雨にも負けず、眠気にも負けず――「マイカフェ」で1週間に500アイデアを発想する樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

アイデアを出すにはリラックスできる空間が必要だ。例えば喫茶店。何も言わなくても普段頼んでいるコーヒーが出てくる――そんな居心地の良さが重要である。筆者の場合、ドトールでもベローチェでも、何も言わなくてもエスプレッソコーヒーが出てきた。完全に“マイカフェ化”していたのだ。

» 2008年02月08日 21時00分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 ここ数週間、毎朝自分のための知的な時間を持つように勧めてきた。朝を活用すれば人生が変わる。若いのだから眠気と闘えと言ってきた。記事への反響もいただいている。その中には「子供がいたらこんなの不可能」とも書かれていた。

 その通りだ。昔を思い出した。十数年前の現役商社マン時代、我が家にはウシ、タヌキ、ネコというあだ名の“3匹”の息子たちがいた。動物のあだ名は、動物愛護の立場からの樋口家の家訓(その1)。朝からガタガタ騒がしく、家にいたのでは自分の知的思考時間を持つことはかなわなかった。

 筆者は朝5時45分ほどに起きて、お茶漬けなどを朝食にして、子供たちが学校に出かけるはるかに前、朝6時20分ころに家を出ることにしていた。子供たちの世話はヨメサン頼みかというとそうではない。我が家の家訓(その2)は「朝食はそれぞれ自分で用意し、好きな時間に食べるべし」――である。筆者も学齢期の子供たちも、自分で作った朝食を食べて、仕事や学校に出かけていた。子供たちは、自分でお弁当まで作っていたものだ。

 家から会社までの道のりは約40分。7時5分には会社の近くのドトールかベローチェに到着していた。始業は朝9時。朝7時5分から8時55分までの約2時間は筆者の時間である。この時間に実行していたのが、「アイデアマラソン」だったのだ。

「マイカフェ」の作り方

 本筋に行く前に大事なのは準備。喫茶店であってもリラックスできる空間にする必要がある。例えば、何も言わなくても普段頼んでいるコーヒーが出てくる――。そんな居心地の良さが重要だ。実際、ドトールでもベローチェでも、筆者がカウンターの前に立つと、何も言わなくても、エスプレッソコーヒーが出てきた。完全に“マイカフェ化”していたのだ。

 マイカフェ化する秘密の方法を特別に伝授しよう。喫茶店では通常、交代で注文を受け付けるカウンターの担当者(多くは可愛い若い元気一杯の女性たち)がいる。このカウンター担当者に顔と注文を覚えてもらうのである。まずは、同じ店に少なくとも2週間は連続して通う。

 マニュアル通りでは「ご注文は……」と尋ねてくる。覚えてもらうまでははっきりと聞きやすい発音でオーダーを伝える。「エスプレッソ、ソロ、ミルクだけ、シルバー(スプーン)なし」。2〜3週間ほど通うと、こちらも相手の顔を覚えてくる。

 ――数日後、お客の少ない時を狙う。顔を覚えたカウンター担当者に「ご注文は何を……」と尋ねられたら、こう答えよう。「毎日来ているけれど、私がいつも注文するコーヒーが何か覚えている?」。すると、「ああ、エスプレッソ、ソロ、ミルクだけ、シルバーなし、じゃないですか?」と答えてくれるかもしれない。答えてくれなかったら、またしっかりオーダーしよう。答えてくれたら、ここからが重要だ。

 「エライ!」。カウンターのほかの店員に聞こえるようにはっきりと言おう。「あなたはお客の顔と注文を覚えているんだ! すごくエライ」と叫ぶ。ニコッと笑う店員がとても可愛い。「私が注文するのはエスプレッソだけだから、顔を見たら用意してくれていいよ」と言い切るのだ。

 筆者だって、その瞬間は恥ずかしい。しかし、自分の思考の砦を造るために敢えて実行する。誉めた店員の愛想もがぜん良くなる。悪い気持ちにはさせていないはずだ。これを2〜3回やれば、間違いなく「エスプレッソ、ソロ、ミルクだけ、シルバーなし」が自動的に出てくるようになり、マイカフェの完成だ。気分は最高!

 毎日毎朝、雨が降ろうと風が吹こうと、数年間通って同じ場所に座った。筆者が店のドアを開けて入っていくだけで、エスプレッソコーヒーの準備が始まった。店員は何も言わないで、暖まったカップをエスプレッソマシーンにさっと置くのだ。

店員とのコミュニケーション例
1 同じ喫茶店に数週間通う。
2 カウンターの店員の顔を覚えたらタイミング
3 店員にクイズを出す。
4 当たったら「ピンポン!」と誉める。
5 外れても気にしない。「今度からXXでいいよ」と言う。
6 これを数度同じ店で繰り返す。

朝の時間、まずはできる範囲から

 さて、席に着くと今日の予定を再度チラッと見る。朝起きた直後(朝6時前)と、喫茶店に入った7時すぎ、そして仕事の開始直前の9時前の3回、筆者は予定をチェックをする。結構、神経質なのだ。

 朝一番の予定がないことを確認したら、だいたい朝7時10分ごろになっている。ここからアイデアマラソンの時間だ。アイデアマラソンは筆者が1984年に考案したオリジナルの発想法。「毎日、何かオリジナルの発想を最低一つ考え、ノートに書き込み、できる限り、まわりの同僚や友人や家族に話をする」というものである。発想には、仕事の発想だけでなく、自分自身の生活や人生の思いつき、疑問、エッセイのネタ、面白いダジャレ、回文、コンセプト、予定、期待、夢などなんでもいい。

 マイカフェの居心地のよさもあり、1999年ごろから1週間で500個の発想を書き留められるようになった。1日70個以上書く計算だ。もちろん最初は1日に1個書くのが精一杯だったが、人間慣れると何でもできるようになる。どんなに遅くまで残業をしても、夜飲み会があっても、筆者は早朝の時間だけは自分のために使ったのだ。ただし、最近は体力の限界を感じて1日50個に減らした。何事も無理はいけないのである。

 読者の中には筆者のように5時台に起床するのは難しいと思うかもしれない。2時間の余裕を作れないビジネスパーソンもいるはずだ。であれば以前説明したように、朝40分だけでも自分の時間を持ってはいかがだろう。慣れてくれば、もっと自分の時間を長くしていくことにすればいいのだから。さあ、明日の朝から人生を変えよう。

今回の教訓

マイカフェ、マイマック、マイ定食屋――。


著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

好評販売中の「ポケット・アイデアマラソン手帳'08」。1年間に1000個のアイデアを書きとめよう

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら


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