が開始されれば、サーバ機能がテレビに内蔵されるかもしれない。そうなればHDD関連のボックスが減るが、それまで待ってもいられないだろう。

 また、松下の「Tナビ」に見られるように、テレビにイーサネットが標準装備され、ネット機能をテレビ画面上で利用するスタイルも一般化していく可能性がある。そうなると、IP系のサービスをどれか一つのボックスに集約して利用することも、難しいことではなくなるだろう。CATVのSTBに付加価値を付けようという発想では、単にHDD機能を載せるだけでなく、VODを利用できる機能も追加するのが標準的になっていきそうだ。

メーカーは機能の統合に乗り出せるか?

 ただ、ボックスの統合には課題もないわけではない。

 色々と新しいサービスを享受したいと考えるユーザーにとっては、テレビやどれか特定のボックスに、さまざまな機能が一体化されることはありがたいことだろう。しかし、その一方で使いもしない機能が標準装備されることにより価格が上がることを望まないユーザーも多いに違いないからだ。

 そうかと言って、メーカーの立場からすると、シンプルな機器と多機能型の機器を別々に用意しなければならなくなると、それ自体が価格を上げる要因になる。両者を用意するよりは、使うかどうかは別にして多機能型の機器に一本化し、大量生産に持ち込みたいだろう。

 ただ、それで話は終わらない。わが国の家電メーカーは、国内のみならず海外も含めた市場を相手にしている。このため、海外での需要がなさそうな機器を作ることには、乗り気にならない傾向があるとされる。そして、海外市場ではシンプルな機能の機器の方が売れると言われている。色々と複雑な機能を搭載しても、それを購入して使いこなそうと考えるのは日本人くらいのものだ、という経験則がメーカー側にはあるようだ。

 そう考えると、ボックスの一体化で利便性が増すと考えること自体、日本人的な発想なのかもしれない。だが、それを言うのなら、日本で薄型テレビが急速に普及していることも、日本の居住環境の悪さに理由がある。ボックスの統合化も決して市場性のない話ではない。

 また、多機能型のボックスを開発していくことは、必ずしも市場を国内に限定することになるとは限らない。ボックスの数を減らすこと自体が、全体としてのテレビ周りをシンプルにすることにつながるからだ。後は操作性を改善すれば済むことだろう。

 しかしながら、家電メーカーの間では、二つの機能を一体化して成功したのはラジカセだけ。後はすべて失敗に終わったということが“ジンクス”として語られている。これが単なるジンクスではないとすると、しばらくはテレビ周りのボックスは減りそうもない。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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