可能性に挑戦する“待ち時間のすごし方”樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

何かをしながら何かをする「ながら学」。今回は筆者である樋口氏の現在に至る“ながら”をご紹介しよう。アイデアマラソン発想法のきっかけともなった「待ち時間のすごし方」とは──。

» 2007年07月12日 23時35分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 35年前ほどにアイスランドに行ったことがある。氷河や白夜といった美しい景色も素晴らしかったが、本当に驚いたのは当時の人口が約15万人(2006年1月現在30万人)だったアイスランドが大国と同様に一国としての機能をしっかり持っていることだった。

アイスランド共和国の国土と国旗(外務省のWebサイトより引用)

 15万人というと東京・台東区(2007年1月現在約16万7000人)よりも少ない。だが電力会社を初め、航空会社、放送局、ホテル、教育機関などどこの国にもある組織や会社がきちんと揃っている。大人が実質的な労働力を担っているとすると、実際に働いているのは数万人程度。「これで国家を運営していけるんだ。すごいなあ」と感心した。

 こんな国では1人の人間がほかの役割も兼務していかないと、やっていけないはずだ。女性も積極的に仕事していたし、男女関わらず複数の仕事をこなしている人もかなりいるのではないか。少ない人数の場合、複数の仕事を両立させる“ながら”も必要になるのだ。日本も少子化が叫ばれている。有能な若者の数はさらに少なくなってしまうという予測も出ている。そうなると仕事と趣味ではなく、ある仕事をし“ながら”ほかの仕事をする──仕事を兼務する時代がくるかもしれない。

“待たされエッセイ”が転機に

 商社に勤務した筆者は約20年間、海外駐在を経験した。仕事では現地のお客相手に面談する。これが実に待たされるのである。いつも2〜3時間は待たされた。この時間に当初は読書していたが、読む本が尽きるとエッセイを書き始めた。

 思い付いた発想を書き出してはエッセイに──。待たされながらも、イライラする自分の気分をなだめていたものである。今となっては、待たされるとさっとノートを取り出す。そんな癖が身に染みついたのも、待たされ続けたからだろう。“待たされエッセイ”も相当溜まった。

 そんな時、会社に関係する専門紙から週刊連載を頼まれた。忙しいビジネスパーソンであれば断ることも多いかもしれない。筆者は軽い気持ちで、待たされエッセイを送ったのである。このエッセイが面白いとの評判を得るから不思議なものだ。

 ついには書籍として出版に至った。もちろん会社の許可も取った。これが商社マンとエッセイストの二足のわらじを履くことになったきっかけだ。短い時間があったらノートを取り出し、どこでも原稿を書く。細切れ時間があれば数十分でも何か書く。アイデアレベルだって構わない。ノートかPCさえあれば、筆者に待たされる時間はなくなったのだ。

“ウルトラながら”で生き甲斐を発見

 「待たされた時にエッセイを書く」の発展型が、現在の仕事である独自の発想法「アイデアマラソン」のきっかけだ。23年間継続して、定年退職した後は本業になってしまった。「ながら」の主客が転倒したわけだ。

 今ではアイデアマラソン研究所を運営しながら、いくつかの大学で教壇に立ち、企業の研修を請け負っている。研究所では、発想法だけでなく独自のものづくりを開始しているから、自称ではあるが「ながら多角経営術」とでも呼ぶべきか。

 新人たち、若者たちにアドバイスできるのは、正しいながらの手法を身につけて、遠い未来に備えることだ。すぐにその未来がくるのだが。長期的な“ながら”は、生き甲斐と関係しているのかもしれない。筆者の場合、“ながら”で気付かなかった自分の可能性に挑戦できたので、定年後の生き甲斐につながった。“ながら”は「生き甲斐発見ツール」かもしれない。

勝手に認定──ながら有名人
お名前 ながらの内容
小椋佳 歌手、作曲家、作詞家。1993年に退職するまで銀行マンをしながら音楽活動を行っていた。
堺屋太一 元官僚、作家、評論家、元経済企画庁長官、内閣特別顧問。1960年に通商産業省入省。在職中の1975年に経済小説「油断!」、1976年には「団塊の世代」を発表している。
司馬遼太郎 作家。産経新聞社在職中、「梟の城」で1960年に直木賞を受賞。
反町康治 元プロサッカー選手、現北京オリンピックサッカー日本代表監督。全日空の社員契約ながらJリーグの試合に出場したことで「サラリーマンJリーガー」と呼ばれる。

 ながら有名人のように、会社員でありながら自分の可能性に挑戦して、まったく別のことも実現できるはず。会社に通いながら作家、投資家、政治家、先生、作曲家など。なんだったら、全部やってみるといい。会社員で、作家で、投資家で、発明家で、大学院で学びつつ、子供たちを5人育てて、歌でも歌うくらいの“ウルトラながら人間”に挑戦すると、必ず生き甲斐を発見できるだろう。

今回の教訓

読書に飽きたら、書く側に──。何でもチャレンジする気持ちが大切だ。


何をしながら、何をする?――面白い“ながら”を教えてください

 連載・樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」では、皆さまからの面白い“ながら”アイデアを募集します。ご応募いただいたアイデアで、優れているものは記事中でご紹介するほか、2008年版「ポケット・アイデアマラソン手帳」(技術評論社、8月末発売予定)をプレゼントさせていただきます。奮ってご応募ください。

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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら


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