既存事業が好調だとしても、いずれは成熟し、ついには縮小する。1つの事業では限界がやってくるのだ。だから、ビジネスパーソンには新しいビジネスを発想するチカラが必要だ。でも、新しい事業のアイデアなんて、そうそう思いつけるわけない……。いや、それは違う! 実は、あなたの事業のすぐ隣にも、新事業のアイデアはたくさん潜んでいるのだ。
筆者はときどき、苦しいアイデア会議に出席することがある。「経営学のフレームワークで分析的に考えたり、ブレインストーミングも試したけれど、いいアイデアが出てこないんですよ」とクライアントは言う。確かに彼らは「顧客や業界のしがらみが強く、自社だけで変革はできない」「イノベーションが期待できそうな新しいトピックが全然見当たらない」など、厳しい状況にある。
しかしそんな状況でも、必ず、新事業アイデアを引き出すことは可能だ。「はてなタクシー」という事例から、新事業アイデアを見つける発想法を考えよう。
名称 | 人数 | 道具 | 長所 |
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はてなタクシー | 個人、チームの両方可 | 紙とペン | “新事業アイデア”を見つけるのに有効 |
今回、一連の連載とは順序を変えて紹介したい。忙しい読者は2ページめをクリックして、メソッド部分へ飛んでほしい。順序を変えてまで、読者に特に紹介したいのは、この発想法を紹介した書籍についてだ。
書名 | 著者 | 監訳 | 発行 | 出版年 |
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『スウェーデン式アイデア・ブック』 | フレドリック・ヘレーン | 中妻美奈子 | ダイヤモンド社 | 2005年 |
この本は、アイデア出しの初心者に、ぜひ読んでほしい1冊なのだ。筆者は人から「アイデア出しのために、何かいい本は?」と聞かれると、いつもこう答えている「加藤昌治氏の『考具』とフレドリック・へレーン氏の『スウェーデン式アイデア・ブック』です」と。
どちらの本にも共通する2つの魅力がある。
この『スウェーデン式アイデア・ブック』はポップで柔らかい紙面デザインと簡単な語り口で、1時間もあれば読めてしまう。それでいて、中には重要なことがたくさん書いてある。一部を挙げると、
などなど。創造という作業にとって重要なことが、さらりと書いてある。全部で30のことが書いてあり、あなたが重要だと感じることは筆者とはまた別のことかもしれない。ぜひ一度手に取ってほしい。
今回、記事にするにあたり、スウェーデンにいる監訳者(中妻氏)に連絡を取り、快く了解をいただいた。この連載では通常、発想手法を記事用に短く要約したものだけを紹介しているが、今回の「はてなタクシー」というメソッドについては、まず書籍の記述から引用しよう。
はてなタクシー 基本的な条件を取り除く
新しいアイデアを考える方法として効果的なのは、ある活動に要求される基本的な条件を書き出し、そのうち1つを取り除いてみることです。
スウェーデンの首都、ストックホルムのタクシー業界を例に考えてみましょう。タクシーの運転手に要求される基本的な条件は、(1)道路に詳しく、(2)車の運転ができる、の2つです。そこで、(1)の条件を除くことにします。
ストックホルムでは、タクシー運転手がいつも不足気味で、それがタクシーの台数不足、ひいてはタクシー待ちの長い行列(非常なイライラ)につながっています。一方で運転免許証のある、タクシーを運転できそうな失業者は大勢います。問題はタクシーカード(タクシー運転許可証)を持っていないことでした。
ストックホルムでタクシーカードを取得するには、市内はもちろん、周辺のほとんどすべての通りに詳しくなければなりません。難しい試験に合格する自信がなく、最初からあきらめてしまう人がほとんどです。そこで「はてな(?)タクシー」を売り出してみてはどうでしょう。一見、普通のタクシーですが、タクシーカードを取得してない見習いドライバーが運転するものです。
「はてなタクシー」は予約を受け付けられません(指定の場所までたどり着けるか分からないので)。しかし、通りで拾えます。だいたい、タクシーを利用する10回に9回までは、行き先も道順も分かっているものです。そんなときに利用しましょう。運転手に道順を教える代わりに、通常料金の8割で乗車できるというシステムです。
「はてなタクシー」のメリットはたくさんあります。まず、タクシーの台数が増える。通常のタクシーは事前予約を増やせます。「はてなタクシー」の運転手は給料をもらいながら道を覚えられるし、そのあとで試験に挑戦して「本当の」タクシー・ドライバーになることもできます。
これは、基本条件を排除してみると、よいアイデアが得られるかもしれないというたとえ話です。さて、もう1つの条件(車の運転ができる)を取り除くとどうなるでしょう。
引用:はてなタクシー『スウェーデン式アイデア・ブック』(P10)
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