“社内劇団”で全員参加のロールプレイ――新人からベテランまで効果アリ樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

新人が配属されたり、中途採用の増員があると、「お一い、みんなでまたロールプレイをやろうよ」と、おねだりしていた。「ロールプレイは新人のため」という名目で、営業担当全員のブラッシュアップができるからだ。

» 2008年03月14日 09時30分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 新人研修向けの“劇団による公演”の評判が良かったので、調子に乗った筆者は営業部員による全員参加の劇団を作ることにした。

ロールプレイのもう1つの狙い

 通信関係のサービスを販売する営業部だったので、営業マンは形のないものを販売しなければならない。モノを売るのであれば、現物を相手に見せればいいが、サービスは形がない。新人たちも営業トークに困るというものだ。そこで、いかに担当するサービスを営業するか、すなわち売り込むかを教え込むために筆者は、「営業のロールプレイを見せれば、理解しやすいのではないか」と発案した。「みんなそれぞれ熟練の営業トークを見せてやってほしい」

 このロールプレイにはもう1つの狙いがあった。筆者の営業部では、売り込むためのセールストークをきちんとそろえていた。だが問題は、それをどれだけ順守しているか、あるいは自分のスタイルに取り込んでいるか、またはからかけ離れた話をしているか、不明だったことだ。

 筆者が同行すれば、どのように話しているかが分かるので修正を加えるように言えるが、部内に数十人いる営業マン全員の話を聞くのは難しい。そこで会議室を借りて、全員でロールプレイを開催することにした。「何で我々全員でなきゃいけないんですか」とゴチャゴチャ言う者もいた。筆者の思うところでは、ゴチャゴチャ言う者こそロールプレイが必要なのだ。だから「先輩としての模範を見せなきゃ」と押し通した。

ヒートアップするも、営業の実態を観察

 近所のコンビニからおにぎりとソフトドリンクを数十人分購入して、会議室に集まった。配属されて1週間も経っていない新人たちも2人参加した。彼らだって大事な“キャスト”であり“観客”だ。

 早速、売り込み側とお客側の第1チーム2人を決めた。あいさつと名刺の交換から始まって営業開始。売り込み側は懸命にセールスポイントを訴え、客側は意地悪な質問や回答で逃げを打とうとする。

 1組のロールプレイが終了すると、今の2人の応答についてみんなでレビューした。と言っても、なかなか発言が出てこないので、まず筆者が率直にコメント。結構辛口だったと思う。すると、「そこまで言うのか」という顔をする。

 筆者のポリシーは、仕事に関しては誰もが自由に発言できること。だから、部長である筆者に対しても、例外ではなかった。筆者が出演したロールプレイにも、厳しいコメントを付けてくる。「お前ら、100年の恨みを晴らすように俺のロールプレイにケチをつけるんだな」と苦笑いさせられた。

 だんだんヒートアップすると、年齢や経験の差はなくなってくる。もう、芝居か本気か分らなくなるのだ。そのうち、「最後ぐらい、もう少しハッピーエンドで締めくくってくれ」と言っていても、「ご購入お願いします」「今は買えません」などと堂々巡り。いわゆる“千日手”になってしまい収集が付かなくなることもあった。

 営業部員全員でロールプレイをしてみると、よく分かったが、セールストークにかなりの「3レ(ブレ、ズレ、モレ)」があるということだった。決められているセールストークやセールスポイントから離れて説明しているケースがかなりあることも分かった。

営業担当全員の底上げに効果アリ

 5年、10年の経験を誇る営業担当から見れば、ロールプレイをやらされることは嫌だったに違いない。自分の営業スタイルに厳しいコメントが付くと、激論になることも何度もあった。しかし全員にとって、ロールプレイは大いに参考になったはず。新人たちにとっても強烈な研修であり、相当驚いたに違いない。目の前で、ロ八丁手八丁の先輩たちが、自論をふりかざし激論をしているシーンは、ほかでは見られない迫力だっただろう。

 全員でのロールプレイは初めてだったが、「定期的にロールプレイを実行しなければいけない」と痛感した。筆者は、新人が配属されたり、中途採用の増員があると、「お一い、みんなでまたロールプレイをやろうよ」と、おねだりしていた。「ロールプレイは新人のため」という名目で、営業担当全員のブラッシュアップができるからだ。

劇団結成の効果
1 性格把握 性格がモロに出るため
2 仕事の参考 やりあっているのを見るのは人ごとと思えず、参考になる
3 一体感醸成 徹底議論をしながらも、妙な一体感を持てる
4 自信獲得 ハッピーエンエンディングで、自分のやり方に自信を持てることもある
(ロールプレイは、ハッピーエンドで終わることが大切)

今回の教訓

ゴチャゴチャ言いながら、こっそりネタを仕込んでる人――いるよね。


関連キーワード

アイデア(発想) | 研修 | 出版 | やる気 | 人材


著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

好評販売中の「ポケット・アイデアマラソン手帳'08」。1年間に1000個のアイデアを書きとめよう

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