自分が好き? 居場所はある? 「幸せ」を実感するための3つの条件「アドラー心理学」的処世術(1/2 ページ)

「アドラー心理学」をご存知ですか? 今までお伝えしてきたスキルやノウハウのベースである「平本メソッド」の根幹です。今回はアドラー心理学についてお話ししていきます。さっそく幸せの条件について見ていきましょう。

» 2008年07月31日 12時30分 公開

 アドラー心理学は、私が20年以上前から学び、私のカウンセリングやコーチングのベースになっている考え方です。今まで当サイト内で、いろいろなスキルやノウハウをお伝えしてきましたが、すべてこの心理学がベースになっています。「平本メソッド」の根幹といってもいいでしょう。

 アドラー心理学には大きく、「思想」「理論」「技法」の3つの範囲があります。特に「思想」と「理論」を中心に、4回にわたり順を追ってお話ししていきます。初回は「思想」を見ていきましょう。


編集部注:「アドラー心理学」とは?

「個人心理学(Individual Psychology)」の通称。ユダヤ系オーストリア人の心理学者アルフレッド・アドラー(1870〜1937)と、その後継者たちによる心理学の「思想」「理論」「技法」を指す。


人が人を支配しないヨコの関係――根っこの「思想」は「共同体感覚」

 人間の幸せの条件として、アドラー心理学では「共同体感覚」が大事だと考えています。次回以降お話しする「理論」でもこれが重要事項なのですが、実はちゃんと定義されていません。ニュアンスとしては、「一人ひとりが自分らしく、しかもお互いが協力し合える関係」という感じのものです。

 あえて言えば、人間がヨコの関係として付き合える状態、人が人を支配しない関係とでもいいましょうか。誰かが誰かの上に立ったり下に立ったりしない関係です。大人と子供でも、女性と男性でも、国籍が違っていても、です。

 今でこそ当たり前の考え方ですが、アドラーが生きていた19世紀後半から20世紀前半は、女性の参政権が認められていない国も多く、子供が道具のように売り買いされていた時代です。この時代背景からは、共同体感覚は非常に危険だったはずです。しかし、アドラーは心理学に共同体感覚という「思想」を持ち込みました。ここが彼のすごいところです。

心理学にないはずの「思想」を、アドラーが掲げた理由

 「思想」とは、「コレが正しくてアレは間違っている」とか、「コレが幸せでアレは幸せではない」という考え方や態度のことですが、普通、心理学で「思想」を持っているものはほとんどありません。

 というのも、心理学は心の科学ですから、「思想」を持ってしまうと科学でなくなるからです。科学とは、原理を説明するもの。「そうやったら、あなたは不幸ですよ」「そうやらなければ、あなたは幸せですよ」とは言いません。

 なぜ、アドラー心理学があえて科学であることをやめて、「思想」を取り入れたのでしょうか。これには理由があります。

 後ほど具体例で説明しますが、カウンセラーがクライアント(患者)にカウンセリングするにあたって、「自分の価値観を押し付けない。つまりヨコの関係でカウンセリングしてください」としておかないと、知らず知らずのうちにカウンセラー自身の見方や考え方による色眼鏡で相手を見たり、カウンセラー自身の価値観をクライアントに押し付けて、カウンセリングがうまくいかなくなってしまうからです。クライアントに対してカウンセリングするときは、相手の価値観に基づくという『態度』もセットで行います。


「私もあなたも好き」で「貢献する」と幸せに?

 共同体感覚についてもうちょっと詳しくみていきますと、強いて言えば、次の3つの条件が満たされていると、共同体感覚があるといえます。

1.自己受容:自分が好きだと思えて、自分にOKを出せる状態のことです。

 例えば、ビジネスの能力があり、大手企業で高収入をバリバリ稼いでいるのに、自分のことが好きになれずに不幸な人もいます。これを読んでいる方の中にも、「自分なんて……」と思っている人がいるかもしれません。ちょっと極端な話ですが、ホームレスなのに、自分がすごく好きでハッピーな人も、私は見てきました。ですから、能力や稼ぎ、社会的地位があるかどうかが、必ずしも幸福の条件ではありません。

2.他者信頼(所属感):自分だけでなく、他人にもOKを出せる状態のことです。

 自分にOKは出せても、他人にOKが出せなかったらダメです。会社の上司や同僚、部下、家族など、「まあ、信頼できる」「妻とはよく喧嘩するけどOKだ」くらいなら大丈夫なのですが、これが、「コイツらは敵だ」とか、「上司は私をダシにして売り上げだけ上げようとしているんだ」となってしまうと、どれだけお金を稼げるとしても、すごく居づらいですね。他者信頼がないと、所属感がなくなります。

 よく、学校にツッパリやおどける子がいますが、彼らの行動は所属感を求める行動なんですね。勉強ができない、スポーツもできない、ルックスもいいわけじゃない。でも、騒いでいると、「あいつ、うるさいな」と注目を浴びる。

 これは、ポジティブな内容で所属感を得られなかったら、せめてネガティブなもので所属感、「自分はいるんだぞ」というものを得たいという態度です。家庭でも職場でも、所属感が得られなかったら幸せではありません。会社に行って、一応、仕事はあるんだけど……というような、いわゆる“窓際族”も幸せではありませんね。

 私の知り合いで、自分で会社を立ち上げて、かなりの大手に成長させた人がいます。しっかりしたシステムを作ったので、彼がいなくても会社は問題なく回ります。彼がアイデアを提案すると、「社長、もういいですよ」「今はできませんから(引っ込んでいてください)」という感じ。でも、会社は回って、お金も入る。彼は、自分のことが嫌いではないけれど、そういった状態に耐え切れなくて、会社を売ってしまったんです。自分の居場所がなくなってしまったんですね。

3.貢献感:自分が役に立っている感覚です。

 これがないと不幸です。例えば、こんなお年寄り。あるおばあちゃんに、自分が好きかと聞いたら、好きだと答える。お嫁さんは信頼できるかと聞いたら、信頼できると返してくる。でも、自分が何をしようとしても、「(私がやるからしなくて)いいよ」と言われて、役に立っている感覚がない。これは養護施設でもよくある話です。ヘルパーさんが、必要なことは全部やってくれます。でも、“私”は生きている気がしないのです。

アドラーの「思想」(=「態度」)

幸せの条件は「共同体感覚」=「人が人を支配しないヨコの関係」「協力関係」である。

  1. 自己受容:自分が好きだと思えて、自分にOKを出せる状態。
  2. 他者信頼:自分だけでなく、他人にもOKを出せる状態。
  3. 貢献感:自分が役に立っている感覚。

 ではなぜ、アドラーはこの「思想」に基づきカウンセリングしようと考えたのでしょうか。

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