「教える」ことは、いかにうまく「説明」することだけでしょうか? 実は「説明」していればそれで「教えた」ことになるわけではないのです――。
「新入社員がやってくる──専門知識を教える技術」「実践! 専門知識を教えてみよう」などの筆者、開米瑞浩さんの新連載「プロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術」が始まりました。客先、上司、後輩を相手に、ビジネスパーソンがトーク術を駆使する場面は多々あります。実践的なテクニックをご紹介する予定ですので、ぜひビジネスに役立ててください。
すでに「昨年」のことになりましたが、12月13日にアイティメディアの会議室で「プロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術」というセミナーを開催しました。
その結果、分かったことがあります。それは、
ということです。
まあ確かに、複雑なことを説明しようとすると、とりあえず「必要なことを説明する」だけでも大変な労力を必要とするので、どうしてもそちらに目が向いてしまうのは無理もないのですが、かといって「説明」していればそれで「教えた」ことになるわけではありません。
ここでいったん「人間の基本的な学習モデル」を確認しておきましょう。
といっても私は教育学者でもないので別に学問を語る気はありません。あくまで私が経験的に理解したことをこの連載に合わせて整理すると、次の5項目になります。
まずは「前提知識」。例えば極端な例を挙げると、足し算引き算も分からないような幼児に2次方程式の解き方を教えるのは不可能です。どんなテーマを教えるためにも、それに必要な前提知識が多かれ少なかれ存在するわけです。したがって、「それをすでに知っている人だけ集める」か、あるいは「その場で必要な知識を与えてしまう」のどちらかの方法で、受講生の「前提知識」をしっかり固めておく必要があります。
次に必要なのが「設問」。要するに「問題を出す」ことです。例えば次のようなケースを見てみましょう。
ケーススタディ | |
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状況文 | (以下、音声で読み上げられるのを聞くことを想定してください)タケシ君がお母さんにお買い物を頼まれました。八百屋さんに行って大根を150円で買い、肉屋さんで豚バラ肉500グラムを480円で、酒屋さんでお醤油を300円で買いました。それから郵便局に寄って80円切手を10枚とハガキを5枚、最後にコンビニで300円の雑誌を買って帰りました。 |
設問 | タケシ君が4件目に行ったお店はなんの店ですか? |
これはお笑いのネタにも使われるような、ある種の引っかけ問題の一例ですね。ここで挙げたような「状況文」が読み上げられると、人はどうしても「合計金額を聞かれる」と思ってその計算をしながら話を聞きがちです。ところが最後に聞かれるのが「4件目に行った店はどこ?」ですから、そうすると、それまで一生懸命計算していた金額が何の役にも立たないだけでなく、逆にそのためにかえって「何件目にどこに行った」という記憶が薄れていることさえあります。
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