シリコンバレー発「日米をつなぐ」働き方――渡辺千賀さん達人の仕事術(2/2 ページ)

» 2006年12月20日 14時31分 公開
[吉田有子,ITmedia]
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「ヒューマン2.0」とシリコンバレーの働き方

渡辺さんの著書「ヒューマン2.0」

 12月に発売された著書「ヒューマン2.0」は、第7章がポイントだと渡辺さんは話す。現在シリコンバレーで生まれている新しい働き方を紹介した部分だ。

 3年間休暇もろくに取らずに働いたあと、1年休んで世界を放浪したり、小説を書いたりといった働き方をする人は「チャンクワーカー」と呼ばれる。ライフスタイル重視の働き方をする人は「ライフスタイルワーカー」だ。例えば、渡辺さんの知人に「好きな場所に住んで仕事をしたい」というプログラマーがいる。半年に1回くらい営業活動のためにシリコンバレーに戻ってくるが、それ以外の時期はスペインの孤島など、世界中の好きな場所に行って仕事をしている。このような人たちは、シリコンバレーでは決して特殊ではない。

 「シリコンバレーは大転職社会です」と渡辺さんは話す。ここでの1社平均滞在期間は3年弱。この中にはアップルコンピュータのような大企業で10年以上働いている人も含まれているから、3年同じ会社で働いているというと「長い」という感覚だ。

 自分から辞めるだけではなく、会社側からクビにされるリスクもある。そこで、夜は友人の会社で働くなどの副業を持つ人も多い。「シリコンバレーの企業で部下を持って働いているのに、副業として車で“通勤”して物乞いをする人までいますよ。街角に立って手を出しているだけで最低賃金より稼げるんだそうです(笑)」

 転職だけではなくフリーランスも多い。「人事部長のような役職の人もフリーだったりします。人事部長の場合、事務作業はせず決断するのが仕事なので週2日しか出社せず、そのときにまとめて意思決定する、とか。社長業ですら、短期的に社長を引き受け、会社を売るのが仕事という人がいます」

 その分、転職した人やフリーランスの人がすぐに働けるように、会社組織のあり方がどの企業もほとんど同じで、役職の名前も統一されており、職種については細かい専門分化が進んでいる。

 「米国人って応用が利かないんですよ。たとえ時流に乗っていなくてもこれをやるんだ、という狭い分野の専門家がいます。それに、自分で実行はせずにノウハウ・アイデアだけを売るコンサルタントも多くの分野にいるんですよ」

 例えば、庭師は庭の樹木を剪定するが、庭師コンサルタントは、気候などを踏まえて自宅の庭をどのように整備したらよいか助言する。ペット探しコンサルタントは、いなくなったペットを家族で探すために「ビラを300枚刷って配るとよい」などとアドバイスする。受験コンサルタントは、有名大学に入りたい生徒の学業とボランティアなどの課外活動のバランスを見てどの部分を伸ばすべきか助言するのだ。

 米国では専門知識を持って行動もしてくれる人の時給はとても高い一方、知識はないが言ったとおりに動いてくれる人は安い。従って「米国では、コンサルタントに短時間でアイデアを聞き、言ったとおりに動いてくれる人に安く頼むことで費用対効果の高いビジネスができます」。

ポリシーは「人がしないことをする」

 渡辺さん自身は、どのような選択をして現在の仕事をすることになったのだろうか。

 「人がしないことをする」をポリシーに、東大を卒業後、まず“男の会社”というイメージの強かった三菱商事に就職した。

 「三菱商事の社員は、エリート意識や『この超一流の場所から出たら生きていけない』という幻想を持っている人が多いように感じていました。辞めてみたらそれは幻想だったことが分かりましたが、辞めるまでにはすごく勇気が必要でした。マッキンゼーという別のブランドがあったから転職できたのだと思います。いきなりベンチャー企業に行ったりするのは怖かったんですよ」

 ビジネスの基礎は三菱商事時代に学んだものが大きい。商社は人に会うのが仕事であり、ある事業がどうやって生まれたのか、成り立ちに触れることが多い。そうやって話を聞いていくと、「世の中って結構いい加減に動いているんだな」「特に深い陰謀があるわけではなく、偶然とか成り行きで決まっている部分が多いな」と感じ、「これなら自分にも参加する余地がある」と思えた。

