「頑張りたい」「疲れたからやめたい」の葛藤はなぜ起こる?「アドラー心理学」的処世術(1/2 ページ)

仕事の成績を上げるため、頑張ろうと奮起する自分。疲れ果て、もうやめたいと悲鳴を上げる自分。そんな2人の自分を客観視する自分。内側で3人の自分が葛藤(かっとう)するのはなぜでしょうか? 分かれば気持ちがラクになるかもしれません。

» 2008年08月04日 14時07分 公開
[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]

 前回は、望まない環境に置かれた時に役立つ「想像的自己」についてお話ししました。今回は「目的論」と「全体論」について解説します。

編集部注:「アドラー心理学」とは?

「個人心理学(Individual Psychology)」の通称。ユダヤ系オーストリア人の心理学者アルフレッド・アドラー(1870〜1937)と、その後継者たちによる心理学の「思想」「理論」「技法」を指す。


アドラー心理学の全体図

原因を探し続けるより、目的に向かって考える

 アドラー心理学では、物事を「目的論(Teleology)」で考えます。より理解しやすくするために、反対の考え方「原因論」から説明しましょう。

 例えば、「子供時代にいじめられたから不登校だ」「子供時代に虐待されたから神経症だ」「砂糖を摂取しすぎたから精神障害が起きた」など、「原因論」では、何かが要因となってこうなったと考えます。しかし、その原因を探り出そうとすると、いくらでもそれらしい原因が見つかって切りがない。しかも、どれが本当の原因か分からなくなるんですね。

 そこでアドラー心理学では、原因を際限なく探し続けるより、目的に向かって考えようとします。症状を使って何を得ているのかを引き出し、その症状以外の方法で目的を手に入れることができたら、その症状をなくすことができる、と考えます。この考え方が「目的論」です。

 具体的な例を見ていきましょう。

夫の気を引くため、うつ症状を盾に

 30代半ばの女性の話です。彼女は数年、うつの症状を訴えています。

 「いつもゆううつだ」と彼女は言うのですが、特にひどい時がどんな時かを聞いて、その時の状況をありありと思い出してもらいます。

 先週の木曜日がひどかったとか、気分がめいって何も前向きに考えられなくなる、などと彼女は言います。その時どうしたか聞くと、「あまりにも耐えられないから、会社にいる夫に電話した」と答えました。ダンナさんはどうしたか聞くと、「それだけひどいんなら今すぐ帰ると言って帰ってきてくれた」と言うのです。そして「彼がしばらく寄り添ってくれて、少し落ち着いてきました」と。さらに私は、もしうつにならなかったらどうなっていたと思うか、聞いてみました。すると彼女は、「夫は普通に会社で仕事をしていたと思う」と答えたのです。

 きっとダンナさんに帰ってきてほしかったんですね。それでゆううつという症状を盾にした。彼女にそう指摘すると「そうかもしれない」と気付いてくれました。この女性の場合、うつがダンナさんの気を引く目的を果たしていたのです。

自分の希望をかなえるため、かんしゃくを起こす

 20歳の大学に通う女性の話です。彼女は気がめいっていて、部屋中、暴れ回ったり、物を引っくり返したりします。

 何か目的があるのかと聞くと、「そんなもの、ありません」と答えます。ところで、その後どうしているかを聞くと、「そういえば、先週も気がめいって暴れて、部屋中ぐちゃぐちゃにして、お母さんに電話した」と言います。その時、「私もうダメ。耐えられない。東京で、部屋もこんなに狭いし、気が狂いそう」と母親に話したそうです。そうすると彼女のお母さんは、「しょうがないわね。じゃあ広い部屋に移りましょう」と。そして彼女は広い部屋に引っ越した。

 彼女には「広い部屋に変えたい」という目的があったんですね。でも本人がその目的に気付いていなかったのです。

厳格な親に心配させるため、目の前でわざと髪の毛を抜いてみせる

 もう1つ、お話ししましょう。ある中学生の男の子は、自分で髪の毛を抜き続ける抜毛症という症状が出て、私のところへカウンセリングに来ました。

 抜毛した後にどうなるのか聞くと、「普段はうるさいお母さんがガミガミ言わなくなる」と言います。いつもは、かなり高圧的なお母さんなんですね。じゃあ、抜毛する以外で、お母さんにガミガミ言われない方法はあるかを聞いたら、彼は「ない」と答えました。

 そこで彼には、親元から離れて一人暮らしできるようになるまでは、抜毛しようと提案しました。ガミガミ言われるのはツラいから、お母さんがいる時だけ、できるだけツラそうな顔をして抜毛しようと。すると彼は「そうですね」と、納得しました。

 カウンセリングとしては、その1回で十分。この後しばらくは母親にカウンセリングに行けと言われて来ていたのですが、彼は楽しそうに遊んでいて、お母さんが来た瞬間にツラそうにする、という感じでした(笑)。

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