ケータイから手書き風の文字を入れた写真を簡単に投稿できる「携帯百景」。開発者のkimzoさんは以前、ブログなどへの画像アップロードが「面倒くさい」と感じていたという。そんな彼がたどりついたのは――。
ひとりで作るネットサービス第38回は、ケータイから手書き風の文字を入れた写真を簡単に投稿できる「携帯百景」を作ったkimzoさん(32)に話を聞いた。「インターネットを本格的に使い始めたのは2年ほど前」という彼が作ったサービスの狙いはどこにあったのだろうか。
「なんというか、すごく面倒くさくて……」。kimzoさんがはてなダイアリーで日記をつけ始めたのが1年ちょっと前。写真も入れたかったのでデジカメで撮ってはFlickrにアップロードし、その写真をダイアリーに投稿していた。それがとにかく面倒だったとkimzoさんは言う。
ちょうどそう思っていたとき、携帯を機種変更した。選んだのはNTTドコモのサイバーショット携帯「SO905iCS」。500万画素で、3センチまで近づいて撮れるマクロ機能も搭載していた。「これだ、と思いました。もうデジカメを持ち歩かなくていいや、と気付いたのです」。携帯で写真を撮ったらその場でFlickrにアップし、それからダイアリーに書き込むようになった。
「しかし、次第にそれも面倒だと思うようになったのです。写真を携帯からアップするだけでなんとかならないか、と考えはじめました」。もちろん世の中にはそうしたシステムがすでにあることをkimzoさんは知っていた。携帯で使うブログシステム、いわゆるモブログと呼ばれるものだ。携帯で写真を撮り、指定されたアドレスにメールするだけでいい。メールの本文にテキストを入れておけばそれも一緒に投稿される。
「そうしたモブログも見てみたのですが、多くはせっかく撮った写真が縮小されていたりして……。どうにもインパクトに欠けていると感じました」。携帯だけで投稿できる手軽さはそのままに、もっとインパクトのある演出はできないだろうかと考えた。
例えばポラロイドのようなインスタントカメラやプリクラがヒントになった。印象を強めたり、ライブ感を増したりするには、それらと同じように「写真に手書き文字を入れられたらいいのではないか」とkimzoさんは考えた。そうすれば写真のインパクトもぐっと強まり、写真だけで完成度の高いコンテンツが作れるはずだ。
フリーでエンジニアをしているkimzoさんは、プロジェクトの合間を使ってとにかくカタチにしてみようと思った。Javaが得意だったのでRuby On RailsライクなJavaのフレームワーク「Grails」を使い、1週間ほどでプロトタイプを作り上げたのだった。2008年4月のことである。微調整した後、6月に公開した。
最初はmixiで友達向けに告知してみた。友達が友達を呼び、1カ月経つころには100人ほどが登録してくれた。せっかく作ったのだからもっと多くの人に使ってもらいたかった。そこでGrailsの勉強会で発表するなどアピールしてみた。するとユーザーが1000人を超えた。今では3000人近い人が彼の「携帯百景」を毎日楽しんでいる。
kimzoさんは昔からネットに詳しかったわけではない。プログラミングも就職する時に覚えたぐらいである。「ネットを本格的に使い始めたのは2年ぐらい前でした。それまではメールや検索するぐらいで」。ただ仕事はJavaを使ったシステム開発を手がけている。就職したての頃はシステムインテグレータに勤め、その後ベンチャー企業での勤務も経験したが、今は「いつでも気楽に休みたいので」フリーのエンジニアをしている。
数カ月開発の仕事を請け負っては1カ月ほど休み、自分のやりたいことをやってみる生活をしている。「自分がやったことのないことをいろいろ試してみたいのです。良く言えば好奇心旺盛、悪くいえば飽きっぽいということでしょうが」。kimzoさんは笑いながらそう語る。
携帯百景の開発や運営でもさまざまな経験を積むことができた。ある程度ユーザーが集まってくるとユーザーの意見をもとに機能追加をしたりもした。
携帯百景は基本的に、メール本文に何か文章を書き込まずとも写真を添付して送信するだけで投稿できるし、写真に手書きメッセージを入れたい場合は本文にその内容を書けばいい。このほか件名に入力してコマンドを使えるようになっている。例えば、件名に「下」と入力して送信すると、本文に書いたメッセージを写真の下部に配置できる(通常は写真の上部に配置される)。実はこの「下」コマンド、ユーザーからの意見をもとに開発したのだった。
ユーザーと実際に交流することもできた。「コミュニティとして多くの人に楽しんでもらえている実感があります」とkimzoさんは口にする。2008年11月にはユーザー有志がオフ会まで開いてくれた。しかもkimzoさんの地元である京都だけでなく、東京でも同時開催となった。kimzoさんももちろん呼ばれた。
「なんかこう、有名人のように囲まれて写真を撮られましたね。ただ、うれしかったのですが、ちょうどそのころ仕事がデスマーチ中で……」。結局1時間程度しかいられなかったとkimzoさんは残念そう。筆者としても次回オフ会が開かれるなら、kimzoさんのデスマーチを回避できることを祈るばかりだ。
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