 その後働いたマッキンゼーでは、逆に徹底して分析することを学んだ。人に説明して分かってもらうのはとても大変な作業だということを実感した。例えば「御社の若手社員は不安を持っています」という一言を説明するために、その会社の全国の支店にいる若手社員200人にインタビューし、アンケートを取って結果を分析するような仕事だった。

 「まずスポーツをやってみて、その後にスポーツ理論を学ぶようなものですね」

 渡辺さんは、三菱商事在籍中にスタンフォード大学ビジネススクールにてMBAを取得している。米国出張をしたとき、スタンフォード大学の近くを訪れ、同大学に社費留学中の人に会ったのがきっかけだ。この人がジーンズにスニーカー姿で出てきたのを見て、それまで考えていなかった留学をしたいと思った。出張から会社に戻ったら机の上に社費留学の申請書類があり、記入して提出したのがちょうど応募の締め切り日。

 「当時は27歳で、このまま仕事してどうするんだろう、結婚するんだろうか、でもその相手もいないし……などと悩んでいた時期でもありました」と当時を振り返る。

 「最初から『MBAを取ろう』という目的で準備を進めたわけではありません。でも、当時女性営業職がいなかった三菱商事に入社して働くことで自分の厚みを増していって、あるときチャンスが来たらおっちょこちょいな感じでパッとつかむ。これが大事だと思います」

プロフィール
お名前 渡辺千賀(わたなべ・ちか)
経歴 東京大学を卒業後、三菱商事、マッキンゼーなどを経て、2000年からシリコンバレーに在住。現在はコンサルティング会社「Blueshift Global Partners」の社長として、日米の技術系企業の事業開発専門コンサルタントをつとめる。
PC デスクトップ:デル「E510」
ノート:シャープ「Muramasa PC-MM2-6ZA」、東芝「Dynabook SS 3380V」
Muramasaは普段デスクトップの外付けHDとして利用、出張時に抜き取って持ち運び。Dynabookは食卓にあり、Webブラウズ専用。
携帯電話/PDA(データ通信カードを含む) Treo650
デジタルカメラ ニコン「D70」「Coolpix S1」、オリンパス「4040」(水中マクロ用)
ブラウザ Firefox
収集ツール(RSSリーダーなど) Googleデスクトップ:リーダーとして以外にも、Todoリストをちょっと書いたり、Webで見つけたことをちょちょっとメモったりするにも愛用。
メールクライアント Thunderbird
インスタントメッセンジャー Google Talk、Skype、Windows Messenger (時々)
ファイル整理ツール(デスクトップ検索を含む) Googleデスクトップ
バックアップツール 特になし(普段のメインはデル「E510」で、そのメインHDDをMuramasaと設定。バックアップをE510のHDDにコピー、プラス時々マニュアルでDVDを焼く)
検索サイト Google
Webメール Gmail、Hotmail、米スタンフォード大学の卒業生用メール
ブログ Typepad(写真はFlickrにアップロード)
SNS LinkedIn、mixi、GREE
ソーシャルブックマーキング del.icio.us (ちょっとしか使っていませんが)
Wiki 運営しているNPO、JTPAのスタッフ連絡用サイトでWikiを利用。Wikiのシステムが何かはわかりません。スタッフのメンバーが地道に書いているようです。
影響を受けた人/本/Webサイト リエンジニアリング革命―企業を根本から変える業務革新」理系だったけれど、経営も面白いと思えるようになった本です。
座右の銘 Nobody can take advantage of you unless you let them. (「誰かにひどいことをされた、利用された」と被害者ぶった文句を言うのではなく、「誰にも私を悪用させない」と主体性を持つ――のような意味)
手帳/ノート Palm Treo650
ペン 「ゼブラ Sarasa 0.7」愛用。黒々としたノリ、ソフトな書き心地が好き。なくしても後悔しない(というか、なくしたことにすら気づかないので快適)
その他小物(ICレコーダ、ポストイットなど) 1)横3センチくらいのちいさな付箋を愛用。ToDoはまずここに。2)Plantronicsのbluetoothヘッドセット。アメリカのビジネスコミュニケーションの主体が「電話で話す」なので。運転中でもすぐ電話が取れる。3)USBメモリを複数。もらい物が多く、ほとんど使い捨て状態。

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